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第2話 思いがけない救出劇

「お嬢様! 戻ってきてください!」


リリーの必死の声が背後から響くが、私の足は既に動き出していた。暗がりの中、王家の紋章を掲げた一団と黒装束の集団の戦いに向かって走る。


春の夜風が頬を撫で、ドレスの裾が茂みに引っかかる。父に怒られるだろうな、と一瞬思ったが、そんなことはどうでもよかった。目の前では人が傷つき、命の危機に瀕しているのだから。


近づくにつれ、戦いの様子がはっきりと見えてきた。黒装束の集団は十人ほど。対する王家の護衛は元々五人ほどだったが、既に二人が地面に倒れていた。そして中央で、アレクサンダー王太子が剣を手に三人を相手に奮闘している。


「おのれ、王太子!」黒装束の一人が叫んだ。「今日という日が貴様の命日となる!」


「その前にお前たちが地獄に落ちるだろう」アレクサンダー王太子は冷静に応じた。その剣捌きは見事だったが、腕から流れる血が月明かりに黒く光っていた。


私は薬草の袋を手に、茂みの陰に身を潜めた。どうやって介入すべきか考える間もなく、状況は急変した。


「隊長! 奥から馬車が来ます!」黒装束の一人が叫んだ。


「くっ、援軍か……撤退だ!」


黒装束の男が手信号を送ると、彼らは素早く森の中へと姿を消した。


「追うな!」アレクサンダー王太子が護衛たちに命じる。「負傷者の手当てが先だ」


彼自身も膝をつき、苦痛に顔を歪めていた。


私はこのチャンスに森の茂みから出て、一団に駆け寄った。


「皆さん、大丈夫ですか?」


「貴女は……?」アレクサンダー王太子は驚いた様子で私を見つめた。


月明かりに照らされた王太子の顔は、昨夜のパーティーよりもいっそう凛々しく見えた。しかし同時に、その額には汗が滲み、腕からは血が滴り落ちている。


「お喋りは後にしましょう。まずはその傷の手当てを」


私は迷わず王太子の傍らに膝をつき、袋から薬草を取り出した。王太子は驚いた様子で私を見つめていたが、抵抗はしなかった。


「これは……魔法?」王太子は驚いた様子で見つめていた。


「いいえ、生まれつきのスキルです。私の家系に代々伝わるものですが、めったに使いません」


私は心を集中させ、手のひらから淡い緑色の光を放った。「癒しの手」と呼ばれる特殊なスキル。母方の血筋から受け継いだこの能力は、触れた相手の傷を癒す力を持っている。


手のひらを王太子の傷口に当てると、淡い光が傷を包み込み、みるみるうちに血が止まり、傷口が塞がっていった。


「これは驚いた……」王太子は目を見張った。「こんな治癒のスキルを持つ貴族は聞いたことがない」


「めったに使いませんので」私は静かに答えた。「目立つのは好きではないので」


王太子の腕の手当てを終えると、他の護衛たちの手当ても施した。幸い、誰も致命傷は負っていなかった。


地面に倒れていた護衛の一人が、ようやく意識を取り戻した。


「う……ここは……? 王太子様! ご無事でしたか!」


「ああ、この娘のおかげでな」王太子は私を指さした。


護衛たちは感謝の言葉を口々に述べ始めた。


「助かりました、お嬢様」


「まさか森の中で天使に出会うとは思いませんでした」


「この恩は一生忘れません」


恥ずかしさで頬が熱くなるのを感じた。「どういたしまして。当然のことをしただけです」


王太子は立ち上がり、私に向き直った。その威厳ある佇まいに、思わず背筋が伸びる。


「命の恩人だ……」王太子が言った。「あなたのお名前は?」


私は一瞬躊躇した。名乗れば、きっと「あの婚約破棄された伯爵令嬢」と認識されるだろう。今は素性を明かしたくなかった。


「それは……今は申し上げられません。お急ぎのところ失礼します」


そう言って立ち上がり、馬車へ戻ろうとした。


「待ってくれ!」王太子が呼び止めた。「せめて、どちらの家の方か……」


私は応えず、急いで馬車に向かって走り出した。


「おい、追いかけろ!」護衛の一人が言いかけたが、王太子が手を上げて制した。


