第1話:ついに共学!
「いっけな~い、遅刻遅刻! 行ってきま~~~す!!」
「こらこのみ! ご飯はちゃんと・・・まったくもう」
お母さんの声を無視して、私は食パンを咥えて玄関へ向かい、そのまま飛び出した。今日は4月8日。新学期早々寝坊するなんて!
私は、姫島このみ。私立栄麗学園の生徒で、今日から2年生! 変化はそれだけじゃなくて、なんと、なんと・・・今年から栄麗が共学になったのです!
しかもしかも! 2~3年生は1年生男子を眺めることになるだけと思いきや、2年生にも男子編入生が1人来るみたいで、私含め抽選で選ばれた39人は同じクラスになることに! これはもう運命と言わざるを得ない!
なのに私ったら、初日から寝坊で遅刻寸前! まぁいつものことなんだけど、共学になるのを機に変わろうと思ったのに! せっかく来た男子に“いつもギリギリで愉快な姫島さん”で覚えられるのは絶対イヤ!
初日ということは編入生の子はホームルーム中に先生に連れられて入るはずだから、ホームルーム前までに着いていれば気付かれないはず。だから明日から気を付ければまだ何とかなる!
「えっ、ほっ、えっ、ほっ」
食パンを少しずつ噛んで喉の奥に送っては次の分を口の中に含んでいく、という1年生の時も3日に一度はしていたことを、いつものようにやりながら学校へ向かって走る。
いつの間にか、手を使わずに食パンを食べるのが得意技になっちゃったけど、こんなのも今日でお別れ。とても男子には見せられないもんね! 別の何か、気を引けるような特技を見に付けなくっちゃ!
小学校の時はストリートピアノに憧れて猛練習したら弾けるようになった。中学校の時はボランティア活動がしたくてスワヒリ語がペラペラになった。やろうと思えばできるようになる自信はある!
食パンが半分ぐらいになって、学校までの距離も半分ぐらいに差し掛かった、その時だった。
「え?」
「ふえ?」
小さな交差点で、塀に遮られて見えなかったところから男の子が! でも、気付いた時にはもう手遅れだった。
ゴチン☆
「うわっ!」
「ふぁぁぁぁっ!」
見事に頭をごっつんこ。尻餅までついちゃった。
「いっふぁ~~・・・」
自転車や車とぶつかりそうになったこともあるから、今さら人とぶつかったぐらいで食パンを落としたりはしないけど、痛いものは痛い。
「あっ!」
人とぶつかったんだ! 私ばかり痛がってる訳にもいかない! 食パンを一旦手で取って口の中のは飲み込んでから、ぶつかった人に声を掛ける。他校の男子みたい。
「ごめんなさい! 私急いでて周り見てなくて・・・!」
「ううん。俺もスマホ見てて気づかなかったからお互いさまだよ」
私から手を差し伸べるまでもなく、相手の子はズボンをはたきながら立ち上がった。よかった、ケガとかはないみたい。
「急いでるんでしょ。俺のことはいいから、行っちゃって」
「あ、うん。ありがとう! お詫びはまた今度会った時にね!」
私はサッと一礼してから、また食パンを咥えて走り出した。
「気を付けて行ってねー」
「はーーい!」
振り返りはせずに、手を振って応えた。ホントに怒ったりしてないみたいで、いい人だったなぁ。見た目も結構タイプだった。共学で同じクラスに男子が来るのがなかったら、これが運命の出会いになってたかも。だけど今思えば見かけない制服だったなぁ。どこかがデザイン変えたのかな・・・?
(食パン咥えながらダッシュしてる人なんて、初めて見た・・・)
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そんなアクシデントがありつつも、学校には何とか遅刻せず到着。
「こぉら姫島ぁ! ものを食いながら登校するんじゃない!」
食パンは全部口の中には入ってたけど、口の中には残ってたからモグモグしながら校門をくぐることになってしまった。
「ふぉめんなさい! あふぃたからもうふぃません!」
「信用できるかこの! 今日から2年になるってのになんにも変わってないなお前は」
変わりますぅ。この食パン飲み込んだら変わりますぅ~。だって同じクラスに男子が来るんだもん!
