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スノーフレークに憧れて  作者: もちっぱち
4/14

第4章

 



 雲ひとつない青空の下、風も穏やかで、気候もちょうど良い半袖の季節。



 ある親子はだだ広い遊具がたくさんある公園に訪れていた。


 母は大きなリュックにサッカーボールやシャボン玉、野球のおもちゃバットとボール、凧揚げ、けん玉を入れたジッパーつきの袋を片手に持っていた。



「ねぇ、お母さん。ブランコ乗っていい?」



「うん、いいよ。お母さん、ここのベンチにいるね。好きに遊んでおいで。」



「はーい。」


 その公園には、ブランコや、長い長いローラー滑り台、動物の形をしたシーソー、小さなロッククライミング、砂場、タイヤ飛び、ターザンロープ、グローブジャングルなど、子どもがそそる遊具がたくさんあった。


 白狼美香子しらかみみかこ   

龍弥の母は、子煩悩で子どもと一緒に遊ぶのが好きだった。日曜日はもっぱら公園に遊びに行っていた。



「美香子、あんま遠くに行かせると迷子になるんじゃないのか?」


 ズボンのポケットに手をつっこんで、何も持たずに現れたのは龍弥の父白狼伸哉しらかみしんやだった。


「良いの。ここから龍弥の姿よく見えるから。あの子はひとりっ子みたいなもんだから、公園で友達作って遊んだ方がいいのよ。そんなこと言うなら、あなたが龍弥の近くに行ってあげなさいよ。」


 腰に手を当てて美香子は言う。


 伸哉はめんどくさそうにベンチに腰掛けた。


「えー、俺行くの?」



「口では言うくせに行動にうつさないよね。ずるいんだから。」



「…おかあさん!転んだ!!」



 龍弥が遊んでいたかと思うと、1人でブランコで立ち漕ぎをしようとして転んだらしく、両肘を擦りむいて擦り傷を作っていた。


「あらら、大変。待って、今、絆創膏出すからね。」


バックの小さなポケットから絆創膏を取り出した。



「痛かったよぉ。」



「はいはい。今、ぺったんしてあげるから。」


 腰を屈めて、美香子は龍弥に絆創膏を2箇所貼り付けた。


「龍弥、良いなぁ。俺にも貼って~。」



「あなたはどこもけがしてないでしょ。」



「いや、してるよ。心の傷…。」



 両手で胸をおさえる伸哉。どの時点で傷ついているかは定かではない。


「んじゃ、僕がぺったんしてあげる。なでなで、いたいのいたいのとんでいけー。」


心専用の絆創膏は無いため、龍弥は父が可哀想になったのか、小さな手で父の胸をなでなでしてあげた。



「いいねいいね。俺、龍弥のなでなでで治った気がする!」



「何言ってるの?ほら、龍弥と一緒に遊んできなさいよ。私、あそこの芝生にテント準備しておくから。」



「はいはい。」


 行きたくなさそうな目で、龍弥の手を繋ぎ、公園の中を散策に行った2人。



この頃の龍弥は、純粋でおとなしくて、誰に対しても優しく、可愛かった。


 まだ、4歳になったばかりで、幼稚園に通い始めたばかりでようやく社会というものが分かり始めてきた頃だった。


 日曜日の晴れた日は、いつも親子3人で公園遊びに来ることが多かった。


 午前中から母の作ったおにぎりをテントの中で食べて午後のおやつの時間までめいいっぱい遊んだ。


 今日はあまりにも疲れすぎて、帰りの車の後部座席でよだれを垂らしながら熟睡していた。


 運転席に父の伸哉、助手席に母の美香子、ワゴン車の広い後部座席には龍弥が独占して乗っていた。荷物も詰めて、広く使えたため、レゴブロックや、恐竜のフィギュア、人気ゲームのぬいぐるみなど、龍弥の好きなものグッズで溢れていた。



 ごくごく普通の家庭で育っていたはずだった。その日の夜までは…。




 家に着くと、夕ご飯も食べずに寝静まっていた龍弥は、居間にタオルケットをかけて寝ていた。


 母は、夕ご飯作りに台所へ、父はテレビのニュースを見ながら、携帯ゲームをしていた。


「龍弥、起きないね。もう食べちゃう? 龍弥、このままきっと寝ちゃうよね。寝室に寝かせてこようかな。」


「うん。今日は、たくさん遊んでたからな。その方がいいかもしんないな。」


 伸哉は重い腰を上げて、美香子の代わりに龍弥を抱っこして、寝室へ連れて行った。


「ごめん、ありがとう。今、ご飯用意しておくから、パジャマに着替えさしてて。」



「ああ、わかった。」


 伸哉は言われた通りに龍弥の着ていた服を脱がせて、パジャマやシャツ、おねしょパンツを履かせて、タオルケットをかけてあげた。



 引き戸のドアをしめて、2人は夕ご飯を食べ始めようとした。



 龍弥は、体を動かされて、少し眠そうに目をこすったが、まだ眠くて、体を起こすことができなかった。


 目は少し開いていた。



「ん…うーん。」



 真っ暗な部屋で1人寝かせられていることに寂しくなった龍弥は体を起こそうとした。居間で2人の会話が聞こえてきた。



「ねぇ、いつなったら言うの?本当のこと。」

 

 美香子は、トレイに乗せたおかずを食卓に並べながら言う。



「え、何、なんの話よ。」


 コップにビールをトクトクと注いで、落ちそうな泡をすする伸哉。


「だから、龍弥の話。いつまでも黙ってられないよね。いつかは言うって決めてたし。」



「もうちょっと、大きくなってからもいいじゃないの?」



「え、でも、大きくなってからでは、手遅れってこともあるんじゃないのかな。いろんなママ友さんに聞いているけどさ。里親制度利用してるのってうちらくらいだし、結構ストレス感じるんだよね。本当の家族じゃないってことが。話の中でよく言われるのよ、龍弥くんは誰似かなって。だって、どっちにも似てないから。似る訳ないでしょう?産んでないし、私。その会話にいる時の私のストレスったら、たまったもんじゃないのよ。いっそのこと…言ってしまいたいって…。あ。」



 龍弥は聞き耳立てて聞いていたようで、引き戸の隙間から覗いていた。



「…お、おかあさん、その話。本当なの?」



 父の伸哉はバツ悪そうにほらっという態度を取った。自分は悪く無いぞという顔をしている。美香子は、冷や汗をかいた。



「龍弥、どした?目覚めちゃったのかな。夕ご飯、どうする?食べる?」



「今の話!!!! 本当なの????」



龍弥は母の美香子の言動を信じられなかった。ご飯の話を聞きたいんじゃない。優しい言葉をかけて欲しい訳じゃない。真実を知りたいだけだ。自分は本当の家族じゃないっていう言葉に、耳を疑った。



「え・・・えっと。」



 頭をポリポリかいて、言葉を詰まらせた。


 龍弥は目いっぱいに涙をためて、真っ暗な夜道をパジャマのまま飛び出した。



(僕はお母さんとお父さんの子じゃないの!?ずっと一緒にいるのに…、なんで、なんで。僕は、一体誰の子なの?!


