第11話:ケアプランって誰のもの?
「カナさん、一度やってみない?」
先輩ケアマネの一言で、カナは思わず固まった。
「えっ……ケアプランを、私が?」
「そう。担当は引き続き私だけど、試しに組み立ててみて。利用者は、要支援2の**平井スミさん(73歳)**ね」
初めてのケアプラン――
カナは嬉しさ半分、不安半分で、スミさんのアセスメント記録に目を通した。
スミさんは、元気な頃は町内会のまとめ役だった。
今は膝の痛みで外出が減り、「人と会わなくなったのが一番つらい」とこぼしていた。
カナは、訪問リハビリ、デイサービス、通所リハビリの利用を検討しながら、何度もプランを練り直した。
でも――どうしてもしっくりこない。
(本当に、スミさんが“やりたいこと”を組み込めてるのかな……?)
夜、柴田先生の家で、その悩みを打ち明けた。
「ケアプランって、思ってたより難しいです。“できること”を並べるだけじゃ、本人の希望に合ってる気がしなくて」
柴田はゆっくりお茶をすすったあと、言った。
「せや。“できること”と“したいこと”はちゃう。
ケアプランは“誰のための計画か”を忘れたらあかんで」
「……利用者さんのため、ですよね」
「そうや。ケアマネの都合でも、事業所の都合でもない。
“スミさんが、また人と会いたいって思える生活”をどう作るかや」
その言葉を聞いて、カナの中でピタリと何かがつながった。
後日、カナは先輩に相談した。
「スミさん、昔から手芸が趣味らしいんです。だから、手芸クラブのあるデイサービスを提案したいんです」
「いいじゃない。それなら“また外に出たい”って気持ちを引き出せるかもしれないね」
カナは初めてのケアプランに、自分の“言葉”で一つひとつ項目を埋めていった。
ケアプランは、“心の再設計図”なのかもしれない。
そう思えた瞬間だった。
ケアプランに“想い”は込められる
今回は、カナが初めてケアプラン作成に挑戦し、
「計画の意味」と「想いの重み」に気づいていく回でした。
ケアプランは、ただの書類じゃありません。
サービスの組み合わせでもなく、点数稼ぎでもない。
その人の「こう生きたい」「こう暮らしたい」を形にする“物語の設計図”です。
そしてそれは、ケアマネ一人で作るものではない。
利用者の声、家族の思い、チームの知恵があって、初めて完成に近づいていく。
カナもようやく、そのスタートラインに立ちました。
【今回の学びポイント】
ケアプランは、要介護(支援)認定を受けた人が介護サービスを利用するための“計画書”
1表(基本情報)、2表(サービス内容と目標)、3表(週間スケジュール)などで構成
利用者本人の「解決したいこと(ニーズ)」と「どうなりたいか(目標)」が中心に据えられる
ケアマネの役割は、専門家の視点で“希望を叶える現実的なプラン”に整えること