「おっはよー!」
教室に到着。例の“唯一の男子編入生と同じクラスになる抽選”に当たってA組になることが決まってたから、クラス替えの表も見ずに直行した。
「おっ? 来た来た♪ “ギリギリ姫”が、初日からギリギリを攻めてきたねぇ」
入るなりそんなことを言ってきたのは、親友の瀬藤穂ノ葉 (せとう・ほのは)。私と同じく抽選でA組に決まった。本人はわざわざ応募しないと言ったんだけど、できれば同じクラスになりたくて私が応募するようにお願いした。無事に2人そろって当選。
「ちょっとやめてよ。それは今日で卒業するんだから」
「ホントにできるの? “ギリギリ姫”の姫島さ~~ん」
ヤジまで飛んできた。去年も同じクラスだった子は、私の毎日の登校時間を知ってる。
「遅刻したことはないのに、なんでそんな呼ばれ方されなきゃいけないのよ」
「遅刻だけはしないことがより拍車を掛けてるのよ。ある意味で、このみの凄いところよね」
「遅刻のしすぎで内申に影響が出たお姉ちゃんを見てきたからね。どんなに朝が弱くても、遅刻だけはしないように体が動くみたい」
お母さんが学校に呼び出されたり、先生が家まで押しかけて来たりしたっけ。
「あはは・・・このみん家で何回か会ったことあるけど、すごい人よね」
「大学に上がってからは、もっと自由人になったよ」
「想像できちゃうわ・・・このみの三姉妹って面白いよね。下の子ほどしっかりしてるんだもん」
「それを言わないで・・・」
私は3人姉妹で、ズボラな大学生の姉まなみと、しっかり者の中学生の妹つぼみがいる。お姉ちゃんは栄麗の卒業生で、3つ上だからかぶったことはないんだけど“遅刻女王”なんて呼ばれてたことは先生から聞いてる。そして私は“ギリギリ姫”・・・。
妹のつぼみは本当によくできた子で、2つ下なんだけど中学校の生徒会長をやってる。私とお姉ちゃんの妹であることが今でも信じられない。来年高校生だけど“栄麗には行かない”と断言してる冷たい子。姉2人で姫島家のイメージを落としてしまったのがいけないんだけど。
「にしても、ウチもついに共学かぁ~っ。どんな人が来るんだろ」
「イケメンまでは望まなくても、それなりに優しくて、それなりにカッコよかったら良いなぁ~っ。なんせ、運命の出会いなんだもん」
「まだ言ってるし。この場にいる全員が同じ境遇なんだから、このみ1人の運命じゃないでしょ」
「約7倍の抽選倍率を勝ち抜いたんだから十分に運命だよ。そういう穂ノ葉だって私のライバルになっちゃうんだから、もしもの時は私遠慮しないからね?」
「あたしは参戦しないわよ、そんな争い」
私知ってる。こういう興味ない素振り見せてる人に限って無類の男好きだってこと。外ですれ違う男子の顔はついついチェックしちゃってるもんね。それに、私が家に行った時は隠してるみたいだけど、イケメンのポスターやら写真集が山ほどあるの知ってるからね。
「おはよう姫島さん」
ん、この喋り方にこの声は・・・。
「あら、瑠璃華じゃない。どうしたの」
この子は、新宮瑠璃華 (しんぐう・るりか)。国内でも有数の巨大企業・新宮グループのご令嬢で、常に自信に満ち溢れた表情をしている。
実際に自信家であるだけの教養も兼ね備えていて、立ち振る舞いには品があるし、茶道に華道、楽器に絵画もそつなくこなし、スポーツも勉強も上位1割には入る強敵。
去年も同じクラスだったんだけど、とても品行方正とは言えない私には何かと突っかかってくることが多かった。学級委員長だったから、あくまで委員長として私を矯正しようとした部分もあるみたいで、根は良い人なのかも知れないけど。