 額にたくさんの汗をかいて、無我夢中で暗い道を駆け出した。


 行く先は無意識のうちに近所にある小さな公園。


 真っ暗でぼんやりと街灯が3つ光っている。どこに行く宛もなく、公園のブランコに座って、ギーコギーコと静かに裸足で履いた靴で地面を蹴飛ばした。


 夜の公園は初めてで、怖かった。


 それでも、家の中に入りたくない方が気持ちが強かった。


 

 ぐすんぐすんと泣きながら、ブランコを何回も漕いでいると、肘の絆創膏に気がついた。昼間、龍弥がけがしたときにおかあさんが貼ってくれたものだった。家族じゃなくても、自分に貼ってくれる絆創膏。


 おかあさんじゃないかもしれないのにどう接すればいいかわからなくなる。



「龍弥~。龍弥~。」

 

 遠くで懐中電灯を持ちながら、叫ぶ美香子の声がした。


 龍弥は気づかれなくて、顔が見えないように後ろ向きにブランコを座った。


 それでも龍弥だと気づく美香子。その後ろから心配して伸哉も来ていた。


 かかんでそっと龍弥の近くに寄り添う美香子。



「龍弥?ごめんね。」




「いや。」




「聞いて、お願い。」




「いやだ。」



「龍弥…。」



 美香子は、そっとブランコに乗る龍弥を抱きしめた。それを龍弥は逃げ出そうとするが、逃げきれなかった。


「お願い、行かないで。龍弥は私たちの家族だよ。大事な大事な家族なの。」




「でも、さっき本当の家族じゃないって言ってたでしょう?!」



「うん。そう、血のつながらない家族なの。私は、龍弥の本当のお母さんじゃないけど、すっごく大事にしてる。本当の息子のように思ってるの。それだけは本当なんだよ。ね、伸哉もそうでしょう?」



「ああ。龍弥、お前は、俺の子どもだ。血のつながりなんて関係ない。大事な家族だから。今まで黙っててごめんな。」


 

 伸哉も2人を後ろからぎゅっと抱きしめた。



いつかは訪れる真実を言わなくてはいけない時。美香子と伸哉は龍弥と真剣に向かい合った。けれども、龍弥にとっては本当の家族じゃないことに疑問と本当の母親を恨んだ。


 自分のことはどうでもよかったのかと心が歪んだ。



 涙が止まらない。



「本当の僕のお母さんはどこなの?!会わせてよ!!」


 言わなきゃいけないのかと美香子はため息をつきながら言う。



「龍弥、ごめんね。龍弥のお母さん、あなたを産んですぐに天国行っちゃったのよ。体が弱かったの。産むことだけで精一杯だったんだよ。でも、私たちがずっとあなたのそばにいる。本当の家族ではないかもしれないけど、それ以上に大事にするから。お願い、信じて。」


 嗚咽がこみあげる。


 4歳にしてこんなに過酷な状況。

 人を信じることの恐怖をおぼえた。



 その頃からずっと小さいながらにして、龍弥は、誰に対しても本当の自分ではない誰かを演じて、心の殻を分厚く作った。


 大人しく、誰も傷つけないお利口な子。

 空気を読んで、周りに合わせ、変に作り笑顔をして、無理やりでも美香子や伸哉の希望通りの子ども演じ続けた。



 中学1年になってすぐに

 自らの皮膚を傷つけて戒める。


 ピアスがその象徴だった。


 本当の親ではない親を本当なんだと言い聞かせる儀式のようなもんだった。




 思春期の時だった。


 夏休み、家族で出かけようと思い出作りに県外に高速道路で3人で大きな旅行バックを車に積んでいた。


 暑かった。熱中症が心配される気温だと天気予報では警告するくらいの暑さだった。


 高速道路のトンネルで事故は起きた。好きなノリノリの音楽をかけて、車で盛り上がっていた。


「わあ、トンネルだぁー。」


 と喜ぶのも束の間。


 あっという間に目の前の景色が真っ暗闇になっていた。


 劣化したトンネルは、土砂崩れにより、道路を突き破り、白狼家族が乗る車に押し寄せてきた。息ができない。月や、トンネルのコンクリートやいろんな破片が混ざって埋め尽くされた。



 車の中にいたはずの龍弥はいつの間にか外に投げ出されている。

 

 奇跡的とか言いようがないが、消防隊の人に埋もれる土砂の中から見つけ出され、救急車に運ばれて、一命を取り留めた。


 しかし、いくら懸命の捜索はして、両親は遺体として発見された。もう、体を動かすことはできないし、話すこともできない。


 ベッドの上に白い布を被った両親を見て、泣きたかった。でも泣けなかった。


 涙が出なかった。


 出したかった涙のはずなのに。


 ただ、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。


 遺体安置所に何時間もいて、警察の人にまで心配されるほどだった。


 女性警察官に、両親の手から外された2人の結婚指輪を手渡された。


 肌身離さず持っておけば、絶対あなたを守ってくれるからと龍弥の手の中に入れてにぎりしめ、体をぎゅっと抱きしめられた。


「大丈夫、きっと大丈夫だから。」


 その言葉でほんの少し救われた気がした。


 その後、淡々と遺体は葬儀屋に任せられることになった。こんなにもあっさりしてしまうのかと思うと本当にこの2つは人間だったのかと思ってしまう。


息子1人でどうしろと悩んでいると、父伸哉の幼馴染の#佐々木雄二__ささきゆうじ__#という人が色々とお世話してくれた。後に話を聞くと、母の美香子の元旦那だと言うこともわかった。


 この三角関係の大人たちもいろいろあったんだろうなと若干14歳にして、勘づいてしまった。



「龍弥くん、大丈夫。俺がなんとかするから。任しといて。あ、ごめんな。娘のいろは、同い年で、恥ずかしいかもしれないけど、力にはなれるかも。」


「佐々木いろはです。龍弥くんだよね。昔、一緒に公園で遊んだことあったと思うけど…。」



「……。」


 静かに頭を下げて視線を逸らした。


「龍弥くん、いろいろ大変だけど、君のおじいちゃん、おばあちゃんから頼まれてさ。一緒に住むことになったから、名前も、名義変更して、君と同じ名前、白狼で名乗るから、心配しないで。学校の生活でも大丈夫のようにするよ。安心して。な。」



 雄二は、龍弥の頭をぽんと撫でた。龍弥は、初めて会う雄二にどう接すれば分からず、大人たちの言うことにただただ従うだけだった。


 後から知ったが、祖父母の経済状況では、龍弥を引き取れないと断腸の思いで美香子の元旦那ということで連絡が来た。



 両親が亡くなった今、龍弥を救えるのは雄二しかいないだろうと家族会議がなんども繰り広げられた。中学生でも何を話しているかくらいわかる。


 

 自分の居場所は本当にここなのかと疑問符を浮かべて、祖父に勧められたフットサルに行くことで気分を紛らわすことができた。


 生活が安定したところで、両親の葬式をすることができた。

 中学の制服を着て、引っ越してまもないいろはも葬式に参列した。





 そんな様子を真っ白なキャンバスを見ているかのように消えていく。




  過去の夢を見ていたようだ。






**** 

 




