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スノーフレークに憧れて  作者: もちっぱち
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第1章

「お父さん、お水あげていい?」


雪田 菜穂(ゆきた なお)父の雪田 将志(ゆきた まさし)に芝生を敷き詰められたお庭の隅に植えられたお花を見て言った。


「ああ、いいよ。お父さんはこっちで草取りしてるから、お水あげは菜穂に任せるよ。」


「うん。わかった。」


 風が頬を打つ。髪をなびかせて、菜穂は庭の水道からジョウロにたっぷりとお水を入れた。ジョジョジョと音が響いた。この音を聞いただけで楽しかった。

 よいしょよししょと声をかけながら、少し距離のある花壇の場所まで移動した。想像以上にジョウロに入ったお水は重かったようだ。将志は、静かに手を貸して、助けてあげた。


「お父さん、このジョウロ重いよぉ。」



「そうだったね。4歳の菜穂にはまだ重いよな。ごめんごめん。一緒にした方がいいな。」



「うん、そうだよ。」


 2人は花壇に植えられていた花にそっとお水をあげた。


「お父さん、お花綺麗だよね。この名前なんて言うの?」


「この辺の花はチューリップ、その隣はクチベニすいせん、すずらんすいせんだよ。菜穂はお花は好きか?」


将志は指を差しながら、花の説明をしていく。菜穂は興味津々に一つ一つの花を見ていった。


「へぇーそうなんだ!」


 じーっと観察した。


「菜穂、このお花、可愛くて好き!」


菜穂のお気に入りの花を見つけたようだ。

 

「ん?」


「それは、すずらんすいせんって言うんだよ。」


「へぇー。」


「スノーフレークとも言うんだよ。すいせんにも似てて、すずらんにも似てるんだ。スノーは雪でフレークは薄片って意味だな。どっちつかずって意味もあるかな?」



「スノークレープ?」


「違う違う。食べ物じゃないよ。スノーフレーク。」


「スノーフレークだね。菜穂が絶対このお花にお水あげるから、お父さんはあげちゃだめですよ!!」



「はいはい。お手伝いありがとうね。お水あげ隊長に任命します!!」


「はい。隊長頑張ります。」


菜穂は敬礼をして、お水を気合いを入れてたっぷりとあげた。


 美しく白いすずらんとすいせんに似たすずらんすいせん。


 どっちともない。

 スノーフレークと名付けられたその花は

ヒガンバナ科 和名はオオマツユキソウ

とも言う。


 花そのものは小さくてチューリップほど表立って目立つものではない。


 すずらんほど馴染みは薄い。


 それでも、負けないくらい可愛いもので美しいとされている。


 


