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追放ハイエルフと俗物剣士の世界放浪記  作者: あんこ餅
~第1章:神樹の森編~
9/20

森の赤い瞳は、俗物に似て


 


森を進むたび、空気が少しずつ変わっていくのを、肌で感じる。

木漏れ日すら、どこか鋭くなったようで──

外の世界が、すぐそこに迫っている気配がした。


 


(森を出た先に、何が待っているのか分からない。

でも……もう、後戻りはできないのよ)


 


そう思った、その矢先。

ピキリ、と木々の隙間から鋭い音が響いた。


 


私は思わず立ち止まり、俗物の前に手を広げる。


 


「待ちなさい」


 


胸元で、ルリエルの冷ややかな声が囁いた。


 


「……何かが、こちらを窺っているわ」


 


そして──次の瞬間。

木の影から飛び出してきたのは――


 


ニタァ……と笑う、小猿のような魔獣。


 


赤くギラギラ光る瞳。

苔むした緑がかった毛並み。

長い尻尾をクネクネ揺らしながら、妙に人間じみた甲高い声で叫ぶ。


 


「オッパイ!!」


 


……最悪の登場よ。

よりによって、その言葉なの。


 


「うわっ!? なにあれ!? キモッ!!」

俗物が素っ頓狂な声を上げて飛び退く。


 


私は眉をひそめて、彼を睨みつける。


 


「グリモキーよ。

森に棲む厄介な魔獣なの。

畑を荒らし、倉庫を壊し、苗木を食いちぎる害獣……

群れで襲ってくるから、放っておくと本当に危険なのよ」


 


俗物は、目を剥いて叫ぶ。


 


「えっ!? そんなヤベーやつなのに、オッパイ連呼とかやめてくんない!?」


 


私は深くため息を吐いた。


 


「……そういうところが、余計に厄介なのよ……」


 


(まったく……あれ、俗物にそっくりじゃない……)


 


結局、心に留めておけず、口をついて出た。


 


「……あれ、あなたにそっくりじゃない? 親戚かしら?」


 


「はぁ!? オレ、あんなギラギラした目してねーからな!?

……してないよなっ!?」


 


いや、ちょっと似てるわよ。

目とか、ギラつき方とか。


 


なんて思ったけど──口には出さないでおいた。

代わりに、ルリエルが冷たく言い放つ。


 


「ええ、そっくりよ。

俗物もグリモキーも、二足歩行する肉欲そのもの。

森に穢れを撒き散らす害獣だわ」


 


(……たしかに。目のギラつき具合は、そっくりなんだけどっ!!)


 


私がツッコミを入れるよりも早く──

グリモキーの一匹が素早く尻尾を伸ばしてきた。


 


「──っ!」


 


その尾が俗物の脚に絡みつき、

容赦なく地面に引き倒す!


 


ザリッ……と嫌な音を立てて、

鱗のような棘が彼のふくらはぎを裂いた。


 


「う……うわっ!? いってぇ……血……? ぬる……

……これ……マジで現実じゃん……」


 


俗物が、青ざめた顔で震えている。

彼の脚から、赤い血が滲んでいた。


 


私は息をひとつ吐いて、低く呟く。


 


「……最初から現実よ。

死ぬことも、痛いことも、ずっと当たり前なの」


 


胸元のルリエルが、氷みたいに冷ややかに告げる。


 


「俗物も血を流せば、森の獣と変わらないわ」


 


グリモキーたちは、甲高い笑い声をあげながら、

木々の影へ再び潜った。


 


私は魔力を練りながら、唇をギュッと噛む。


 


(恐ろしい。

でも、もう戻れない。

戦わなきゃ──ここで終わるだけ)


 


その時。

視界の奥で、赤い瞳がギラリと光った。


 


(来るわ……!)

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