 息を荒くして 

 目を覚ました。                

 汗をかいていた。




 目の前に見えているのは

 白い天井にLEDのシーリングライトが見える。




 その横には、天井式のエアコン。




 視線を自分の体に移すと、

 ふと横にはパイプ椅子に座っている菜穂がいた。

 疲れたのか壁によりかかり、

 こっくりとうたた寝をしていた。


 あ、あと少しで倒れそうとなっているところを龍弥は慌てて右手で、菜穂の体をさっと支えた。


 

 ががっと点滴スタンドが動いた。



 左腕には点滴の針が刺さっている。



 龍弥は病院の処置室にいるようだった。


 目の前には薬や包帯などたくさん入った棚だったり、水道の蛇口だったり、看護師が使うであろう道具などが見えた。


 外来診察も終えて、辺りは静まり返っている。


 何床かのベッドが並んであったが、自分たち以外誰もいなかった。



「うへ!? あー、あれ。起きた??」




 龍弥の右腕の上で目が覚める。

 元の位置に龍弥は戻った。


 目をこすって菜穂は立ち上がる。



「もしかして、俺、倒れてたの?……あれ、包帯外れてる。」



「うん、そうだよ。レストランのトイレで倒れたのを、近くに座っていたご夫婦いたでしょう。旦那さんの方に見つけてもらって、奥さん破水したって言ってたからついでに病院連れてってもらった感じ。救急車と思ったけど、アーケード内って車両入れるの大変でしょう?めんどいからって洸さんが龍弥背負ってくれて車で送ってくれたのよ。」



「……あぁ~。そうだったんだ。ってその奥さんは大丈夫だったの?」



「あー、なんかまだ赤ちゃん出てこないって結構時間かかっているみたいだよ。気になる?後で様子見に行こうか?同じ病院だから。産婦人科だけど。」




「…うん。気になるけど。大丈夫かな。」




「助けてもらったし、お礼に行きたいよね。それより、龍弥、さっきうなされていたけど、大丈夫?」




「ああ。ちょっとやな夢見てて…。そういや、ごめん。オムライス、お腹すいてたのに、途中で帰ってきたみたいで、会計とかできてた?」



「全然、平気だよ。オムライス食べられたし。会計は…洸さんがまとめて払ってくれたよ。龍弥、倒れていたし、私が払えばよかったんだけど、2人分の持ちあわせ無くて…。」



「どんくさ。だから、俺に奢れってことだったのね。」



「ひどいな。そこまで言わなくても…。その通りなんだけどさ。あ、着信、ちょっと出るから。」



「ああ。どうぞ。」



 菜穂は、スマホを見ると電話着信画面が出てきた。将志と表示された。父からの電話だった。




『菜穂?今どこにいんの?』



「え、あのね。今、龍弥が倒れて、点滴してるよ。杜とみどりの総合病院にいるんだけど、迎え来れるかな。」



『え、龍弥くんと一緒なの?珍しい組み合わせだね。倒れたって、大丈夫なの?まぁ、お酒飲んでなかったから行けるけど、駐車場で待ってればいい?そうだなぁ、あと20分くらいで着くから。』



「うん。わかった。お願いします。」



 菜穂は電話を終えて、スマホをバックにしまった。龍弥のする点滴の薬液の量を確認するともうまもなく終わる様子だった。



「これが落ちてきたら終わりだから、あと少しだね。入院するわけじゃないからこれ終わったら終わりだよ。」




「あ、ああ。」



 当たり前のようにこなしてくれて、菜穂に感謝したいところだったが、何だか気恥ずかしくなって、言えなくなった。


 自然の流れで菜穂の父に送られることになったが、さっき言ってた夫婦の出産はどうなったか気になった。



「なぁ、菜穂、さっき言ってた洸さんって人。初対面の人におごってもらったって申し訳ないし、お礼言いに行きたいから案内してよ。」


 点滴を終えて、看護師に針を外されて、処置室を出る際に聞いた。



 今いる龍弥と菜穂は外来スペースで、美嘉や洸がいるのは産婦人科の入院スペース。



 総合病院で大きいところのため、場所を確認するのにマップを見ないといけないようだ。



「…と言われても、広すぎて私もよくわからない。ナースステーションに聞いた方早くない?確か奥さんの名前は…宮島美嘉さんだったかな。」


病院のマップの前で現在位置を確認すると入院病棟のナースステーションに向かった。


「そうなんだ。とりあえずあっち行こう。」



2人は看護師に確認して、どうにか、宮島夫妻に会うことができた。



 陣痛室で、陣痛のがしの真っ最中だった。


 産まれる直前の痛みと美嘉は戦っていた。


 予定日より早くランチタイム中に破水したため、陣痛が来るのを病院の陣痛室で待っていた。




「あれ、君たち。大丈夫だった??ごめんね、今、奥さん痛みと闘ってる最中だから…。」



 宮島洸が菜穂たちに気づいて話しかけてくれた。



「ご、ごめんなさい。苦しいところ、お邪魔しちゃって…。」



「ぅうぅうううう~。はぁはぁはぁ。」




 テニスボールを背中にあてて、痛みに耐える美嘉。


 まだりきむには早いようだ。



「……。」




 龍弥はなんとも言えない表情で見つめる。



「龍弥くんだっけ? トイレで倒れてた時はびっくりしたけど、貧血だったのかな? 大丈夫? ごめんね、慌てて背負って運ばせてもらったけどさ。元気になってよかった。」




「あ、その件に関しては、ありがとうございました。どうにか点滴をされて元気になりました。それに、何だかレストランのお会計をしてくれたそうで、申し訳ないです。代金支払うので、いくらだったか教えていただけますか?」



「もういいから。お見舞いだと思っておごられて…。今、悪いんだけどそれどころじゃない…かな…。美嘉、呼吸して、ヒーヒーフーって。」



「今、頑張っているんだけど、苦しくて、あ、陣痛のペースが早くなってきた。」



「宮島さん、子宮口開いてきたからそろそろ分娩台に行きましょうか。」




 看護師に声をかけられて美嘉はゆっくりと痛みに耐え、震えながら歩く。




「ていうか、こんなに苦しくて痛いのに分娩台まで自力って意味わからないんだけどぉ~!!」




そう言いながらも目的の場所まで歩いた。




 どさくさ紛れに菜穂と龍弥は、出産の瞬間を廊下の待合室で待つことになった。


 洸は美嘉の額を汗をタオルで拭いて、美嘉の隣で手を繋ぎ、今か今かと出産を待ち侘びた。



 数分後、廊下にも聞こえる産声が響き渡った。



「元気な男の子ですよぉ。」



 美嘉の胸元には青いシートに包まれて、赤ちゃんが乗せられた。


 洸は感動しすぎて、涙が溢れている。



「美嘉~、お疲れ様。がんばったなぁ。男の子だってよー。俺、嬉しいよー。」



「私よりも泣いているしぃ。ずるいよ。」



ベッドに歩いて移動して、看護師に押されて病室に移動する美嘉。


 ベビーベッドに寝かせられた産まれたての男の子。


 名前はまだ未定のため、母親の名前が貼り出されていた。



さっきまでギャンギャン泣いていた赤ちゃんは泣き疲れたのか、すぅーと眠りに落ちた。



「出産おめでとうございます。初めて、産まれたての赤ちゃん間近で見られて、感動しちゃいました。というか、すいません、いつの間にか出産まで居座ってしまって…。」



「あー、菜穂ちゃん。ごめんね、なんかいろいろ龍弥くんのことで忙しかったのに私のことまで。でも、いい勉強になるでしょう?高校生だもんね。これは見ておいた方がいいぞぉ。」



