第12話:守らなきゃいけないこと
「ちょっと、今日の件……気をつけてね」
帰り際、先輩ケアマネにそう言われて、カナは思わず立ち止まった。
「え……何かまずいこと、言ってました?」
「さっき利用者さんの個人情報、スタッフルームで話してたでしょ?
他の事業所の人がいたんだよ。内容的には悪気がなかったとしても、“言い方”ひとつで誤解を生むから」
カナの顔から、血の気が引いた。
それは、デイサービスの見学中のこと。
カナは何気なく、「佐々木さん、最近少し元気がなくて……」と話してしまっていた。
他の事業所スタッフも同席していたことに、まったく気づかなかった。
帰宅しても、胸のモヤモヤは晴れなかった。
その夜、カナは柴田先生に電話をかけた。
「先生……私、やってしまいました。本人がいないところで、その人の様子を話してしまって……」
柴田先生は少し黙った後、ゆっくりと答えた。
「ケアマネはな、“情報を持つ責任”を持っとる。
“知ってるから話す”んやなくて、“知ってるからこそ黙る”こともある」
「……はい」
「でもな、今日あんたが気づいたこと――それが一番大事や。
失敗せん支援者はおらん。でも“信頼される支援者”は、そこから学ぶ人や」
カナは深くうなずいた。
「守るべきもの」は、書類や制度じゃない。
**利用者から預かった“想い”や“信頼”**なんだ。
後日、カナは佐々木さんの家を訪ね、心から謝った。
「……つい、気を抜いてしまって。本当に、申し訳ありませんでした」
佐々木さんは少し驚いた表情を浮かべたが、こう言った。
「話したのが悪意じゃないのは分かってるよ。……でも、“自分のことが誰かに伝わってる”って、怖い気持ちもあるからね」
その言葉を、カナは一生忘れないと思った。
支援者にとって、何より大切なのは「信頼されること」。
それは、黙る勇気を持つことから始まる。
信頼を守る人でいたい
今回は、ケアマネにとってとても重要な「倫理」と「守秘義務」をテーマにした回でした。
制度の中では「個人情報保護法」や「守秘義務」などの言葉で語られますが、
現場での一言、軽い気持ちの雑談が、利用者や家族にとっては“大きな不安”になることもあります。
ケアマネは、“人の暮らしの一番近くにいる専門職”。
だからこそ、信頼を損なうような言動は、何より慎重でなければいけません。
そして何より、「気づけたこと」は大きな一歩。
カナも、少しずつ“信頼されるケアマネ”に近づいています。
【今回の学びポイント】
ケアマネには守秘義務がある(職業倫理・法令上の義務)
個人情報保護法に基づき、利用者情報の取扱いには十分な配慮が必要
支援者が情報を“持つ”ことは責任であり、それを“話すこと”には常にリスクがある
倫理的な視点は、制度以上に“人の信頼”を守るために必要不可欠




