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追放ハイエルフと俗物剣士の世界放浪記  作者: あんこ餅
~第1章:神樹の森編~
4/21

閉ざされた森にて、私は声を上げた

お願いだから、誰か……これが夢だと言ってほしい。

だって──

ここは神樹の森の中心、くり抜かれた巨木の中にある、族長会議の大広間。

精霊の光が淡く揺れて、空気は神聖そのもの。

本来なら、森で最も厳粛で静寂に包まれているはずの場所なのに。


「おいおいおい!!

族長会議イベとか絶対裏ルートだろ!?

CG来るなら今だよな!?早すぎだろ!!マジで神イベだわ!!」


中央に縄でぐるぐる巻きにされた俗物。

縄で縛られてるくせに、目だけギラギラさせて、きょろきょろと落ち着きがない。

私はもう、耳まで熱くなって震えた。


「なっ、何が“神イベ”よ!!」


父──星花族せいかぞく族長のフェルナ・エル=フェルナが、眉間に皺を刻み、声を低くする。


「……人間よ。

お前は何者だ。そして、何の目的で神樹の森へ入った?」


ケイタは胸を張り、得意げに叫んだ。


「俺は田所ケイタ!!

FO二周目で、初期装備のまま裏ルート突入した剣士見習い!!

森のヒロインCG回収が俺の運命なんだってば!!

巨乳特化だし!!」


「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」


父の額に青筋が浮かぶ。


「巨乳特化とは……森のどの部分を特化させる話なのだ……?」


その瞬間、族長たちが一斉に前のめりになった。


風葉族ふうようぞく族長は、目を鋭く光らせる。


「“CG”とは“狩猟群しゅりょうぐん”の略か!?

新たなる討伐の暗号なのか……!?」


ケイタはますます興奮する。


「ちげーよ!!CGは差分!!

つーかオークイベント絶対来るだろ!?

森のヒロインNTRとか俺、マジ死ぬからな!!」


風葉族族長はさらに深刻な顔で言った。


「N……T……R……?

新たなる弓術か?」


緑鱗族りょくりんぞく族長が、腕を組んで唸る。


「繁殖儀を……公開で執り行いたいということか……?」


「違うぅぅぅぅぅ!!」


白樹族はくじゅぞく族長は、木目のような深い皺を刻んで低く呟いた。


「差分とは……木材の等級か、乳房のことか……。

それが問題だ。」


私は泣きそうになった。


「問題じゃないぃぃぃぃぃッ!!」


父は顔を覆いかけながら、深く息を吐いた。


「精霊よ……どうか我が娘の耳を塞ぎたまえ……。」


周囲のエルフたちもザワつき始める。


「オークとは何の獣だ……?」

「攻略済みとは、戦いを終えたということか……?」

「ヒロインとは巫女の称号か……?」


精霊ルリエルが、氷のような声で吐き捨てる。


「卑しい物の口から発せられる音は、精霊にすら苦痛だわ。」


ケイタは縄に縛られたまま、なおも叫び続ける。


「森のハーレムルートあるだろ!?

てか俺、ヒロインの父親に処女フラグ折られるのだけは絶対イヤだからな!!」


もう限界──私は頭を抱えた。


「だっ、誰がヒロインよッ!!

この、俗物ッッ!!」


父がゆっくり立ち上がる。

空気が一瞬で張り詰めた。


「……この俗物を、森に残すわけにはいかぬ。

掟に従い、処刑とする。」


一拍置いて、父はさらに言葉を続けた。


「そしてリシェリア。

お前も、今後三十年──監視付きとする。

森の外へ出るなど論外。

森の中においても、勝手に歩き回ることを許さぬ。

外の世界への興味が過ぎた娘を、このままにはできぬ。」


心臓がドクン、と痛む。

私の世界が、一瞬で閉ざされる音がした。

森の民には、外の世界を知る手段はいくつもある。

薬師や使者として人間領へ赴く者もいるし、交易の知識を持つ者もいる。

でも、ハイエルフの私が──人間と、しかもこうして直に言葉を交わすなんて──

きっと、一生に一度あるかないかのことなのよ……。


(……こんな機会、二度とない。

この俗物は最低だけど……

それでも──私にとっては、最初で最後のチャンスかもしれないのに……!)


気づいたら、私は立ち上がっていた。

声が震えて、でも止められなかった。


「お父様……待って!!」


全員が、私を凝視する。

父の視線が鋭く私を突き刺す。


「私……外の世界が、見たいのよ!!

森の外にはどんな景色があって、どんな風が吹いているのか──

知らないまま、生きていくなんて耐えられないの!!」


「人間たちの街や、未知の食べ物や、見たこともない文化……

きっと怖いこともあるんでしょうけど……

それでも、自分の目で見たいのよ!!」


「あの俗物は最低よ。許せないわ。

でも……あの人間は、外の世界を知る唯一の手がかりかもしれないのよ……!!」


「お願い……お父様……あの人を殺さないで……!!」


会議場が、精霊の囁きさえも飲み込むような沈黙に包まれた。

父は、ただ厳しい瞳で私を見つめたまま──何も言わなかった。


(……言っちゃった。

ずっと胸の奥で燻ってた想いを、ついに口に出してしまった。

掟を裏切ることになるかもしれないのに……

それでも──外の世界を、私は諦められない……!)


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