 美嘉は菜穂と龍弥がいても、全然気にしてなかった。


 無我夢中で陣痛と闘っていたようだ。



「逆に俺もまともに君たちを対応できなくてごめんなぁ。龍弥くんも、病み上がりなのに待たせてごめん。大丈夫だった?」




 病室で2人は温かく受け入れてくれた。


 何だかほんわかする。


 人と人との境界がない2人に心の底から安心した。


 拒否られると感じていたからだ。



 横にいた龍弥はあんなに子ども嫌いとか,家族見たくないって言っていたのに間近すぎる現場を見て、むしろ嫌という気持ちよりもこの場にいる自分が信じられなかった。





 出産を目の前で見ることなんて一生無いと思っていた。



「菜穂ちゃん、抱っこしてみる?」



「え!?いいんですか。」



 嬉しそうに菜穂は美嘉から赤ちゃんを受け取ってそっと抱っこしてみた。



 まだ産まれたばかりで目は開かず、手と足は不規則に動いている。



 そっと指を手の中に入れると自然と握り返してくれる。


 把握反射というものでそこに指があると握る仕草をする。



 赤ちゃんは、寝ていたと思ったら、ご機嫌だったようだ。



 菜穂は自然とはにかんだ。


 

 赤ちゃんがすごく可愛くて愛しかった。




「龍弥は抱っこする?」





「…俺はいい。落としそうで怖いから見てるだけで。」




 菜穂が抱っこする赤ちゃんに龍弥はそっと指を差し出すと菜穂と同じで誰でも優しく指を握り返してくれた。




 反射だと言うことは分かっていても、握り返してくれる優しさがとてつもなく心地よかった。



 温かく優しくて、爪の色も綺麗なピンク色をしていた。



 菜穂はそっと、ベビーベッドに寝かせた。




「菜穂ちゃん、抱き慣れてるね。初めてじゃなさそう?」




「姪っ子ちゃんを数年前に抱っこしたことがあって、歳の離れたお姉ちゃんの子どもなんですけど。いつ見ても赤ちゃんは可愛いですね。」





「…菜穂、そろそろ…。」



龍弥はやはり苦手意識があるのか、今の空間から逃げ出したくなる衝動にかられる。





「あ、そうだよね。お父さん、きっと駐車場に来てるわ。美嘉さん、赤ちゃん見せてくれてありがとうございます。洸さんもありがとうございます。そろそろ帰りますね。」




「あぁ。ごめんね、なんか引き止める感じで、また今度、うちに遊びおいでよ。赤ちゃん、見に来ていいから。な、龍弥くん。」




 背中をとんと軽く叩くと、洸は龍弥に名刺を渡した。



「俺、ここで働いてるから、ぜひラグドールに食べに来て。あと連絡先も書いてるし。食事のお礼とか気にしなくていいからさ。気軽にね。」



「あ、ありがとうございます。」



 龍弥は名刺をまじまじと見て、菜穂とともに病室を立ち去った。




「そういやさ、なんで包帯外れてるの?」



「ああ、言うの忘れてたね。内科の先生が外科の先生に連絡してくれてついでに

抜糸しましょうってことで、やってくれたよ。カルテに手術のデータ残ってたから、もう大丈夫ってことみたい。良かったね。寝てる間に事がすぎて…。痛くなかったでしょう?」




「あー、まあ。来る手間省けたから良いけど,内科と外科で会計が膨らむね。財布の中が,寂しくなるわ。」




「別にいいじゃん。バイト代入ったんでしょう。それにお昼は奢ってもらったわけだし。」



「そりゃそうだけど、バイトのシフト先月少なかったから入るお金もこの病院代金でほぼ消えるだよなぁ~。」



2人は病院の会計待合室で、知らず知らずのうちに隣同士座って会話していた。



自然と溶け込んで、普通に会話していることができていたなんて、うちに帰ってから気がついた。





 龍弥の中で心境の変化が生まれたのはこの時からだった。





 菜穂が空気のように近くにいても、違和感なくいつの間にかお互いに自然と他愛のない話もできるようになっていた。




 ただ、子どもや赤ちゃんの話題になるとどうしても頭の中で拒絶反応が出て、その場から逃げ出したくなる衝動にかられる。

 





フラッシュバックして


自分が自分ではなくなる。




フットサルしている

陽なキャラでもなければ、



学校に通う陰なキャラでもない。




なんでもない真っ暗な世界に

閉じ込められたような

感覚の自分に陥る。



厚い厚い壁が体を覆っていて

そこから抜け出せない。



自分はどこの誰の子どもでもない。

 

いるはずの母はいない。


名前も知らない。


生まれた場所もわからない。


父親さえも知らない。





あの時、あの「太陽の下で」のお店で

倒れた龍弥は、貧血ではない。




自分じゃない何にでもない者になって

思考停止になった。





 菜穂は、その時、龍弥本人も知らないもう1人の誰かを見たのかもしれない。





真っ青な空間に

ただ1人膝を抱えて浮かんでいた。



ここはきっと、多分水の中。



プールのような海のような広い広い水の中に、龍弥は膝を抱えて浮かんでいる。



辺りは水というもの以外何もない。



遠くと見ると暗くて何も見えない。




両親が亡くなってから

ずっと心は独りで、

誰かが来ても

心奥深くまで寄り添う人は

いなかった。



表面上の付き合いで、

大きな壁を作って過ごしてきた。



今いる空間も水の中に取り残されて

1人で浮かんでいる。



龍弥の心とおなじなのかもしれない。



このままの調子で

どのくらい持つのだろう。



もう息ができない。




肺の中に水が入りそうになる。




もうだめだ。




上がらないと。





下を向けば、真っ暗な闇。



上を見上げると

太陽でキラキラと輝いている。




水面に手を伸ばした。





早く早く浮かんでいかないと

呼吸ができない。







景色が真っ白に変わった。



現実に引き戻された。



夢を見ていた。





ーーー




今,龍弥はお風呂場のシャワーを

頭からかぶっている。




数週間ぶりに頭を洗っていた。





 ベルガモットオレンジの香りがするシャンプーを手の中で伸ばして,頭につけてワシャワシャと泡立てて、洗った。




フックにかけたシャワーから

お湯がたっぷりと流れてくる。




こんなに頭がスッキリするとは

思わなかった。




耳のけがの手術の後から

毎日ガーゼと包帯交換して、

スプレーシャンプーで匂いを

ごまかしていた。




やっぱり洗わないと気持ち悪い。




今日、病院で点滴もしたが、

やっと抜糸と包帯が外れて安堵した。




明後日は学校がある。


包帯が取れた状態でどんな姿で行くか

2日前から悩んでいた。



もうすでに菜穂には

ほとんどの自分を知られているが、

クラスメイトや学校の全校生徒、

先生には全てをさらけ出していない。



半分見られているから

もうさらけ出してもいいんではないかと

開き直った。



どんな口調?どんな言葉?

