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追放ハイエルフと俗物剣士の世界放浪記  作者: あんこ餅
~第1章:神樹の森編~
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神樹の森を抜ける道、そして俗物



森を出る前に──

私は、静かにお母様の部屋を訪ねた。


 


扉を開けた瞬間、

お母様は、私の顔を見て……ほんの一瞬だけ、瞳を潤ませた。


でも──すぐに、いつもの優しい笑顔を作ってくれた。


 


「リシェリア……

 森を追われても、外の世界へ行くことになっても……

 あなたが私の娘であることは、絶対に変わらないのよ」


 


「どれだけ遠くへ行っても……

 生きてさえいてくれたら、それでいい」


 


「お父様には黙ってるけれど……

 本当はね、外の世界を見に行くあなたが、

 ちょっとだけ──羨ましいのよ」


 


「だから、お願い。

 絶対に……生きて帰ってきなさい」


 


その言葉が、胸の奥にじんわり染み込んできて、

ぎゅっと締めつけられるような感覚がした。


泣きそうになるのを必死でこらえて、

私はお母様の手を、強く握り返す。


 


(お母様……ごめんなさい。でも、私は行くわ)


 


 


……外に出ると──


 


まだいた。あの俗物。

縄でぐるぐる巻きのまま、村の広場のど真ん中。


 


彼は空を見上げて、やたら退屈そうな顔をしていて。

その周りでは、エルフたちが「人間め……」と鋭い目で睨んでる。


 


(裸まで見られて、謝罪もなし。

 意味不明なことばっかり叫ぶ最低な俗物なのに……)


 


(それでも、外の世界に出るには──

 よりによって、こいつに頼らなきゃならないなんて!)


 


私は、大きく深呼吸してから、

彼の前に立った。


 


「外の世界へ出るには、神樹の森を抜けるしかないのよ」


「……精霊結界が張られていて、よそ者は簡単に通れない場所だから」


「だから──私が案内するわ」


 


彼は、黙ったまま。

ぽかんとした顔で、私を見つめていた。


 


(ずっと黙って……

 もしかして、この俗物も責任を感じてるのかもしれない)


 


(掟を破ったのは、あいつだけど──

 最終的に“追放される”って受け入れたのは、私)


 


(……ああもう、最低なヤツなのは間違いないけど。

 少しくらいは……まともなところもあるのかも、って)


 


(そんなふうに……ちょっとだけ思っちゃったじゃない)


 


(……仕方ないわね。

 縛られたままっていうのも、さすがに哀れすぎるし)


 


私はふぅっと息を吐いて、彼の縄に手をかけた。


 


「……仕方ないわね。解いてあげる」


 


 


彼は、縄が外れた瞬間──

手首をさすりながら、まるで子どもみたいに笑った。


 


「おおっ! 自由の身って最高だな!

 これで美少女エルフと一緒に冒険開始だよな!?」


 


その笑顔が、なんだか本当に嬉しそうで。

馬鹿みたいに無邪気で。


 


……なんで、そんな顔するのよ。


 


(……やっぱり、ただの俗物ってだけじゃないのかもしれない……)


 


けれど──


 


「でも、攻略サイトにこんな情報載ってたかなぁ?

 もしかしてこのおっぱいちゃんが真のヒロインとか!?」


 


(……)


 


ピキィ……ン。


こめかみで、何かが弾けた音がした。


 


(はあああああああああああああ!?

 今の、全部返せッ!!)


 


私は、詠唱を叩きつけるように叫んだ。


 


「切り裂きなさい、流麗の刃──《アクア・スラッシュ》!!」


 


 


シュバァァアアアアアアアアッ!!!


冷たい水の斬撃が、ケイタに直撃する!!


 


「ぎゃああああッ!?

 ヒロインに殺されるうううッ!?

 えっ、イベントCGこれ!? 早くない!?」


 


もう知らない……!

やっぱりこいつは、

どこまでも救えない──ただの、俗物だわ!!



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