「待て。無理に追うな」


馬車まで戻ると、リリーが心配そうな顔で待っていた。


「お嬢様! 無事でしたか?」


「ええ、大丈夫よ」私は息を切らしながら馬車に飛び乗った。「急いで!」


御者に命じると、馬車はすぐに動き出した。窓から見ると、王太子は立ち上がり、私たちの馬車を見送っていた。その顔には不思議そうな表情が浮かんでいた。


「お嬢様、あれは本当に王太子様だったのですか?」リリーが興奮した様子で尋ねた。


「ええ、間違いないわ」


「なぜ王太子様がこんな場所に?」


「わからないわ。でも……」私は窓の外を見つめた。「それよりも、あの黒装束の集団が気になるわ」


王太子を襲った集団は、ただの盗賊には見えなかった。あまりにも組織的で、目的も明確だった。彼らは王太子の命を狙っていたのだ。


しばらく馬車は沈黙の中を走り続けた。私は先ほどの出来事を頭の中で整理していた。


「お嬢様、あのスキルを使われましたね」リリーが静かに言った。


「ええ……久しぶりだったわ」


「癒しの手」は小さい頃から持っていた能力だが、あまりに目立つため、父に「公の場では使うな」と言われていた。カミングトン家の次女が特殊能力を持っていることを、あまり広めたくなかったのだろう。


***


「あれ、止まってる……」


馬車が急に速度を落としたことに気づいた。窓から顔を出すと、前方の街道に何かが倒れているのが見えた。


「どうかしましたか?」御者に尋ねると、彼は不安そうな顔で振り返った。


「倒れている方がいるようです」


「まさか!」


私は慌てて馬車を降り、前方に駆け寄った。そこには黒装束の男が一人、腹部を押さえて倒れていた。先ほどの集団の一人だ。


「リリー、離れていて!」私は警戒心を抱きながらも、男に近づいた。


男は苦しそうに呻いていた。腹部には深い傷があり、大量の血を流している。


「貴様は……先ほどの娘か……」男はかすれた声で言った。


「あなたたちは、なぜ王太子を?」


「くっ……黙れ……」男は苦痛に顔を歪めた。「くだらない王族など……この国には必要ない……」


政治的な動機があったのか。それとも単なる過激思想の持ち主か。


「このまま放っておけば、あなたは死ぬわ」私は冷静に言った。「助けてほしければ、王太子を狙った理由を話して」


「ふざけるな……」男は血を吐きながらも笑った。「俺が死のうと……計画は変わらん……奴らは必ず……」


その言葉は途中で途切れ、男は意識を失った。


「……ここで見殺しにするわけにはいかないわ」


私は迷いながらも、「癒しの手」を使って男の傷を癒し始めた。命だけは助かるよう、最低限の処置をした。


「リリー、町までの道のりはあとどれくらい?」


「あと一時間ほどです」


「この男を町の衛兵に引き渡しましょう。王太子を襲った犯人だと告げて」


馬車に男を乗せ、再び旅を続けた。しかし、心の中は複雑な思いで一杯だった。王太子の暗殺計画。それは単発の出来事ではなく、何か大きな陰謀の一部なのだろうか。


~~~


ブレイクウッドの町に着いたのは、月が高く昇った頃だった。町の衛兵所に黒装束の男を引き渡し、事情を説明した。ただし、私自身の身分については明かさなかった。


「お嬢様、宿に向かいましょう」リリーが言った。「今日は疲れましたね」


「ええ……」


宿に着くと、すぐに部屋に案内された。温かい食事と湯浴みの後、ようやく今日一日の出来事を振り返る余裕ができた。


窓から見える月は、先ほどの戦いを照らしていた月と同じだ。あの王太子は今、どうしているだろう。無事に王都へ戻れただろうか。それとも、また何者かに襲われただろうか。


「お嬢様、お休みになられますか?」リリーが尋ねた。


「ええ、そうするわ」


ベッドに横になり、天井を見つめながら、昨日からの出来事を整理した。婚約破棄、学園からの退学、そして今日の王太子との出会い。まるで悪い夢を見ているようだ。


「明日こそは、父の領地に着けるはず……」


その言葉を最後に、疲れ果てた私の意識は闇に沈んでいった。