「“どうしたの”じゃないでしょう。このクラスにいるということは、男の子の編入生に興味があるのでしょう? 観賞したいというだけなら構わないけど、まさかこの私がいる中で、その男の子との仲を深めようだなんて考えてたりはしないわよね?」
「考えてるよ。わざわざ抽選まで申し込んだんだから、ただ見てるだけなんてもったいないじゃない」
「まぁ、本気なのね。でもいいわ。その方が張り合いがあるというものだし」
「いくら瑠璃華でも、そうそう上手くいくとは限らないんじゃない?」
「言ってくれるじゃない。何を根拠に」
「瑠璃華、あなたには決定的な弱点がある・・・それは、新宮グループのご令嬢であることそのものよ!」
「なん、ですって・・・!?」
「考えてもみてよ、あの新宮グループのご令嬢よ? 一般庶民には高嶺の花すぎるじゃない。父親の目も厳しそうだし、これだけ周りに女子がいる中でわざわざ選ぶとは考えにくいよ」
「それは確かに・・・だけど私も、お父さまが用意した人の中から生涯の伴侶を選ぶなんてまっぴらよ。自分でちゃんとした恋を見つけるんだから」
「だったら男女比半々のトコに編入すればいいじゃない」
「それをあなたが言うの・・・こっちにはこっちの事情があるのだから、そう簡単に学校を変えるなんてできないわよ。確かに新宮グループであることが足枷になる可能性も否定できないけれど、そのくらい撥ねのけて見せるわ。
姫島さんこそ、男女比半々の学校でもたまたま隣の席になった人が“運命の出会い”になるのではないの?」
「瑠璃華、私はね・・・朝が弱いから近いところじゃなきゃダメなの」
「さすがは“ギリギリ姫”ね。馬鹿正直な返事をありがとう。せめて、今回の男の子との出会いをきっかけに改善されることを祈るわ。それじゃあね」
瑠璃華は自分の友達のところに戻って行った。本人が新宮グループ令嬢だから取り巻きに見えてしまうけど、気さくなところもあるから良好な関係みたい。
「瑠璃華までライバルになるなんて、ツイてないわね~このみ」
「別に。運命の出会いなんだから、これぐらいの障害は乗り越えてナンボでしょ」
「強いわねあんた・・・」
そうこうしてるうちに、ホームルームが始まった。ついに、夢の男子とのご対面だ・・・!
「みんなも知っての通り、このクラスに男子の編入生が来る。女子ばかりで何かと過ごしづらい部分もあるかも知れないが、あまり肩身の狭さを感じさせないようにしつつ、サポートしてやってくれ」
「「「はーーーい」」」
男子がやってくるとあって、教室はいつになく浮わついた空気になっている。私もそわそわして落ち着かない。こういう時は穂ノ葉を眺めよう。あぁ、その、興味なさそうな感じ、すごく落ち着く・・・。
「よし、いいぞ。入れ」
「はい」
おぉ! 男子の声! この栄麗学園で先生以外の男の人の声を聞くことになるなんて!
そして、これから同じクラスの仲間になる男子が、ゆっくり足を踏み入れる。へぇ、こんな制服なんだ、って、あれ?
「あっ、あっ・・・」
もう、顔まで見えてる。横顔だけど、はっきり分かった。
「ああぁぁぁぁ~~~~~っ!!」
思わずガタッと立ち上がってその男子を指差してしまった。なんと、ついに拝むことができた編入生は、さっき交差点でぶつかったばかりの男の子だったのだ! これは、運命。
運命!!
「き、君は・・・」
大声を出しちゃったことで、当然だけど編入生の視線は私を向いた。間違いない、さっきぶつかったあの人だ!
