第1話:制度ってこんなに複雑なの!?カナ、勉強はじめます
「……65歳以上が第1号被保険者で、40歳から64歳が第2号被保険者……。ふぅ……なるほどね?」
ノートに書き込んだ言葉を見つめながら、結城カナは頭をかいた。
介護現場に立って10年、利用者の顔と名前なら一瞬で思い出せる。けれど、制度の仕組みとなると話は別だった。
きっかけは、母の在宅介護だった。
亡くなる直前まで家で暮らしたいという母の思いを、カナは全力で支えた。訪問看護師やデイサービスのスタッフたちの支えもあり、最後は笑って「ありがとう」と言って旅立っていった。
――でも、あのときの私、制度のことほとんど分かってなかったな。
そのことがずっと心に残っていた。そしてある日、職場の主任に相談してみた。
「ケアマネの勉強、してみようかなと思ってるんです」
すると返ってきたのは、意外な名前だった。
「それなら、“柴田先生”に会ってみたら? 昔、うちとも関わってた伝説のケアマネさんよ」
翌日、カナは柴田健三の自宅を訪ねた。
「よう来たな。やる気はあるようやな」
庭に水をまきながら柴田が言う。白髪交じりの髪に、昔ながらの作務衣姿。
噂通り、なんだか“ただ者じゃない感”がすごい。
「はい……ただ、勉強って10年ぶりくらいなので……」
「しゃあない。制度ってのは実務に近くて遠い。ほんならまず、介護保険制度の基本からいこうか」
柴田は古びた木のテーブルに分厚い資料を広げた。
「まずな、介護保険制度ってのは2000年に始まった。目的は“自立支援”と“利用者本位”や。助けすぎず、本人の力を活かすのが基本やな」
柴田は手元のノートに簡単な図を描きながら続けた。
「この制度は“社会保険方式”で成り立っとる。つまり、国民が保険料を払って、それに税金も合わせて運営する仕組みや」
「保険料って、誰が払ってるんですか?」
「65歳以上の人――つまり第1号被保険者。それと、40歳から64歳までの人――第2号被保険者や」
「えっ、第2号の人も保険料払ってるんですか?」
「せやで。でも全員がサービスを使えるわけやない。第2号は“特定疾病”がある人だけが対象や」
「……例えば、若年性認知症の高橋さん、あの人ですか?」
「おぉ、よう覚えとるな。そう、高橋さんは58歳。若年性認知症で要介護1や。あの人は第2号被保険者として介護サービスが使えるんや」
「じゃあ、デイに通ってた中村トメさん(80代)は第1号……」
「その通りや。現場では“被保険者”なんて言葉は使わんけどな。でも、試験ではそこをきっちり分けて理解しとくんが大事や」
カナはコクリと頷いた。
“人”に置き換えると、さっきまで頭に入らなかった言葉たちが、急に生き生きと動き出したようだった。
帰り道、カナはふと立ち止まった。
柴田先生の「支えるんは制度やけど、寄り添うんは人や」という言葉が頭から離れなかった。
「本気でやってみようかな……ケアマネ」
空はどこまでも高かった。
【今回の学びポイント】
介護保険制度は2000年に開始された社会保険制度
目的は「自立支援」と「利用者本位」
被保険者は2種類:
第1号:65歳以上
第2号:40〜64歳(特定疾病がある人のみ対象)
財源は公費(税金)と保険料の折半(50:50)
サービスを受けるには「要介護認定」が必要!