第5話:ケアマネって一人で全部やるの?
第5話:ケアマネって一人で全部やるの?
「……なんか、ケアマネって何でも屋みたいですね」
訪問の帰り道、カナはぽつりとつぶやいた。
書類をまとめて、サービスを調整して、利用者さんの希望も聞いて、時には家族の相談にも乗る。今日も、ひとつのケアプランを仕上げるのに、いったい何人と連絡を取っただろう。
隣を歩いていた先輩ケアマネが笑った。
「一人で抱え込もうとすると潰れるよ。だから“チーム”があるの」
その週、カナは初めてサービス担当者会議に立ち会うことになった。
利用者は、要介護3の松永タケさん(82歳)。最近転倒が増え、自宅内での移動に不安が出てきている。
会議のメンバーは、担当ケアマネを中心に、訪問介護のヘルパー、デイサービスの相談員、訪問看護師、福祉用具専門員、そして娘さん。
「ご自宅のトイレ、入り口が少し狭くてね。今の歩行器だと入れないのよ」
福祉用具のスタッフがそう指摘すると、ヘルパーがすかさず答える。
「でも、手すりだけにすると、足がもつれる危険がありそうで……」
それを聞いていた訪問看護師がメモを見ながら話す。
「松永さん、足の筋力がかなり落ちてきてます。デイでの歩行訓練、強化しましょうか?」
活発なやりとりの中で、カナは圧倒された。
みんなが利用者の生活を守るために、それぞれの視点で話している。
誰も「自分だけの都合」なんて言っていない。
会議の帰り道、カナは柴田先生の家に寄った。
「今日、担当者会議に参加してきました。すごく……連携ってこういうことかって」
「せやろ。ケアマネは一人で全部やる職業やない。つなぐ役割や」
柴田先生が言ったその言葉に、今まで見えなかったものが見えた気がした。
「“サービスをつなぐ”だけじゃなくて、“人をつなぐ”んですね」
「その通りや。ケアマネは“調整役”であり、“通訳”であり、“翻訳者”でもある。専門職同士の言葉を、利用者さんの言葉に変える。逆もまた然りや」
カナはそっとノートを取り出し、そこにひとこと書いた。
一人でやらない。一人でやらせない。
支えるのは“チーム”だ。
■あとがき:つなぐ人がいるから、支えられる
今回は、ケアマネの大きな役割のひとつ「サービス担当者会議」にカナが初参加するお話でした。
現場ではよく「カンファ」なんて略されるこの会議ですが、
実はとても大事な場です。
それぞれの専門職が集まって、“その人の生活をどう守るか”を真剣に話す時間。
そこでケアマネは、調整し、通訳し、ときに方向性を整える舵取り役になります。
私は現場で「誰が本音を引き出せるか」でケアの質が決まると感じています。
それができる人こそ、ケアマネに向いているのかもしれません。
【今回の学びポイント】
**サービス担当者会議**は、ケアプランの作成・見直し時に行う会議
参加メンバーは、ケアマネ・サービス事業者・医療職・家族など
目的は、利用者の希望・状態をもとにサービス内容の方向性を確認・共有すること