「なんだ2人とも、知り合いだったのか?」
「い、いえ、今日が初対面ですけど、けさ食パン咥えてダッシュしてたところでぶつかってしまって・・・」
あ、やべ、言っちゃった。
「お前なぁ・・・ばっちり人さまに迷惑かけてるじゃないか。いい加減にしろ」
ふえぇぇぇ・・・っていうか、食パンダッシュしてたところでぶつかったのは運命っちゃ運命なんだけど。
「いえ、僕もスマホで地図見ながら歩いてたので」
「そうか。じゃあお互いに不注意があったってことで許して欲しい。ただ、その・・・元女子高だけにああいうガサツなのもいるが、姫島は特別だ。“ギリギリ姫”なんて呼ばれてるぐらいだからな。“遅刻女王”の姉よりはマシだが」
「あ、はは・・・」
うあぁぁぁぁ・・・もう私“そういう奴”って思われちゃったぁぁぁぁ。第1印象はともかく、第2印象は最悪だよぉ・・・。どうすればいいの穂ノ葉ぁぁ、と思って見ると、呆れたように片手で頭を押さえていた。でもって瑠璃華は必死に笑いを堪えていた。私、このビハインドを負った状態からスタートなの・・・?
「姫島に限らず女子はみんな、男子の目があるんだから気を引き締めるように。普段の言動にも気を付けろよ」
「「「は~~~~い」」」
「それじゃあ気を取り直して、自己紹介を頼む」
「はい」
編入生くんが黒板の方を向いて、チョークで名前を書いた。
「尾道晶 (おのみち・あきら)です。南東京高校から編入して来ました。編入したてで、2年は男子1人で何かと馴染めない部分もあるかと思いますが、仲良くしてくれると嬉しいです。よろしくお願いします」
「「「わーーーっ」」」
パチパチパチパチ。
「あたしで良ければ学校案内するよ~!」
「じゃああたしは学校周辺の美味しいお店を案内するよ~~!」
「その後はアタシの家に案内して手料理作ってあげるよ~~~!」
案の定というか、みんなアグレッシブだ。
「早速浮足立ってるんじゃない! 尾道も、あまり流され過ぎないようにな」
「はい」
「席は、見たら分かると思うがあそこだ。4月だから出席番号順になってる」
そう、席は出席番号順で決まってしまっていた。私は姫島で、彼は尾道だから離れてる。返事をした尾道くんが自席に向かう。
「よろしくね、尾道君」
よりにもよって瑠璃華の隣! これほどまでに、自分の名前を呪ったことがあるだろうか。瑠璃華の2つ後ろが穂ノ葉で、軽く微笑みながらも品定めするように尾道くんを見てる。
(いい感じじゃない。少なくとも悪い人ではなさそうね。出会い方さえ違えばあたしも危なかったわ。問題は、このみに勝ち目があるかどうかね・・・)
“ギリギリ姫”バレし、席も離れてしまった圧倒的ビハインドから、私の恋路は始まってしまいましたとさ、めでたしめでたし・・・って、めでたくなーーい!
休み時間になるとすぐに、尾道くんのもとに女子が殺到。席が離れてる私は出遅れるしかないので、今回は諦め。いいもん、食パンダッシュでぶつかったことで良くも悪くも覚えてもらってるもん。
だけど、わざわざ私の席のところまで来た穂ノ葉と一緒に、私はその声を聞くことになった。
「あきら君~~っ! アタシのこと、覚えてる~~~っ!?」
えっ・・・えっ・・・!?
「知り合いでも、いたのかしら・・・」
まさか。どうせ“アタシのこと覚えてる?”商法に決まってる。だけどそんな希望は、すぐに裏切られることになった。
「アタシだよアタシ! 小さいころ隣に住んでた諏訪明音 (すわ・あかね)! もしかして忘れちゃった!?」
「あ、あぁ~~っ! もしかして明音ちゃん!? 言われてみれば面影あるかも。ビックリした・・・」
「アタシだってビックリしたよ! なんか似てるな~って思ったらホントに尾道晶君なんだもん! これって運命だよね!?」
うん、めい・・・?
