追放と、覚悟と、私の第一歩
「お前は……私の誇りだったのだ」
父の声が、大広間に低く響いた。
神樹の幹に抱かれたこの空間すべてを震わせるような重み。
そして──その一言が、
私の胸の奥を、鋭く冷たい棘みたいに突き刺した。
「星花族の未来を支える娘だと、信じていた。
娘としては……愛おしい。
だが、族長としては──許すわけにはいかぬ」
その声音には、怒りだけじゃない何かが混じってた。
哀しみ。ためらい。……そして、諦め。
私は──その瞳を、まっすぐ見ることができなかった。
(お父様……)
静寂に包まれていた族長会議が、ざわめき始める。
誰かが小さく息を呑んだ音が、耳に刺さる。
「リシェリア……
お前も、あの俗物も──神樹の森より追放とする」
父のまなざしが、決意の色を帯びていく。
「ハイエルフとして、掟を破った者に残される道は……
それしかないのだ」
(追放……)
ハイエルフの私が──
神樹の森を追い出される……?
(……そんなの、怖いに決まってるじゃない)
知らない世界。
知らない常識。
知らない生き方。
でも、それでも──
「裏ルート確定じゃね!?
森追放とか、絶対ハーレムイベントだろこれ!!」
……この俗物、ほんっとにもう限界。
「黙りなさい!! この、俗物ッ!!」
怒鳴った私の声で、またざわつきが広がる。
「精霊まで森を去るというのか!?」
「精霊の掟までも破られるのか!?」
「森が……崩れる……ッ!」
そんなざわめきを切り裂くように──
ひときわ澄んだ、静かな声が空気を割った。
「森を出ることは、本当は許されないこと……
でもね、リシェリア。
私は精霊として、ずっとあなたのそばにいるって決めたのよ」
ルリエル……!
その言葉が、まるで清流みたいに心に流れ込んでくる。
優しいのに、凛としていて。
冷たいのに、あたたかくて。
(……ルリエル……)
涙が、こぼれそうになった。
森の民たちは、ざわつきどころか完全に騒然。
「精霊までもが、森を捨てるというのか……!?」
「なんという……なんということだ……!」
(お父様……
きっと今も、私を愛してくれてるのよね。
でも、族長としてはそれを曲げられない……)
(それでも……私の叫びは、ちゃんと届いた)
(本当なら──あの俗物、処刑されてたはずなのに)
(森の外を知るエルフはいても……
ハイエルフが外を歩くなんて、伝説の中の話)
でも今──
私の目の前には、その扉が開こうとしてるの。
怖い。
すごく、怖いわ。
でも──胸が震えるの。
こんなに心臓が高鳴るの、初めて……!
もしその先に、
私の知らない世界があって、
まだ見ぬ自分が待っているのだとしたら──
私……
きっと、行ってみたい……!