どんな反応をすればいいのだろう。



今までの自分はどんな自分だったのか。


机の上にあった、安全ピンで唇の下に穴を開けて新しいピアスをつけた。



 血が出ても気にしないで舐めた。


 口内炎になるのが気になったが、

 もう気にしないことにした。


 これまでの心の傷と比べたら平気だった。痛みと友達になると決心した。


 ラブレットと言われる部位だった。




 手術して塞がってしまった耳にはもうピアスは付けられなくなった。


 皮膚が落ち着いてからまた穴を開けようと、代わりに唇の下に穴を開けた。



 耳よりも影になってるから目立たないだろうと感じていた。



 ピアスの穴を一つ開けるごとに違う自分になれるという迷信を聞いたことがある。



 

 龍弥はそれを信じていた。




****



 月曜日の朝、興奮してほとんど夜は眠れなかった代わりにスマホの目覚ましよりも先に体を起こすことができた。



 いつもはしないベッドメイキング。

 丁寧にやった。



 

 クローゼットから制服を取り出し、パジャマ代わりのTシャツと半ズボンを脱ぎ捨て、ワイシャツに袖を通して、丁寧に袖を折りたたんでまくった。

 


 鏡を見ながら、ネクタイをつけ、ズボンに履き替えた。

 


 腰あたりでボクサーパンツがはみ出したのを整えてファスナーをあげて、ベルトを閉めた。


 

 棚に置いていたピアス代わりの母の形見の指輪を一つ左耳につけて、もうひとつの父の形見の指輪は自分の右手人差し指にはめた。



 指輪として使うのは初めてだったが、父の伸哉と同じ指のサイズだったらしい。



 ピッタリハマった。



 マットタイプのワックスを手に塗りつけて、銀色の髪を丁寧に整えた。


 フットサルに行く以外でつけるのは初めてだった。


 むしろ、学校にはヘアネットと黒髪ロングのカツラをかぶっていたのが、違和感を感じた。



 ガラケーとスマホを教科書や筆箱が入るバックの中に入れ、2つ折り財布をズボンのポケットに入れた。



部屋のドアを開けて出ようとしたが、ワイヤレスイヤホンを充電していたのを思い出して、バックにつめた。


 階段をおりて、台所に行く。



「あ、こんな時間に起きてここにいるの珍しいぃ~。」



 いろはが、焼きたての食パンに頬張りながら言う。祖母の智美は、エプロンをして、だんだんと会話してくれるようになった龍弥に声をかけた。


「龍弥は、ご飯いるの?」



「……んじゃ、パンだけ。」



「分かった。すぐできるから、座ってて。」



「お兄、目玉焼きいらんの?朝ごはんの定番は目玉焼きとウィンナーでしょう!あとブロッコリーとか…。」



 いろはは、皿の中に入ってるおかずを指さしながら言う。



「俺はパンだけでいい。」




「あ、そう。おばあちゃん、今日のお弁当にチキンナゲット入れてくれた?私がリクエストしたやつ。」



「えー、ごめんね。いろは。今日はからあげ入れちゃったよ。だめだった?」



「うそ!?からあげ? やったー。それなら文句なーい。」




「おい。いろは、わがまま言うなよ。」




「わがままじゃないよ。食べたいの言ってるだけじゃん。」



「龍弥も食べたいの、言ってもいいんだよ。」



「俺はいい。なんでも。」




「遠慮しないで良いのに…。はい、焼き上がったから、ハチミツとかジャムつけて食べてね。」



 智美は食卓に焼きたての食パンと、ブルーベリージャム、ピーナッツバター、はちみつの3種類をスプーンと一緒に並べた。



「ごちそうさまぁ。このお弁当もらってていいの?」



「うん。そう。暑くなってきたから、冷凍庫から保冷剤取って持っててね。」


 いろはは、冷凍庫から可愛い模様の保冷剤を選んで、お弁当袋に入れた。


 ついでに龍弥の分のペンギン模様の保冷剤を龍弥の弁当袋に入れた。



「ほら、お兄の分もあるよ。持っていくんでしょう。」



「あ、ああ。そこに置いてて。」



 その一言を聞いて、智美は涙が出るほど嬉しかった。


 いつも朝食も食べずに学校に行き、お弁当も素直に持っていかなかった龍弥が素直に持っていくと言ってるのに感動した。



「おばあちゃん。何、泣いてるの?」



「ううん。ちょっと目にゴミ入っちゃったかな。」


エプロンで涙を拭った智美。その様子をパンを食べながら横目で見ていた龍弥は、少し照れていた。



「おー。珍しいな、龍弥もご飯食べてるの?」


「あ、おじいちゃん、おはよう。」



「おはよう。あれ、いろはは、もう食べ終わったの?」



「うん。今日は朝練習行くから。試合近いからね、弓道の。」



「え?!朝練習今まで行ってなかったの?サボっていた?」



「違うよ。自主練だから、参加するのは自由なの。っと言っても私は練習少なくても良い成績残せるけどねぇ。1本1本が上手なのよ。」



「けっ、よく言うよ。ただ、単に朝練したくないだけだろ?」



 龍弥が首を突っ込む。



「そんなことないですー。朝、早く起きられないだけですー。悪かったわね!」


 舌をべーと龍弥に向かって出す。


 龍弥は眼中に無しにパンにハチミツ塗って、モグモグ食べる。



「ほう…。そうなんだ。朝練頑張って。ちょ、それ取って。」



「はいはい。新聞ね。おじいさんは何食べるの?パン?ごはん?」


「俺は、ご飯に納豆。あとその目玉焼きのおかずでいいよ。今日は隣近所のメンバーでグランドゴルフするから力つけないと…。」



「へぇー、ゴルフすんの?」


パンを食べ終わった龍弥が話す。


「お?ゴルフ興味あるか?今度、龍弥も参加しにくるか。でもなぁ、俺の出る幕なくなるから、やっぱ来ないで。これでも、町内会ではモテモテだから、お前が来たらポジション奪われるわ。」