 毎年5月になると咲き始める。そのスノーフレークのお花の管理は決まって菜穂がすることになった。父や母が水をやろうとすると怒ってむつける始末。


それくらい


菜穂はその花に魅了されていた。







****







「うわぁ~!!寝坊した。」


ベッドから転げ落ちた。


 何回も消したんだろう2つの目覚まし時計が転がっている。


スマホのスヌーズ機能のアラームも何度も表示されていた。


時刻は午前7時20分。

高校は、午前8時半までには着いていないといけない。


いつも起きるのは午前7時。


制服着て、顔洗って、歯磨きして、朝ごはん食べて、その時間がのんびりしてしまうから起きなきゃいけないのに起きれなかった。


20分も過ぎている。どれか手を抜かないとっと思っていると、母の雪田 沙夜(ゆきた さよ)に首根っこをつかまれた。



「菜穂、ご飯、少しでも食べていかないと,体、持たないよ?!」


「あわわわ…だって、時間ないから。髪もほら、とかしてないし、顔も洗ってないし。」


「良いから、きちんと座って。おにぎりだけにしといたから、食べていきなさい。」


 そのまま菜穂は母の沙夜に食卓のいすに座らせられた。


「はぁ。もう。しかたないなぁ。」


「仕方ないって、自分の体でしょうが!?」


「はい、そうですね。いただきます。」


 時計をこまめに見ながら、おにぎりを食べた。



 高校までの移動はもっぱら自転車だった。




 約40分の距離をワイヤレスイヤホンで好きな音楽をつけながら、登校している。



 いつからか、自転車の規制が厳しくてヘルメットをかぶらないといけなくなったのが難点。


 外の音が聞けなくなるのは大変だとイヤホンは片方にしかつけていない。


「やばい。急がなくちゃ。ごちそうさま!!」


 コップに入った牛乳をゴクっと飲んで、洗面所に急いだ。

 歯磨きと髪を整えて、さらりと眉毛を描いた。


 母には眉毛を剃って抜いていじっていることは内緒だ。校則でメイクは禁じているが、眉毛の無いのは禁止だ。


そこは描かないといけない。



「いってきまーす!!」


ギリギリの7時45分に家を出た。

愛車の自転車は電動ではないが、変速機能がついてて乗り心地は良い。



今朝の天気は快晴で、風もない。


(あ、今日、水、やってない。)


 菜穂は自転車に乗りながら、花に水をあげていないことを思い出す。


(ま、いっか。明日、雨降るし。なんとか育つでしょう。というか、お父さんがやってくれるかな。)


 

 高校生ともなると、結構、三日坊主になることが多くなってくる。

 

 

 小学生の頃は、真面目にコツコツと続けていたことが他のことに興味持つことが多くなり、継続してできなくなるものだ。




「菜穂、おはよう!」



 いつも通りの教室,いつも通りの友達、割と私は順応に学校生活を送れてると思っていた。


 あいつのことを知るまでは。


「おはよう、まゆ~。」


 

山口(やまぐち)まゆみ。



 高校になってから初めてできた友達だった。中学は違えど、同郷で話は盛り上がる。



「今朝の寝癖も芸術的だね。」




「それは言わない約束っしょ。」





「もう、菜穂はそう言うの無頓着だよね。水で濡らしてブラシでとかしながらドライヤーで乾かせば、1発で直るのに。」




「今朝は寝坊したから尚更整えられなかった。ポニーテールするので手一杯なの。まゆは朝からがんばるよね。アイロンのコテでやってるの?」




「そうそう。可愛いでしょう。コテ専用のスプレーかけてからくるくるってあたためると内巻きになるの。ふわふわのくるっくる~。」



 まゆみはクラスの中で女子も男子にも人気なクラスメイト。


 その彼女と親友だなんてもったいないすら感じるが、彼女はどうして私といるかがわからない。




「可愛いよ。上手じゃん。」




「ありがとう。今度教えたげるね。」




「え、私は良いかな。毎日はできないし、無理かも。」




「もう、菜穂は女子力低めだなぁ。それだからモテないんだぞ。」



 軽く、いや、重く、胸に矢が突き刺さる。


 弓道部の矢が飛んできたかな。



 自分は見た目だけで選ぶやつはクズだと思ってるからそんなの気にしてないって言ったら嘘になる。




 高校デビューして、モテたいなって儚い夢も3ヶ月でダメになる。

 

 

 継続力がない私。

 


 腕も足も筋肉あるし、髪の毛もそのままだし、本当、かよわい女子になりたいものだわとしみじみする。



「いやあ、私、別にモテたくて学校に来てないし、ほら、勉強しに来てるわけだから。」


 メガネもしてないのにメガネをしてるよう雰囲気で、見せつける。



横を素通りした男子がクスッと笑う。



 この高校で入学してからこれまで会話一つしたこともない。




 名前は、白狼 龍弥(しろかみ りゅうや)



