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追放ハイエルフと俗物剣士の世界放浪記  作者: あんこ餅
~第1章:神樹の森編~
7/20

神樹の森、CGもイベントもない現実

神樹の森の空気は、甘くて、ひんやりしていて。

ずっと知ってるはずの匂いなのに──

森の奥へ進むほど、胸の奥がきゅっと締めつけられる。


 


(外の世界……怖い。

でも、それ以上に……見たいのよ。自分の目で。)


 


……なのに、隣を歩くこの俗物ときたら──


 


「つーかさ! 次どのイベントCGくる!?

オレ、FO裏ルート二周目だしな!!」


 


俗物は、やたら嬉しそうにニヤついている。


 


(……。)


 


いい加減にしてほしい。


 


「だから……その、FOって何なのよ。」


 


私が問い返した瞬間──

彼の目が、ギラリと光った。


 


「え!? FO知らないの!?

FINAL ORC!! 略してFO!!」


 


「コンシューマーのRPGなんだけどさ、

表ルートは魔王倒す王道なんだけど、裏ルート突入するとエロゲ並みに過激でさ!!」


 


「泉CGからオークルート入って、エルフヒロインとか姫騎士とか獣人盗賊とか全員攻略対象で、泣き顔CGが神作画で──

しかもBGMが妙に神曲でさ!!」


 


「裏ルートだと泉CG→オーク種付けCG→泣き顔CG→孕みCGの流れが神なんだよ!!

オレ二周目プレイ済みなんだよ!!」


 


(……なに? 何言ってるのこの俗物。)


 


「えっ、えっ……ちょ、ちょっと待ちなさい!!

オーク? 泉? 泣き顔CG? ……孕みCGって何なのよ!?」


 


俗物は、息継ぎもなしに加速する。


 


「だーかーら!! CGってのはイベント絵のことだ!!

特別シーンのご褒美グラフィック!!

現実で言うと今がそうだな! 泉ヒロイン登場イベントだろ!!」


 


「FOは裏ルート入ると、オークが種族再興のためにヒロインたちと子作りするのがメインイベントでさ!!

勇者フラグ立つと姫騎士も即ルート突入するし、獣人盗賊は薄い本でも鉄板で──」


 


「うるさいっ!! もういいわ!!

頭おかしくなりそうよっ!!」


 


(この俗物……本当に一生治らないわ……!!)


 


そのとき──

氷みたいに冷たい声が、私の腕元からふわりと響いた。



サファイアをかたどった宝珠──《アクア・ルーミナス》。

淡い青光が水面のように揺れ、そこから精霊の声が、森の空気を切り裂くみたいに広がっていく。


 


「俗物? 違うわ。

あれは……肉の欲望だけで歩いている“動く破廉恥”。

森に汚れを撒き散らす害獣よ」


 


その声音は、研ぎ澄まされた氷刃みたいに鋭くて、

同時に、底冷えするほど澄んでいた。


 


サファイアの奥で、青い光が静かに瞬いた。

まるで、氷と水が絡み合う宝石に、精霊そのものが溶け込んでいるみたいに。


 


ルリエルだ。

容赦ない。

声だけで、森の温度がひとつ落ちた気がした。



 


「ちょっ……ルリエル!?

いくらなんでも言い過ぎじゃ──」


 


(……いや、言い過ぎじゃないかもしれないわ)


 


私がため息を吐きかけた、そのとき。


 


「おい! おっぱいちゃん!!

あれ、イベントCGじゃね!?」


 


「おっ……ぱ、っ!?」


 


俗物が、森の奥を指差した瞬間。

頭の血が、一気に逆流する。


 


「ちょ、ちょっと!!

何よその呼び方っ!!

私にはリシェリア・エル=フェルナっていう立派な名前があるのよ!!」


 


(この俗物……本当に最低!!)


 


でも──

その先を見た瞬間。

私の心臓は、まるで氷で締めつけられたみたいに止まった。


 


苔むした倒木の陰──

星花族の装束を着たエルフが、動かないまま倒れていた。


 


(……嘘……死んでる……。)


 


血の匂い。

森の匂いよりずっと濃くて、喉を突く。

息が苦しい。


 


「うわ! 死体CG!? 展開早すぎだろ!!」


 


……この俗物は、

まだ馬鹿みたいに叫んでたけど。


 


数歩近づいたところで、急に足を止めた。

そして。


 


「CGじゃねぇ……

匂いが……息苦しい……」


 


俗物の顔から、みるみる血の気が引いていく。

私を見て──

ほんの一瞬、目を伏せた。


 


そして、小さな声で呟いた。


 


「これ……ゲームじゃねぇ……

死んだら……戻れねぇんだよな……」


 


森の中が、まるで凍りついたみたいに、しんと静まり返った。


 


(俗物……。)


 


さっきまで、最低だとしか思えなかったこの俗物が──

ほんの一瞬だけ。

人間らしく見えた。


 


でも。


 


目の前の現実は、あまりに冷たかった。


 


(外の世界は、残酷なのかもしれない。

けど……もう、戻れない)


 


私の手は、わずかに震えていた。

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