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7.料理用品には詳しくない

人口ダンジョンでの出来事から数日、ラルフの監視のもと数日ベッドから解放してもらえなかったが、ようやく許可が下りた。

そろそろ夕飯時という時間に宿の食堂へ降りると、女将に呼び止められる。

「ちょっと、フィリルさんにお願いがあるんだけど」


夕食後話がしたいと頼まれ、フィリル達は宿の食堂に残っていた。お茶と共に差し出られたのは、1台の古い魔道具だ。


「少し前に壊れて使えなくなってね。ほら、この街の魔道具師のおじいさん、一昨年亡くなってから修理に出せる先がなくて困ってたんだよ」

フィリルが受け取った魔道具に魔力を注ぐが、部品が折れたのか動かない。軽く全体に魔力を通し、様々な角度から観察して原因を探ってみる。

「(簡単な部品交換か。まぁ直せるけど)」


ちらりと困り顔の女将に視線を送る。

魔法使いには厳密には2種類の資格がある。フィリルのような正規の魔法使いは主に研究を行うか王城等に勤めることが多く、それとは別に登録された魔道具の制作や修理、魔法薬を調合をする職人がいる。恐らく、”おじいさん”は職人だったのだろう。

「これ、なにを作るためのものなんでしょうか」

「ひき肉を作るためのものでね。ここに肉を入れると、この穴から出てくる仕組みになってるはずなんだけど」

「ひきにく、ですか」

名前と魔道具の構造から、恐らく細かくした肉なのだろうと検討をつける。料理を全くしたことがないフィリルには、どんな料理の材料になるのかは分からない。


「直せんのそれ」

それまで黙って成り行きを見ていたラルフが、ひき肉という言葉に微かに身を乗り出した。

「ひき肉、好きなんですか?」

ひと月にも満たない付き合いだが、彼は肉料理が好きなのは間違いないだろう。「嫌いなやつなんていないだろ」と素っ気ない返答を返して来てはいるが、本当に興味がなければ会話にも入って来ない。

「じゃあ、報酬は美味しいひき肉料理でお願いします」

笑顔で了承を示す女将に頷き、フィリルは魔道具を持って部屋へと戻った。



「これを直すので少しの間居なくなりますが、心配しないでくださいね」

ラルフへとひと言かけ、右手のバングルに仕込んだ魔法陣を起動する。瞬きの間で、フィリルは”工房”へと移転した。

工房は自作の人口ダンジョンで、フィリルのバングルを入口にしている。出口は入ったときと同じ場所に毎回書き変わるので、いつでもどこでも行きたい場所に行きたい時に、と出来ないのが不便だった。


工房には魔道具作成用の机が3台、素材保管棚と本棚が雑多に配置され、片付けきれていない木箱が20個ほど部屋のあちらこちらに置かれている。初日に消した木箱もここにある。

白い、拳大の綿のようなものがふわふわと漂い、フィリルの周りを踊るように舞った。髪の毛を数本抜いてその綿毛へと差し出せば、手のひらに数匹の綿毛が乗る

”真綿の妖精”と呼ばれている綿毛は恐らく精霊の一種で、埃や小さなゴミを食べてくれる。学院の図書館で仲良くなったひと玉を連れ帰ったら、いつのまにか5玉に増えた。フィリルの魔力が好きなので、髪の毛をあげると喜んでくれる。


借りてきた魔道具を机に置き、魔力を流しながら分解していく。工具の類はだいたい光の魔力で作る。

「意外と複雑な作りかも」

次々と部品を外しながら、構造を紙に記録する。ひき肉料理というのがおいしかったら、同じ機械を作ってもいいかもしれない。


分解した部品は、常備してある魔法薬に漬けておく。表面の汚れを取り除き、組み立て後の魔力伝達率がよくなる薬だ。布で拭きあげながら刻まれた魔法陣に欠損がないかを念入りに調べ、欠けた部品を作る。

最後に古くなっていた魔石を交換し、3時間ほどで修理が出来た。


「修理できました」

何もない空間から急に出てきたフィリルに、ラルフは目を微かに見開いたがなにも言わなかった。

起動部の魔石に触れて魔道具が動く様子を見せるフィリルの頬から首筋に指を滑らせ、ラルフは深く息を吐いた。

「(ダンジョンに行ってから、心配性になった気がする)」

獣人は個体差はあれど仲間意識が強く、スキンシップが多いと聞く。学院にも獣人はいたが、貴族のフィリルに馴れ馴れしく触ってくる相手は居なかったのであまり知識はない。

ラルフは耳や尻尾、体毛などの特徴は出ていないが、本能的にフィリルを群れの仲間のように思っているからこそ、こうして接触が増えているのだろう。

「(だとしたらちょっと嬉しい)」

大丈夫だと伝えるように手のひらに擦り寄れば、ラルフは罰が悪そうに眉を寄せた。



次の日はひき肉ずくしだった。

試しにと挽いた鹿肉はハンバーグになり、朝食となった。お昼はミートボールの入ったパスタ、夜はドリアとハンバーグにパン粉をつけたような揚げ物だ。出て来る料理にラルフは満足そうだった。

フィリルも何品かは食べたことがあったので、なるほどこれがひき肉かと関心した。料理をおいしいとは思っても、制作過程に思いを馳せたことはなかった。新発見だ。

「すごいですね、硬い部位でも一度細かくすると柔らかくて食べやすいなんて」

「中途半端に余った肉混ぜてもいいし、一食分に足りねぇってときはパン粉とか野菜で量増やしたりすんだよ」

「君は、本当にお肉が好きですね」

ラルフは「まぁ…」と曖昧に頷き、眉間に皺を寄せた。

「うち、父親居なかったし。俺が狩りできるようになる頃はもう騎士寮暮らしだったし、肉とか結構貴重だったから」

成長期の少年には最重要課題だっただろうと、フィリルは納得と共に深く頷いた。



その後、たまに女将経由で魔道具の修理の依頼が来るようになった。

生活用品の中でも多いのは暖房器具だった。

暖炉が焚けない場所で使われている暖房器具は冬の長いこの国では死活問題になるだろうと、王城へ修理の依頼が多岐に渡る旨の手紙を書き、魔道具師を月に数度派遣してもらえる約束を取り付けた。

報酬は金銭だったり食料品だったりと様々で、女将がよしとした分に関しては依頼を受けた。

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