第14話:柴田先生の最後の講義
柴田先生の家の庭先に、季節外れの枯れ葉が一枚、静かに舞っていた。
「……今日は、話したいことがあるんや」
そう言った柴田先生の声は、いつもより少しだけ弱々しかった。
柴田先生の体調がすぐれないという噂は、数日前から職場にも届いていた。
気になって訪ねたカナを、先生は変わらぬ笑顔で迎えてくれたが、
どこか――覚悟のようなものがにじんでいた。
「カナちゃん、覚えとるか。“ケアマネは調整役や”って、最初に言うたこと」
「もちろんです。先生の口癖でしたから」
柴田先生は、縁側に腰を下ろしながら語り始めた。
「ワシがケアマネになったのは、50を過ぎてからや。
それまで、社会福祉協議会で事務方の仕事をしとった。
けど、妻が病気になってな。……在宅で看取った」
「……そうだったんですか」
「そのときや。『制度ってなんやろ』『支援って誰のためにあるんやろ』って考えてな。
仕事やなく、“人”と向き合いたいと思うようになった」
カナは黙って、柴田先生の話に耳を傾けた。
「ケアマネって仕事は、ほんまに地味や。
現場で感謝されることは少ないし、誰かに褒められることもない。
けどな、ワシはこの仕事に誇りを持ってる」
柴田先生の手が、小さく震えていた。
「ケアマネってな、“その人の人生の一部に立ち会う”仕事や。
ただのサービス調整やない。“生き方”を一緒に考えるんや」
その言葉が、カナの胸に強く染みこんだ。
「……だから、次はカナちゃんの番や」
「え?」
「ワシはもう、少し静かに過ごそう思う。
講義も、支援も、全部“最後”や。でもな、ワシが積み重ねたもんを、
これからはあんたらが受け継いでいくんや。そう信じとる」
カナの目に、自然と涙がにじんだ。
その帰り道。
柴田先生の庭に咲いていた、季節外れの小さな菜の花を見つけた。
「制度は仕組み。でも、支えるのは“人”」
カナは、その言葉を胸に、空を見上げた。
支えてくれた背中を、追いかけて
今回は、カナの“支え手”だった柴田先生の過去と想いが語られる、大きな節目の回でした。
福祉の現場は、派手ではありません。
特にケアマネは「裏方」であることが多く、誰かの影になって支える役目です。
けれど、だからこそ、その人の人生に深く関われる職業でもあります。
ケアプランの1行1行に、その人の“生き方”がにじむような――
そんな支援ができたら、それは本当に誇らしいことだと思います。
カナも、ようやく自分の足で立とうとしています。
【今回の学びポイント】
ケアマネは“制度を動かす専門職”であると同時に、“人生を支える調整役”
支援者自身の経験や想いが、支援の質や姿勢に影響する
「支援は仕組みだけでは成り立たない」。人との関わりこそが“支援の本質”
ケアマネジメントは「技術」+「関係性」+「倫理観」で成り立つ複合的な仕事