「いやいやいや、幼馴染と再会した程度で何を・・・食パンダッシュでゴッツンコからの同じクラスには勝てないでしょ」
「勝てるでしょ・・・」
「穂ノ葉は黙ってて。そんな、私との衝撃的な出会いを超える運命なんて、あるはずが、ない、のに・・・」
「見るからに意気消沈してるじゃん・・・」
だってだって~~、幼馴染とのまさかの再会だよ!? なんでこうなるの~~~!? どうせなら私の幼馴染だったら良かったのに! 隣に同級生なんていなかったけど!
尾道くんの周りがワイワイガヤガヤしてる真っ最中に、教室のドアの方も少し騒がしくなった。尾道くんを見に来た他のクラスの子が結構いるんだけど、それだけじゃなかった。
「な、奈菜子お姉さん・・・!」
廊下の野次馬の誰かが言うと同時に、その人は姿を現した。
「尾道くんは、いますか?」
生徒会長の七ヶ浜奈菜子 (しちがはま・ななこ)先輩。通称“奈菜子お姉さん”で、文字通りみんなのお姉さん。才色兼備を兼ね備え、成績はもちろん学内トップ。穏やかな雰囲気でありながら生徒会長としての手腕も折り紙付きで、困った時は相談に乗ってくれるし助けてくれる、頼りになる存在だ。
あの瑠璃華ですら一目置いていて、瑠璃華は運動も含め芸達者ではあるけど勉強面は上位1割止まり、人助けや書類仕事をするタイプでもないので、頼りになるのは誰かと聞かれると断然“奈菜子お姉さん”になる。
その奈菜子お姉さんが、私たちの教室にやって来た。しかも、尾道くんに用事だと言う。存在感は圧倒的で、尾道くんを囲んでいた女子たちも気付けば口を止め、奈菜子お姉さんの方を見ていた。
尾道くんも固まっていたけど、女子の1人が「生徒会長さんだよ。用があるみたい」と言ってようやく動き出した。奈菜子お姉さんも入って来て、自然と教卓のそばに落ち着いた。
「ごめんなさいね。本当は春休み中に来てもらった時に挨拶するつもりだったんだけど、家族の用事が入ってて・・・」
「いえ、大丈夫です。僕の方こそ、今日早めに行って挨拶すべきでしたね」
編入の手続きか何かで、尾道くんは春休み中に学校に来てたらしい。で、そこに顔を合わせられなかった奈菜子お姉さんが今、挨拶に来てるってことか。
1年生が5%ぐらい男子の他は尾道くんだけで、3年生への男子の編入は無かったから、唯一の編入生に生徒会長が挨拶に来るのは不思議なことじゃない。だけど、何だか嫌な予感がする・・・。“早めに行って挨拶すべきでした”が、妙に引っ掛かる・・・。
「大丈夫ですよ、そんな。こちらの都合で生徒会に入ってもらうことになったのですから」
「「「「「ええぇ~~~っ!!?」」」」」
その場にいる女子全員が驚いた。もちろん私も。
「皆さん、ごめんなさいね。こういう形で知らせることになって。今年から共学になるに当たって、男子生徒を1人生徒会に入れる方針になって、唯一の2年生である尾道君にお願いすることにしたの」
そう、なんだ・・・。妥当と言えば、妥当だ。これから男子も過ごしやすい学校にするためには男子メンバーも必須、となると尾道くん一択で決定するはず。つまり・・・、
「初めまして。生徒会長の七ヶ浜奈菜子です。編入したばかりで生徒会というのは大変だと思うけど、私を始め生徒会のメンバーでしっかりサポートするから、よろしくお願いしますね」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
どう考えても強敵にしかなり得ない奈菜子お姉さんと、生徒会活動を通じて毎日交流することになるのか・・・! これは、とんでもなくまずい・・・!!