「え?!おじいさん。なんですって?モテモテ?誰に?」



「いや、なんでもないですぅ。いただきます。」



「プッ。」



 オレンジジュースを含んだ口から噴き出した。笑いが止まらなかった。ごまかすように咳払いする。



「私、そろそろ行くねー。行ってきます。」


 身支度を終えたいろははバックを持って、玄関を出る。


 それを追いかけるように龍弥はお弁当を持って玄関近くに置いたバックを肩にかけた。



「行ってきます。」



 小さい声だったが、台所の方にも聞こえた。



 智美と良太は、顔を見合わせて喜んだ。



「良かったですね。龍弥、話できるようになって。」



「そうだな。」



「なんだか、学校に仲良い友達ができたからじゃないかっていろはが言ってるんですよね。女の子だったりして…。」



「高校生なんだから、彼女の1人や2人いるだろう。俺も昔、いたからなぁ。」



「何言っているんですか!あなたは全然モテなかったじゃないですか。暗い顔して勉強ばかりして…。私が拾ってあげたようなもんですよ。」



「俺を犬のように言うんじゃないよ。」



「犬みたいなもんですよ。」



 夫婦の痴話ケンカが続いていた。





****



「ねぇ、ついてこないでよ。」


家を出てすぐの歩道を同じ方向に歩く龍弥といろは。



「俺だって同じ学校行くだろうが。」

 


「そりゃ、そうだけど。一緒に行くの恥ずいから。やめてよ。」



「良いだろ、別に。カツラもしてないし。お前がヤダって言う格好じゃないから平気じゃんか。ほら、メガネもないだろ!」


「急にイメチェンしましたって人と歩けるか!?私、先に行くからゆっくり歩いてよ!!」


 早歩きでささっといろはは先に進む。



「ちぇ…。仲良し兄妹みたいにアピールできると思ったのに…。」


 前と全然違うよアピールを学校のみんなに知らしめたかったらしい。


 そんな都合のようには周りは動いてくれないだろう。


 だが、校門近くを歩くようになるとざわざわと黄色い声と視線が痛かった。



「ねぇ、あの人、うちの学校いたかな?ちょっと、銀髪ってかっこよくない?完全に校則違反してるけど。」



「あ、確かに。いなかったよね。急に変わった感じかな。ピアスもめっちゃ開けてるし。あんな人いたら、すぐ気づくよね。」



「おう、龍弥。今日は完全にその格好なんだな。カツラはしないの?」


 クラスメイトの石田紘也が龍弥に声をかけた。



「あぁ。しないよ。」



「お前さぁ、本当は俺と同じだったんだな。知らなかったよ。」



「俺はお前と一緒になった覚えはないけどな。」



「そんな釣れないこというなや。髪染めてるし、ピアスもバリバリ開けてんじゃねぇか。まあまぁ、仲良くしようぜ。クラスメイトなんだからさ。」



 肩を組まれた。龍弥の方が少し背が高いのに無理に合わせようと石田はする。



「あ!龍弥くん。おはよう!今日は、包帯外してきたんだね。大丈夫だった??」



 山口まゆみが、後ろから声をかけた。髪色が銀色だと分かってすぐに駆けつけた。


「ああ。まぁ…。」


 愛想は振りまかないスタイルで学校は過ごそうと決めていた。



さらに後ろから菜穂がトボトボと、龍弥がいても何も声もかけず、スルーするように歩いていく。


「あ…。」


「何、どうしたん?」


 石田は、龍弥の様子に敏感に反応する。



「別に、何でもない。」



「あ、菜穂~。おはよう。今日、体育、ハードルだってよ。私、苦手なんだけどぉ。」



「おはよう。そうなんだ。私もハードルは好きじゃないかな。」


 まゆみは龍弥から離れて、菜穂に声をかけた。



 どこか元気がなさそうな菜穂だった。



 その様子を斜め後ろから見ていた龍弥は何とも言えずに通り過ぎる。


 学校では友達ではなかったし、急に話し始めたら、周りにも影響するだろうと何もアクションは起こさなかった。



 横目ではしっかり菜穂が何をしているのかは確認だけはしていた。



 菜穂自身は、龍弥のことを考えないようにしていた。




 まゆみに龍弥のことを狙っていると聞いたときはこれは何も動かない方がいいだろうと決めていたからだ。




 親友じゃないと分かってはいたけれど、それ以上まゆみとの仲にひびが入るのを恐れていた。





 


放課後、菜穂は昇降口入り口で土砂降りの1人雨を眺めていた。


小雨になるのを待っていた。


台風が近づいている日本列島に待ったはなかった。


今日は雨風が強そうだった。



高校近くのコンビニで傘を買おうかなとそれまでは両手でカバーして進もうと決心した。



 折りたたみ傘をバックに入れておけば良かったと後悔した。



10歩進むと、自分のところだけ雨降ってないのか。足元が濡れていない。ふと上を見上げると、後ろから大きな傘で覆われた。龍弥だった。



「あ…。」




「使いなよ。俺,走って帰るから。」




「いい。コンビニで傘買うから。」




「強がるなって。ほら。」



左手にしっかりと傘を握らされた。



「良いって言ってるから。」



菜穂は思いがけず、怒りを見せて傘を投げつけた。



 ヒステリックに怒る人にみたいになってしまった。



「あ、そう。」



 龍弥は飛ばされた傘を拾って何もなかったように1人傘をさして校門の方に歩いて行く。



 違う。本当は泣くほど嬉しかったのに、素直になれない自分にイライラが募る。


体裁を気にして? 

まゆみのことを考えて? 

それとも今更声をかけられて

寂しかった?


自分で自分がわからない。




コンビニのことなんて考えるのを忘れて傘をささぬまま、校門までびしょ濡れで歩いた。



「雪田さん、そんなにびしょ濡れになったら、風邪引くよ?」


息を荒くして、昇降口から走って来たのは木村悠仁だった。



「あ、ありがとう。」




「俺,置き傘もう1本あるから使って。ごめん、生徒会あるからもう行くね。」




 来た道を戻って行く悠仁。

 わざわざ自分のために傘を持って声をかけてくれた。単純に嬉しかった。



 悠仁の優しさにどっぷりハマってしまった。



龍弥は数メートル進んだ場所から悠仁と菜穂を様子を見つめていた。




(俺じゃなければ誰でも良いのかよ…。

ちぇ…。)



 傘を渡したのに、受け取ってくれなかったことにガッカリした。



 そう言いながらも、学校で親しくしたところを周りに見られるのも困るなと考えていた。それでも胸のあたりがざわついた。




 菜穂は龍弥のことなんて考えておらず、悠仁のことを考えていた。




 縁もあって、ノート運びを一緒にやって、少しずつ距離が縮まるのを感じた。




 男性ものの大きな紺色の傘を歩きながら見つめる。



 傘を持ってまゆみが菜穂の前を通り過ぎていた。大きな傘で誰かわからなかったようだ。


 遠くにいる龍弥を,追いかけている。


「龍弥くん,待って~。」




「……。」


まゆみが来てるのを見て立ち止まる。



「私も天気予報見て、傘持って来てたんだ。龍弥くんも?」



「えっと、ずっと学校に置いてた傘忘れてて、やっと持って帰れるって感じかな。」


そう言っている間になぜかまゆみはなんでもないところに転んでいた。傘をさしているのに、真っ平で龍弥と一緒に帰れることにテンションが上がったらしく、びしょ濡れになっている。


