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追放ハイエルフと俗物剣士の世界放浪記  作者: あんこ餅
~第1章:神樹の森編~
3/17

俗物との最悪な出会い

忘れたい──この夜だけは、本当に。




 ぜったいに、脳から消してやりたい。




 だって……だってよ!?


 裸を見られただけじゃなくて、あんなこと叫ばれるなんて、誰が予想するのよっ!!




 




 月明かりの差す、森の泉。


 水面が揺れて、ひやりと胸元を撫でる。




 ……なのに、私の頭の中では、あの最悪すぎる声がエンドレス再生中。




『エルフ?!てか、おっぱいデカッ!!え、Gあるよな!?』




 




 ──耳がっ……耳が燃えるほど熱いッ!!


 思い出しただけで全身がガクガク震える。


 なによ、Gって!? 測ったことないわよそんなのッ! 俗物にも程があるでしょうッ!!




 




 ……数分前まで、私はただ静かに、泉のほとりで月を見ていただけだったの。




 森の匂いと水音だけがある、穏やかなひととき。


 外の世界への想いを馳せて──ほんの少しだけ、自由を夢見ていたのよ。




 そのときだった。




 




 ガサ──ッ!!




 突然、茂みの奥で何かが割れた音。


 反射的に構える前に、ひとりの男がズカズカと現れたの。




 黒髪、妙な服、意味不明な叫び声と共に!!




 




「エルフ?!てか、おっぱいデカッ!!え、Gあるよな!?揉ませ──」




 




「は、はあああああああああっっっ!?!?」




 鼓膜破れるわよ!?!?!?


 いやいやいやいや何よ今のッッ!!??




「ちょ、ちょっと!? なに言ってるのよ、あなたッ!!」


 全裸で言うセリフじゃないのは分かってるけど、でも黙ってられるわけがないじゃないッ!!




 




 だが男は止まらない。




 止まるどころか、加速した!!




「うおおお!!泉CGきたー!!裏ルート早すぎだろ!?」


「てかヒロイン攻略済だし!?マジでこのあとオークイベントだろ!?俺、覚悟はできてっから!!」




 




 ──裏ルート? ヒロイン……? オーク……???




 は……? 意味わからないわよッ!!!




「ちょ、ちょっと!? あぁぁああああああ!? 意味不明なことばっか言わないでぇぇぇ!!」




 




 羞恥で息が詰まる。


 頭が真っ白になって、体が勝手に動いて──




 




 バッシャアアアアアアッ!!!!!




 




 私は全力で、水をぶっかけた!!


 顔面直撃!! 月明かりの中、水しぶきがキラッキラに飛び散ったわ!!




 




「ぶはッ!? CGバグった!?スキップすんなって!!」




 




 はあああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?


 なんなのこの男!? バグってるのはどっちよ!??




 




 そして──水面が青く光る。


 澄んだ声が、泉の底から届いた。




 




「この卑しき者……不要物として、水に沈めましょうか?」




 




 ルリエル……!




 私の契約精霊、冷たく澄んだ水精霊。


 その瞳が、まるで氷の刃みたいに俗物を睨む。




 




「そ、そうしたいのは山々なんだけどッ!!」




 私の手に、魔力が宿る。


 光る、青く……っ!




 なのにッ! なのにこの男はあああああッ!!




 




「ちょ、待って!オークイベントまだなんだってば!!俺、ヒロインと子作りするルートしか考えてねぇのに!!」




 




「だ、誰がッ! 誰があなたなんかと子作りするのよっ!! バカじゃないの!?!?!?!?」




 




 限界だった。




 羞恥も怒りも、振り切れた。




 




「きゃああああああああああああああああああああッッ!!」




 私の絶叫が、森じゅうに響き渡る。




 鳥が飛び立ち、木々がざわめく。




 




 ──そして。




 




 数秒後、エルフの弓兵部隊が到着した。




 緑の装束。鋭い視線。全員がガチ戦闘モードで男を取り囲む。




 




「リシェリア様……! 未婚のハイエルフの御身体を人間風情が目にするなど、掟に背く大罪にございますッ!!」




 




 俗物は即捕縛。地面にねじ伏せられ、ピクリとも動けない。


 ──のに、まだ叫んでる。




「FOの捕縛イベントか!?やべぇ、俺まだ初期装備なんだけどぉぉぉ!!」




 




 私は唇を噛む。




 心臓が、痛いくらいにバクバクしてる。




 




(……処罰されるのは当然よ。


 だって、裸を見られたんだから。掟は、そういうものだから。




 だけど──)




 


(外の世界を……私は、ずっと、見てみたかったのよ。




 生まれてから今日まで、一度も森の外に出たことなんてなかった。




 この人間は、最低の俗物だけど──


 ……きっと、“外”から来たのよね。




 だから……




 もしかしたら、私を──


 “あの世界”へ連れていける存在なのかもしれない。




 掟なんて……もう、本当に、うんざりなのに。




 ねえ、私……どうすればいいのよ。




 このまま全部、終わらせていいの?




 何も選ばず、ただ従うだけで……本当にいいの?)





 




 だから私は──




 




「私の運命も。


そして、この最低すぎる俗物の運命も。


……どうやら、まだ“終わり”じゃないわね。」

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