「・・・このみ、顔まっさおよ」
「言われなくても、分かってるわよ・・・」
瑠璃華や諏訪さんだけなら、まだ何とかなった。それなのに、ここへきて奈菜子お姉さんまで立ちはだかるなんて・・・。
「ごめんなさい、みんな尾道君とお話ししたいはずなのに邪魔してしまいましたね」
それで奈菜子お姉さんは、最後に尾道くんと挨拶を済ませてこの場を離れた。早速、今日の放課後から尾道くんは生徒会入りするらしい。
「・・・みんな、どう思う?」
「正直、既に奈菜子お姉さんが一歩リードね。あんな聖女のような人と毎日過ごすんだもん。他の女子なんて目もくれなくなるわよ。新宮さんや、幼馴染だっていう諏訪さんもこればかりは厳しいんじゃない?」
早くもダービー予想になってるし。
「あたしはまだ諦めないわよ? 素朴な女っていうのも魅力はあるはずよぉ」
「やめときなって~。痛い目見ないうちにさ、観賞に徹しましょ♪」
「だったら何のために私は7倍の抽選を勝ち抜いて・・・!」
一応まで諦めない人もいるみたいで、周りの女子たちはあーだこーだと言い合っている。当事者である尾道くんもいる状況で。
「え、っと・・・」
(俺はどうすればいいんだろう・・・)
当然彼は苦笑いしかない。そこへ瑠璃華が声を掛けた。
「尾道君~? 生徒会があるのは仕方ないけど、せっかく同じクラスになったのだから、私たちとも仲良くしてよ?」
「そ、それはもちろん・・・!」
「あきらくんあきらくん、アタシも忘れちゃダメだかんね!」
諏訪さんも負けじと食い下がる。
「うん。新宮さんも明音ちゃんも、他のみんなも、よろしく。俺としても、栄麗学園での生活を充実したものにしたいから、同じクラスで一緒に頑張っていこう」
「「「きゃ~~~っ♡」」」
奈菜子お姉さんの登場で元気がなくなっていたみんなも、今のでだいぶ戻ってきた。諦めて観賞に徹することにした人にとっても、男子と過ごせる時間というのはやっぱり何にも代えられないものみたい。
もちろん私は、諦めるつもりなんかないけど。と思ったら、穂ノ葉がこんなことを言ってきた。
「このみ、悪いことは言わないわ。早いうちに諦めた方が身のためよ」
「なによ~~っ。そこは親友として応援するところでしょ?」
「親友だからこそよ。このみが、何かに打ち込んだらどれほど凄いかは知ってるわ。ピアノとかスワヒリ語の時みたいに、どんな努力も惜しまないんでしょ。でもそれで、上手く行かなかった時に立ち直れなくなる姿を見たくないもの」
「なんで失恋する前提なのよぉ~。上手く行かせればいいのよ上手く行かせれば」
「だってこれだけ女子がいて、瑠璃華に、離れ離れになってた幼馴染に、あの奈菜子お姉さんもいるのよ? どうあっても無理だって」
「無理なんて理由で諦めてたら、運命なんてそこで終わっちゃうじゃない」
「じゃあどんな理由があれば諦めるのよ・・・」
「“諦める理由”って言葉自体がおかしいのよ。一度でもフラれちゃったら終わり? 尾道くんが誰かと付き合っちゃったら終わり? 違うでしょ。上手く行くまで頑張り続ければ、結果は必ずついてくるのよ」
「あんたってそういう人だったわね。忘れてたわ」
「分かったならちゃんと応援してよね。それともライバルになっちゃう?」
「ならないわよ。ちゃんと応援するから、頑張ってね」
(このみには、絶対に勝てないからね)
穂ノ葉としゃべっているうちに、尾道くんはまた女子に囲まれていた。もうすぐ1限目が始まっちゃうけど、今日のうちに一度は声を掛けておかないとね。
瑠璃華に、諏訪さんに、奈菜子お姉さんに、その他大勢。ライバルは多いけど、私だって1人の女。食パンダッシュでぶつかった出会いもある。絶対に、ぜぇ~ったいに尾道くんをゲットしてみせるわ。さすがに女子に囲まれてタジタジになってるみたいだけど、ハーレムなんて許さないんだから!
無期限活動休止に伴い、次回は未定です