~~~


朝日が窓から差し込み、私を目覚めさせた。今日は父の領地、リングハム伯爵領に向かう日だ。昨夜の出来事が夢ではなかったことを思い出し、深いため息をついた。


「お嬢様、お目覚めですか?」リリーが朝食を運んできた。「今朝の噂話をご存知ですか?」


「どんな噂?」


「昨夜、この町に引き渡した黒装束の男のことです。彼らは『王家打倒同盟』という過激派組織の一員だそうです。以前から王家に危害を加えようとしていたらしいのですが……」


「なるほど……」


「それと、王太子様も昨夜この町に立ち寄られたそうです」


「え?」私は驚いて顔を上げた。「アレクサンダー王太子が?」


「はい。随行の騎士団と共に。怪我人を運んでいたそうですが、皆さん不思議なことに傷がすっかり治っていたとか」


まさか、私の後を追ってきたのだろうか。それとも単なる偶然か。いずれにせよ、早くこの町を離れたほうがよさそうだ。


「リリー、すぐに出発の準備をして」


「はい、お嬢様」


急いで準備を整え、宿を後にした。馬車は北へと進み、やがて景色は次第に変わっていった。平野は丘陵地帯へと変わり、遠くには山々の姿が見え始めた。


正午を過ぎた頃、馬車の窓から見慣れた風景が見えてきた。リングハム伯爵領だ。緑豊かな丘の上に建つ古城、その周りに広がる小さな町、そして肥沃な土地に育つ作物。これが私の生まれ故郷だ。


「お嬢様、まもなく城に到着します」


「ありがとう」


城の門が見えてきた。門番は私の馬車を認めると、すぐに門を開けた。


「お帰りなさいませ、ソフィア様!」


中庭には父と母が待っていた。伯爵フレデリック・カミングトンとマリアンヌ夫人だ。父は厳格な表情をしているが、目には喜色が浮かんでいる。母は涙ぐみながら私を見つめていた。


「ソフィア!」母は馬車から降りた私を抱きしめた。「あなたが無事で良かった……」


「お母様……」


「しっかりしろ、ソフィア」父は厳しい声で言った。「カミングトン家の娘は、どんな時も威厳を保つものだ」


「はい、父上」


「しかし……」父は少し表情を和らげた。「よく戻ってきた。お前の部屋は、いつでも準備ができている」


「ありがとうございます」


城の中に入ると、なつかしい香りが私を包み込んだ。六年前、王立学園に入学するために家を離れてから、ほとんど帰っていなかった。たまの休暇も、王都の邸宅で過ごすことが多かったのだ。


