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追放ハイエルフと俗物剣士の世界放浪記  作者: あんこ餅
~第1章:神樹の森編~
8/20

精霊の祈り、そして旅の剣



森が、息をひそめていた。

風も、葉擦れも、まるで凍りついたみたいに静まり返っている。


 


目の前に横たわるのは──

冷たくなった同胞の、動かない体。


胸が、ぎゅっと締めつけられる。

息を吸うたび、重い何かが肺の奥へ沈んでいくみたい。


 


──死って、こんなにも近くにあるものなのね。


 


足がすくんで動けない私の背に、

ルリエルの声が、サファイアの宝珠アクア・ルーミナスからそっと響いた。


 


「恐れなくていいわ、リシェリア。

 あなたは……強い子よ」


 


(強い……なんて。私は……。)


 


私は唇を噛み、震える膝を大地につける。

そして、祈りを捧げるために声を上げた。


 


「セレス・アラ・フェルナ・リオ……

 ルナ・ナイ・エストラ・サナ……」


 


(森の静寂が、あなたを抱きしめますように──)


 


その瞬間、森の空気が微かにきらめいた。

水霧が立ち上り、精霊たちが囁くような歌声を運んでくる。


 


ルリエルも、私の祈りに声を重ねた。


 


「森に還りし者よ……どうか安らかに」


 


──と。

隣を見ると、いつもはバカみたいな俗物が、

信じられないくらい真剣な顔をしていた。


 


その瞳は、怯えた子どものように揺れていて。


 


「……なんだよ、これ……泣きそうじゃねぇか……」


 


その呟きが、不意に胸に刺さった。


 


(……あの俗物が、そんな顔をするなんて)


 


「死んだらリセットもロードもできねぇ……

 クソだろ、現実ってよ……」


 


私は思わず息を飲む。


 


(……今のは、ほんの少しだけまともだった)


 


ふと視線を落とすと、

淡い光を放つものが目に入った。


 


倒れた同胞の傍ら──

森の文様が精緻に刻まれた鞘と刃。

葉脈のような輝きが走り、柄はほんのりと温かい。


 


(リーフ・エッジ……。森の戦士たちの誇りの剣)


 


指先で触れると、森の鼓動のような気配が伝わってきた。


 


(私はハイエルフ。精霊術こそ誇り。

 剣を振るうなんて、ほんの護身程度の嗜みのはずなのに)


 


(でも──外の世界は、森よりずっと恐ろしい。

 魔物。盗賊。人間の争い……何が待ち受けるか誰にも分からない)


 


(だから──戦力は多い方がいい。

 ……よりによって、この最低の俗物だなんて、癪だけど)


 


私はリーフ・エッジを握り、俗物の前に差し出した。


 


「これを……あなたに託すわ。

 勘違いしないで。

 私ひとりでも、魔法で戦える。

 けれど──外の世界は、森よりずっと恐ろしいから。

 ……戦力は、多いに越したことはないもの」


 


俗物は、一瞬だけ息を呑み、

真剣な顔でつぶやいた。


 


「……守る……オレが……?」


 


──なのに。


 


次の瞬間には。


 


「やっべ! ☆4武器か!?

 勇者フラグ立っただろコレ!!

 てか、おっぱいちゃんヒロイン確定じゃね!?」


 


こめかみが、ビキビキと鳴った。


 


(……やっぱり、俗物は俗物ね!!)


 


私は吐き捨てるように詠唱した。


 


「切り裂きなさい、流麗の刃──《アクア・スラッシュ》!!」


 


水の刃が疾り、俗物を容赦なく薙ぎ払う!!


 


「ギャーッ!? またかよ!?

 バイオレンスすぎだろ、このヒロイン!!

 イベントCGってレベル超えてんぞっ!!」


 


(もう……本当に、どうしようもない俗物なんだから!!)


 


荒い息を吐き、再び視線を落とすと──

倒れた同胞の懐から、折り畳まれた布が覗いていた。


 


引き抜いて広げると、それは簡易地図。

記された道筋が、森の外へ続いている。


 


(……外の世界への道筋。

 でも──その隣にいるのが、この最低の俗物だなんて)


 


「よっしゃ! マップ解放きたぁ!!」


 


──本当に、疲れるわ。この俗物と一緒だと。


 


けれど。


 


(進むしかないのよ。森の外へ。未来へ。この俗物と共に……)


 


私は地図を握りしめ、前を見据えた。

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