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正体

 ……あれから僕はどうしたんだっけ?

 気がつくと木製の天井があった。ここは見覚えがある。ルイーゼと一緒に泊めてもらった村長の客間だ。あれ?僕は村の外で戦ってたはず。

 横たわったまま首を横に回すともう少しで顔と顔が触れる距離にルイーゼの愛らしい寝顔が在った。思わず声を上げそうになるのを必死に堪える。

 ルイーゼ頑張ったね


 サラサラの美しい銀髪を撫でようと腕を上げようとするも鉛のように重くてなかなか持ち上がらない。やっとのことで彼女の頬に触れると僕の手が冷たかったのかうーんと可愛らしい声をあげてルイーゼは目を覚ました。


『起こしてごめん』


「ううん、気にしてない。それより君が目を覚ましたことが嬉しいの」


 謝る僕にルイーゼは首を横に振りながら僕の首に抱きついてきた。


「本当に心配したんだから」


 耳元で囁かれる言葉は真に僕を心配してのもの。感謝と申し訳無さが胸に湧き上がる。


『ごめん。それからありがとう』


 彼女からの返答はなくただ、少しだけ僕の首に回された腕の力が強くなったのが答えだろう。


 しばらく僕らの間に言葉はなかった。


 気を失った僕を運んでくれたのは門番の人。おそらくその時に僕の具合を見ようとして面頬バイザーをあげてるだろう。となると僕の正体は既にバレている。

 僕は不死者アンデッド。村を襲ってきたのと同種。人族は忌むべき存在。それなのに……。

 確かめたい気持ちと知るのが怖い気持ちがせめぎ合う。しばらく葛藤していると天秤は知りたい方へと傾いていた。


『ねぇ、ルイーゼ、僕の顔ってどんなだった?』


 我ながら意地悪な質問かもしれない。だって僕には顔がなくて闇の中に目の代わりに光る球体が浮いてるだけなのだから。言葉に詰まり眉根を寄せるルイーゼ。


「……闇の中に淡い緑の光が浮いていたわ」


『そっか……』


 分かってるつもりだった。でも、自分ではまだ確かめていなかったから、ほんの少しだけ自分は不死者アンデッドじゃなくて人族なんじゃないかって期待をどこかでもっていた。


『……ルイーゼは僕を浄化《消滅》するの?』


 死ぬのは、自分という存在がいなくなるのは凄く怖い。でも、どうしてだろう?ルイーゼに尋ねる僕の声はとても穏やかだった。そんな僕に初めてルイーゼが怒鳴った。


「友達を消滅《死なせたい》なんて思うわけないじゃい!」

 大粒の涙を零しながらルイーゼの可愛らしい手がペチペチと僕の胸を叩く。


『ごめん』


 謝ってばかりの僕の頬をそっとルイーゼが撫でた。


「許してあげる。だってわたしは心の広い聖女ですから」


 目にはまだ涙を貯めているのにどこか自慢気に微笑むルイーゼに少しだけ茶化して


『ありがとうございます。聖女様』


 と僕は返すのだった。


 見計らったかのように扉が叩かれたのはその時だった。


「少しよろしいですか、聖女様、騎士殿」


 そう尋ねる村長の声に恐怖はなく穏やかなもの。


「かまいません」


 幼いながらも自身の役目を理解しているルイーゼの声。涙を拭い背筋を伸ばして村長達を出迎えるルイーゼの隣で僕はなんとかベットに腰掛け起き上がった。


「この度は村を救っていただきありがとうございます」


 深々と村長と夫人、それから最初に出会った門番の男性が僕らに頭を下げる。


「神に仕える者として当然のことをしたまでです。皆さん頭を上げてください」


 にっこり微笑むルイーゼに村長達は「流石聖女様だ」と感嘆の声を上げながら顔を上げ、あろうことか僕にまで感謝の言葉を述べた。


「騎士殿、貴方の尽力で村は救われました。本当にありがとうございます」


 僕はお礼を言われるような存在じゃない。僕は……


『僕は不死アンデ「俺達は何も見てない。見たのは鎧の兄さんの勇敢な姿だけだ」


 否定しようとした僕の言葉を遮ったのは門番の男性だった。


「何者だかは関係ない。あるのは嬢ちゃんと鎧の兄さんが村を救ってくれたって事実だけだ」


 にかっと笑う男性に村長も夫人もルイーゼの顔にも笑顔が浮かぶ。


「それでお二人に感謝の宴を行いたいと思うのですが参加いただけるでしょうか?」


 村長の申し出にどうするとルイーゼの顔を伺うと残念そうに彼女は首を横に振った。


「申し出はありがたいのですが、わたしにはまだやらねばならないことがあります」


 ルイーゼの使命は邪悪な死霊使い(ネクロマンサー)とその配下である不死者アンデッドを一掃すること。村を襲ってきたことから死霊使いは未だ健在。ならば一刻も早く打つ必要がある。


「そうでしたか。ではお役目が終わりましたらまたお越しください。村民一同盛大にお迎えいたしますので」


 素直に村長はルイーゼの言葉に従い宴の提案を中止し別の提案を申し出た。


「お急ぎの様子ですので、せめてものお礼に馬を用意いたします。お二人は馬には乗れますかな?」


 僕とルイーゼは互いに顔を見合わせた後、静かに首を横に振る。



 結局、僕らはお礼もできずしょんぼりしながらも微笑みを浮かべる村長達に見送られ、まだ日の昇らない星明かりの照らす薄暗い夜道を徒歩で村を後にした。

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