「ソフィア、食事の準備ができています」執事のジェームズが告げた。「旅の疲れを癒してください」


食堂に案内されると、豪華な食事が並んでいた。地元の食材を使った料理は、王都のものとは違う素朴な美味しさがある。


「さて」父は食事の途中で口を開いた。「第二王子との件は聞いている。残念なことだ」


「お噂は本当だったのですね」母が悲しげに言った。「第二王子様が婚約を破棄されたと……」


「ええ……」私は静かに頷いた。「昨夜の卒業パーティーで」


「許されざる行為だ」父は怒りを抑えた声で言った。「王と王妃の許可なく婚約を破棄するなど。しかも公の場で。カミングトン家の名誉に関わる」


「国王陛下に直訴するべきよ」母が言った。


「いいえ!」私は思わず声を上げた。「もう十分です。私はこれ以上、恥をさらしたくありません」


両親は驚いた様子で私を見つめた。


「ソフィア……」母が心配そうに言った。


「王家との縁は切れました。これからは……自分の道を見つけます」


父は何か言いかけたが、言葉を飲み込んだ。


「わかった」父はやがて静かに言った。「お前の決断を尊重しよう。だが、覚えておけ。カミングトン家は千年の歴史を持つ名門だ。一時の挫折で諦めるような家柄ではない」


「はい、父上」


「それに……」父は意味深な表情を浮かべた。「お前には他の価値もある。『癒しの手』のスキルは、この国でも珍しい才能だ」


私は母を見た。彼女もまた同じスキルを持っていたが、あまり公の場では使わなかった。


「時が来れば、それも活かす道があるだろう」父はそう言って席を立った。


~~~


その後の数日間、私は城で静かに過ごした。読書をしたり、庭園を散策したり、時には村を訪れて子供たちと遊んだりした。王都の喧騒から離れ、故郷の穏やかな空気に包まれると、少しずつ心が癒されていくのを感じた。


けれども、時々思い出すのは、あの夜の王太子の顔だった。月明かりに照らされた凛々しい横顔。そして、私の「癒しの手」に驚いた表情。


「もう二度と会うことはないでしょうね」


窓辺に座り、遠くの山々を眺めながら、私はつぶやいた。


しかし、運命とは予測不可能なものだ。その翌日の朝、城に思いがけない来客が訪れることになる。


「ソフィア様!」侍女のメアリーが慌てた様子で私の部屋に駆け込んできた。「大変です!」


「どうしたの、メアリー?」


「王太子がお見えになります!」


「なんですって!?」


慌てて窓から外を見ると、確かに王家の旗印を掲げた一行が館に向かって来ていた。馬に乗った騎士たちに囲まれ、中央には紛れもなくアレクサンダー王太子の姿があった。


「どうして……」


私の耳には信じられない話だった。なぜ王太子がわざわざリングハム伯爵領まで?まさか、あの夜の恩人が私だと知ったのだろうか?だとしても、王太子が直接訪ねてくるほどの理由があるだろうか?


「お嬢様、すぐに正装を!」リリーが慌てて衣装箪笥を開けた。


私は急いで正装に着替え、髪を整えた。しかし、心臓は激しく鼓動し、手は小刻みに震えていた。


「父上と母上は?」


「既に玄関でお出迎えの準備をしております」


深呼吸をして心を落ち着かせると、私は階段を下りた。ちょうどその時、王太子アレクサンダーが館に入ってきたところだった。


「リングハム伯爵、そして伯爵夫人。お邪魔します」王太子は丁寧に頭を下げた。


「王太子殿下、突然のご訪問、何かございましたか?」父が緊張した面持ちで尋ねた。


「実は……」王太子は言いかけて、階段の上の私に気づいた。彼の目が見開かれた。


「あなたは!あの時の……」


その時、王太子の表情に浮かんだ驚きと喜びの混じった表情は、私の心に深く刻まれることになった。


~~~


「やはり貴女だったのか!」


王太子の声が城の広間に響き渡った。父と母は困惑した表情で私たちを交互に見ていた。


「ソフィア、どういうことだ?」父が尋ねた。


私は静かに階段を下り、王太子の前で礼をした。


「ソフィア・グレイス・カミングトン、リングハム伯爵家次女でございます」


「二日前、王都から戻る途中、負傷された王太子様と護衛の方々をお助けしただけです」私は簡潔に説明した。


「命の恩人だよ」王太子は父に向かって言った。「貴族でありながら、自ら危険を顧みず助けに来てくれた。そして驚くべき癒しの力で私たちの命を救った」


「まぁ、ソフィア……」母は驚いた様子で私を見つめた。


「あの馬車に描かれていた紋章、確かにカミングトン家のものだった」王太子は満足げに言った。「ようやく見つけることができた」


「お探しになられたのですか?」私は驚いて尋ねた。


「ああ、あの夜から」王太子は頷いた。「町の宿で黒装束の男を捕らえたことも知っている。貴女が引き渡したのだろう?」


「はい……」


「彼から多くの情報を得ることができた。王家打倒同盟の計画を知ることができたのだ」


王太子は感謝の意を込めて私を見つめた。その眼差しに、私は思わず目を伏せた。


「しかし、殿下」父が口を開いた。「わざわざここまでお越しになられたのは……?」


王太子は真剣な表情を浮かべ、一同を見回した。


「実は、カミングトン伯爵、伯爵夫人、そしてソフィア」王太子はゆっくりと言葉を選んだ。「今日は特別な目的があって参った」


王太子の言葉に、広間は静まり返った。


「私の弟、エドガーの愚行について、深くお詫び申し上げるためだ」


私は驚いて顔を上げた。王太子が弟の行いを詫びるために来たというのか?