 半袖の白いワイシャツも濡れている。スカートも絞れるくらい濡れてしまっていた。


 龍弥は吹っ飛んだまゆみの傘を取りに行って、頭の上にさしてあげた。


 左手には自分の傘と右手にはまゆみの傘で塞がった。



「大丈夫か?」


 男子には見てはいけないものが透けて見えて、後ろを向いて、見ないように努力した。


「転んじゃったよぉ。マジで痛いんだけど、わぁーん。」



 子どものように泣きじゃくっている。



「うん。傘持っているから起きなよ。」


 傘を差し出して、見ないようにしているため、手を貸すこともできない。



「龍弥くん、一緒の傘に入ってもいい?だってさ、私の服見られちゃうじゃん。隠してほしいの。」



「……あぁ!それで良いから、早く立ちなよ。」



 若干、キレ気味の龍弥は、まゆみの傘を閉じて、丁寧に巻き取って、マジックテープをしっかりとつけて手渡し、自分の大きな傘を持ち直して、まゆみの頭の上と自分の頭にかぶさるように傘をさした。


「わあーい。ありがとう。」


 自分の傘を持って、龍弥の隣に密着するまゆみ。



 左肩にかけたバックからハンカチを取り出して、濡れた顔や手足を拭いた。



 冷静に対応しているまゆみを見て、少し違和感を感じる龍弥。



「ウチまで、送ってくれるかな?」




「どっち方面なの?」




「えっと、ここまっすぐ歩いて15分くらいにあるから。良いよね?龍弥くんはどっち?」




「まっすぐ行って、2つ目の角で左曲がる。」

 


「なんだ、同じ方向じゃん。龍弥くんの方が近いんだね。ごめん、遠くなっちゃうけど良いかな?」



 まゆみは上目使いで言ってくる。

 白いワイシャツから透けて見えるレースが見えた龍弥はさっと視線を外して、見ないように努力した。




「…わかったよ。」




 あまり、行きたくなかったが、なんとなく、そのまま帰らせるのは防犯上、危険なような気がして、仕方なく、一緒にウチまで送って行くことにした。


 ボランティア精神がここで働くなんてと思ってしまう。好きでもないのに。



 さりげなく、車道側を歩くようにした。その行動にふとまゆみは嬉しかった。



 学校であった体育の授業でハードルが飛べなかったことや、テストの解答が合っていたのに書く場所を間違えて、赤点を取ってしまった話を歩いている途中でまゆみは話した。


 沈黙が苦手だったまゆみは話題を出すのに必死だった。


 

 龍弥は、学校の人と話すのは最近で、キャラも定まっていない。聞き役に徹していた。


 

 普段の龍弥はこれでもかと話す方だった。




「あ、ここなんだ。ありがとう。傘あったのに転んじゃって、しかも送ってもらってごめんなさい。」



 玄関先の屋根のあるところでお辞儀をした。



「いや、別に良いけど。」


 

 雨足が強くなっている。



「上がっていく?お茶でも飲む?今日、みんな帰ってくるの遅いから、気にしないで入りなよ。」


 返答を待たずして、龍弥の腕を引っ張った。


「え、俺は大丈夫だって…。」



 

「いいから、いいから。送ってもらったお礼したいから。」



 ほぼ強引に中の方へ連れて行かれる龍弥。


 仕方なしに傘を閉じて、丁寧に巻き上げた。



 玄関の中にあった傘立てにそっと立てかけた。


 

 嬉しすぎたまゆみは玄関の段差でまた転びそうになり、咄嗟に龍弥は腕で支える。


 ギリギリのところで倒れなかった。



「ちょっと、慌てすぎでしょう。落ち着けって。」



「ご、ごめん…。」




 顔を上げようとすると、急接近した2人は、龍弥は無表情で何とも感じなかったが、まゆみは終始ドキドキが止まらなかった。



 思わず、龍弥のワイシャツの首元を引っ張って、まゆみからキスをした。




 目を思いっきり開けたまま龍弥はびっくりして、まゆみの胸あたりをどんと押して突き放した。



「ちょっと…。何すんだよ。」



「ちょっとはこっちのセリフよ。今、胸触った!!」



「先にキスしたのはそっちだろ。急にするのはやめろって。触ってないし!押しただけだし。」




「急じゃなければいいの?」




「え…。」




 マジマジと龍弥の顔を見るまゆみ。

 何だか止められない雰囲気。

 後ろの壁に手をついて

 自然と後退りする。



「お邪魔しました~!!!」



 傘立てに置いていた自分の傘を慌てて、取り出し、玄関の扉を開けて、逃げ出した。



 メスの豹のようにまゆみはガツガツ行くようで、耐えきれなくなった。



 見た目はこんな身なりをしている龍弥は、女子と手を繋ぐ以上のことをしたことが無かった。



 人には恋愛に対してお節介をやくが、自分のことは後回しだった。


 

 自分の傘を広げて、家路を急ぐ。


 下唇を噛んで、イラ立ちを抑えようとする。



 雨はずっと止むことはなかった。



 水たまりが小さな川になるくらいに降り続いている。




 家に着いて、すぐにスポーツウエアに着替えた。

 今日はいつも行くフットサルをする日

だった。もう、これは体を動かして、ストレス発散するしかないと考えた。


 雨が降っていても、防水ブーツとライダージャケットを羽織って、ヘルメットをかぶる。滑るマンホールには気をつけてそうこうしなければと、車庫に置いていたバイクのエンジンをかけた。


 


 フットサル場に着くと、大雨が降っているためか、まだ誰も来ていなかった。 



 1人で、リフティングでもしてようとコートに出てボールを蹴って練習していた。



ふとベンチに目をやると菜穂が1人でスマホをいじり、ぼんやりしていた。



てっきり誰もいなかったと思ったのに、いたため、龍弥はリフティングしていたのをやめて、こちらに気づかない菜穂の後ろに回った。



 背後にいても気配を感じないのかずっとスマホの画面と睨めっこしていた。



 気づかないのに腹が立った龍弥は左手で右手をつかみそのまま後ろから菜穂の首に手を回した。



「何見てんのー?」



 それでも無反応の菜穂にこんなに近いのになぜ気づかないと疑問を浮かべる。


 数秒経ってから。



「うわぁ!? てかそんな仲良くないから!」



 反応が鈍い。

 突然立ち上がって跳ね除ける。



「おそ。てか、1人で何してんだよ。お父さんは?一緒に来たんじゃないの?」



 膝でボールを蹴り上げてリフティングした始めた。膝で蹴ったかと思うとすぐに後ろで左足でさらに高く蹴った。



「おばあちゃんが倒れたって言うから、病院行ってる。私だけここに残されただけ。」



「ふーん。一緒に行ってもいいじゃんね。」



「ここに来たかったから良いの。」



「そう。そんなに俺に会いたかったって?」


 冗談で言ってみると、顔を真っ赤にさせてそっぽを見せた。



「違うし!!!」



「本気にすんなって。冗談だから。あ、やば。下野さんに連絡するの忘れてた。ちょ、待って、見つからない。な、菜穂、電話してよ。俺のスマホ見つからないから。番号は080******