「卒業パーティーでの出来事は、既に父王と母后の耳にも入っている。エドガーは厳しく叱責され、北方の砦での謹慎処分が決まった」


父も母も無言のまま、王太子の言葉に聞き入っていた。


「しかし、それだけではない」王太子はさらに続けた。「ソフィア、貴女には個人的にも感謝の気持ちを伝えたい」


王太子は私の前に進み出た。


「あの夜、貴女が見せてくれた勇気と優しさ。そして驚くべき治癒の力。それは王国にとっても貴重な才能だ」


何かを決意したように、王太子はゆっくりと片膝をついた。


「ソフィア・グレイス・カミングトン、私と結婚してくれないか?」


部屋中がシーンと静まり返った。


「え……?」私は耳を疑った。


「失礼ながら、殿下」父が驚きの声を上げた。「余りにも唐突では……」


「もちろん、すぐに返事を求めているわけではない」王太子は立ち上がり、私の手を取った。「ただ、私の気持ちを伝えたかっただけだ」


王太子の随行員たちの間から、小さなささやき声が聞こえてきた。


「流石は王太子様……見る目があるわ」


「伯爵令嬢には『癒しの手』があるそうだ。王家にとって素晴らしい才能だな」


「それに、第二王子に婚約破棄されたとは思えないほど落ち着いている。器が違うよ」


「エドガー王子の顔が見たいね。兄上に横取りされるなんて……」


「いや、横取りじゃない。あれは自業自得だ」


父と母は驚きを隠せない様子だったが、やがて父は落ち着きを取り戻し、深く頭を下げた。


「殿下のお気持ち、光栄に存じます。ソフィアの気持ちも尊重しつつ、検討させていただきたく……」


「もちろんだ」王太子は頷いた。「急ぐつもりはない。ただ……」


彼は再び私を見つめた。その瞳には真摯な感情が浮かんでいた。


「あの夜から、貴女のことが頭から離れなかった。恩義もあるが、それだけではない。貴女の勇気と優しさに、心を打たれたのだ」


私は何も言えなかった。昨日まで婚約破棄された伯爵令嬢だったのに、今日は王太子に求婚されるなんて。まるで夢のようだ。


「王都に戻られるおつもりは?」王太子が尋ねた。


「いいえ……しばらくはここで過ごすつもりです」


「そうか」王太子は少し残念そうな表情を浮かべたが、すぐに微笑んだ。「では、また訪ねてもいいだろうか?」


「はい……もちろん」


その時、城の外から馬の蹄の音が聞こえてきた。


「誰かいらっしゃるようですね」母が窓の外を見た。


執事のジェームズが慌てて入ってきた。


「第二王子様がお見えになりました!」


「エドガー?」王太子の表情が曇った。


父も母も私も、そして王太子も、一様に驚いた顔を見合わせた。なぜ第二王子がここに?それも王太子の後を追うように。


「これは……思わぬ展開になりそうだな」王太子は静かにつぶやいた。


すると、騎士の一人が小声で言った。


「やれやれ、次は何が始まるんでしょうねぇ……王子様同士の花嫁争奪戦?」


「いや、もはや勝負はついているだろう」別の騎士が答えた。「エドガー王子には分が悪すぎる」


その言葉を聞いた王太子の口元に、かすかな笑みが浮かんだ。


窓の外では、エドガー王子の一行が城門をくぐり、中庭に到着しようとしていた。


運命の歯車は、思わぬ方向へと回り始めていた。

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