だからかけて。」


 ポケットを探したが、持ってきたバックもないようで、どこにスマホあるのかわからなくなった。


 菜穂に電話をかけさした。


「え、ちょっと待って。080****だよね。今かけてるから。」


 すると、目の前でスマホのバイブが鳴り続ける。ズボンのポケットでも後ろポケットを見るのを忘れてたっていう体で嘘ついた。


初めからスマホの場所くらいわかっていたが、わからないふりして着信履歴を残したかった。



「それ、俺の番号だから。なんかあったら連絡してもいいよ。ラインも知りたい?」



「目の前にあるじゃん。気づくの遅いし。ライン?別に用事ないよ。」



「ちょっと貸して。」



 無理やり菜穂のスマホを取り、ラインの画面の友達追加に自分のIDを入力して、登録した。



「はい。OK。これでいいね。宮坂さんいつやらかすかわからないからな。」




 パッと菜穂の手の中にスマホを戻して、またリフティングの練習を始めた。



「私、別に連絡しないからね。用事ないし!!」



「別にいいよ。俺から連絡すればいいんでしょう。言っとくけど、スマホの番号教えるの珍しいんだからな。しかもラインなんてよっぽどじゃないと俺は交換しないから。」




「あ、もしもし、下野さん。今日来れますか?ぜんぜん人数集まらないんですけど。」


『え?!龍弥くん、先週の出来事は忘れてない?俺は怒ってるんだよ。』



「既読スルーと着信スルーしたことですか?」


『そうだよ。てか、なんで出てくれなかったわけ。あの後、俺だけで女子大生3人相手してたんだからね。』


「ふー。モテモテじゃないっすか。その中の1人でも彼女できたんですか?」



『そうだね。3人とも俺の彼女だから…。んな訳あるかい?!振り回されて終わりだよ。1人だけ見込みある子はいたけどまだ彼女ではないけどさ。』



「よかったじゃないですか。彼女欲しがってたんですもん。そのまま付き合っちゃえばいいのに、瑞紀ちゃんと。」


『どうしてそれを・・・。』



「大体見てればわかりますって。俺を甘く見ないでくださいよ。それより、今日はどうするんですか?来るの?来ないの?」


『…はいはい。今から行きますよ。』



 下野をブツブツ言いながら、重い腰を上げて、こちらに来るらしい。


電話を終えて、次は滝田に電話をした。


「もしもし、滝田?起きてる?今日来れない?」



『え、龍弥さん。久しぶりですね。全然来てなかったですよね。もう、俺もやりたかったのに龍弥さん来ないからつまらなかったっすよ。今から行っても間に合いますか?』


「悪い悪い。怪我しててさ。休んでたの。今日は大丈夫だから、下野さんも来るし、あれ、他のメンバーも今ゾロゾロ来たみたいだから早く来いよ~。」


 龍弥が電話をしてる間に入り口付近から5人くらいの初めてであろうメンバーがぞろぞろ入ってきた。


 菜穂は、スマホの画面を見て、すこし微笑んでいた。まさか、電話番号とラインの交換すると思っていなくて、不意打ちで嬉しかった。


 学校では一切話さないのに、ここでは全然違う対応にちょっと癖になりそうだった。



 電話を終えた龍弥が菜穂のほっぺたを両手でつねってみた龍弥。


「何、笑ってるんだよ!」




「笑ってないし。スマホ見てただけだし。」




「さっきからスマホばっか見て近眼になるぞ。電子漫画?」




「良いでしょう。放っておいてよ。」



「お前のほっぺた、餅みたいだな……。あ、下野さん!早いっすね。」



 お餅のようにぐぃーんと伸ばしてみた。軽いいじりをやめてこちらに向かって来ている下野に声をかけた。

 


 電話をしていた時にはフットサル会場の駐車場だったらしい。



 すでに到着していたところだったみたいだ。



「何、じゃれあってるの?てか、本当に君ら付き合ってないの?パーソナルスペース近すぎない?」


荷物をベンチに置く下野。



「付き合ってませんよ。俺、同い年には興味ないんで、交際するなら年上ですから!」


 にやっと笑って、思ってもないこという龍弥。菜穂も同意するように何度も頷く。


「私も、こんな感じの人、全然、興味ないんで。眼中にないんです。ぜひ、下野さん、紹介してくださいよ。年上大歓迎です。」


「2人して、何で、そんな白々しいの?気が合うんじゃないの?この間だって、2人でいなくなったじゃん。」



「え?下野さん知らないっすか?菜穂、この間のカラオケでは、宮坂さんと一緒だったんすよ。」



「え?そうだっけ。ごめん、忘れちゃった。でも、結局、2人でいたんでしょ??」



「あ、まぁ、いろいろ諸事情がありまして、そんな感じですけど、付き合うって感じじゃないですし。勘違いですって。」



「ま、なんだって良いんだけど。俺は、もう、あの3人の面倒はごめんだよ。いじめられるから。瑞紀ちゃんは優しかったけど。あれ、今日は来てない感じだね。雨降っているから集まりよくないね。」



「そうなんですよ。本当、龍弥しかいなくて困ってました。」



「菜穂、それ、どういう意味?」


 

 龍弥は菜穂の発言が納得できなかった。



「そのままだし。下野さん、早くやりましょう。あっちにいるメンバーと話してこないと何も始まらないですよ。」


「わかりました。ほら、龍弥くんも。文句言ってないでやるよ?」



「別に文句言ってないっすよ。」



 3人は、コート近くに集まった今日のフットサルメンバーと合流して、試合を開始させた。


 人数は少なくとも、試合ができるほどのギリギリの数だった。


 龍弥も菜穂も久しぶりに汗を流して、相変わらず喧嘩しながらボールを蹴りあった。



 パス回しは結構、うまくできている方だった。


 馬が合うとはこのことかと感じる。



 数分後、遅れて、滝田も参加した。



10分の試合を終えて、休憩時間。

 


 龍弥は、ベンチで休んでいる菜穂に

 後ろから缶ジュースを2つ菜穂の頬にくっつけた。




「冷たっ!」




雨が降っていたため、湿度が高く 汗をかきやすかった。


 

ちょうど良い冷たさではあったが、頬は冷たくなった。




「飲む?アロエはお肌に良いのよ。」




 頭にタオルをかぶせた龍弥がアロエジュースの缶を2つ見せつけてくる。



「う、うん。」



「あら、やけに素直?」



 おばさんのような口調で話す龍弥。



 缶のプルタブをあげて静かに飲む。



 微妙な距離を保って座る2人。



「あのさ、この間の、病院。悪かったな。長い時間拘束させて…。」



 学校で本当は言いたかったことをやっと言えた龍弥。すっきりした。菜穂はきっとお礼をいいたかったんだろうと読み取ってそのお礼がその飲み物だと解釈した。



「どういたしまして。」



 滅多にアロエジュースを選ぶことのない菜穂はなぜか美味しく味わった。 買ってくれた人のおかげなのか、一緒に飲んでいるという状況だからかはわからない。



 きっとこんなふうに話せるのはこの空間だけなんだろうなと時間が短く感じた。もっと長ければいいのにと。 




 龍弥はベンチの上であぐらをかいて、アロエジュースを飲んで、満足そうに笑った。

















 












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