 見た目は分厚めのレンズのメガネをした少し髪の長めのバリバリガリ勉タイプで陰キャラのやつ。



 名前の方がカッコ良過ぎて逆に引く。



 喋る声も小さいらしいと会話をしたことあるクラスメイトから聞いた。謎の男だった。



 その男子が私の横を素通りして、笑ったのだ。なんのゆかりのない人になんで笑われなければならないのか。




 不思議でしかたない。


「い、今,あいつ、笑わなかった?」



「気のせいじゃない?誰も話したことないのに笑うって変だよ。友達もいなそう…やめときなよ、菜穂、あいつの関わるの。」



「う、うん。でもさ、あいつ、ずっと1人で過ごしてるけど、凄いメンタルやばくない?なんか、いじめられても全然気にしなさそうだよね。」



「いやいや、ああいうやつほど、やばいって、絶対。構わない方いいって。きっと漫画の殺人ノートみたいなの妄想して書いてそうだもん。」



「ああ…ありえそう。」





「…え、でもさ、確かあいつの妹いなかった?弓道部の。白狼いろはって

双子の妹でしょう。全然似てないけど。二卵性双生児なのかな?双子の話聞きたいけど、兄貴の方はあんな身なりしてるから話しかけづらいよね。妹は本当、気さくで話しかけやすいのに、なんでああなるのかな。」




「家庭によって事情があるんじゃないの?もしかして、親が犯罪者とか?」




「いやいや、妄想し過ぎでしょう。」




 机にダンッと大きな音を立てて国語辞典を置く音がした。龍弥がやったようだが、なんも話さない。無意識に出た音のようだ。



「ほらほら、お兄様がお怒りだよ。席に着こう。」



「そうだね。気をつけます。」



 龍弥の体から発するオーラが菜穂の方にまで届いた。


 3メートル以上あるのに、感じる殺気。なんだろう、この感覚。





 クスッと笑われるし、睨まれるし。




 話したことないのに、なんでこうなるのか。




 心の涙が止まらない。



 背中には冷や汗をかく。




 あいつは一体何者?!








**********



白狼 龍弥 高校1年。

学校ではバリバリのガリ勉で話しかけるなオーラを発しながら、1人で過ごしている一匹狼だ。



 友達なんていらない。


 話したくもない。


 同級生なんて、話もろくに合わないやつばかり。ここは居心地が悪い。期待なんてしてない。


 ただ、ここに来る理由は、高校卒業するために通うだけだ。



 そんなで社会人なれるのかと大人たちは言うだろう。


社会に出れば同級生なんて、同じ年になるやつなんて数知れている。



ほとんどは年上ばかり。



上司なんてふたまわりも離れてる。



そんなの知ってる。



 コンビニでバイトもしてるし、新聞配達して、多少は人間関係の仕組みはわかってる。



淡々と仕事をこなせばお金は稼げる。



そんなで無理だと言う奴もいる。



龍弥の居場所は学校という場所じゃない。



家からバイクで20分の距離にある、フットサル施設だ。


 この施設は、スマホで会員登録すると中学生以上であれば誰でもできるクラブがある。毎日募集している。

募集人数は18人。誰のどこの人かわからない人が集まってフットサルをする。

もちろん、中学生の13歳から50歳くらいまで幅広い年齢層が集まって夜な夜な汗を流している。




 龍弥にとってのコミュニティはそこにあった。


もちろん、そこでの龍弥は分厚いレンズのメガネをしなければ、黒髪のロン毛でもなく、ブリーチにブリーチを重ねた銀髪で、両耳に大きな穴にピアスを開けてた。



学校に行く時は、ヘアネットをかぶってから、黒髪ロン毛をかぶってごまかしていた。


 友達も寄ってこないため、誰も気づきもしない。




名前と顔が一致するくらいの陽なキャラで過ごしていた。



 

日頃、我慢している滝が流れるくらいに口から出るわ出る。



喋る喋る。



仲間たちはうるさいなーと煙たがれるほどだった。



 それでも、仲間のみんな龍弥が年下ということもあり、面白がって、ひざかっくんやくすぐったりして、龍弥を構っていた。



 フットサルクラブでは、リアクションもよく、騒がしいが面白い奴だと評判だった。



 本名では登録していないため、高校の名前は伏せていた。




「龍弥、右だ、右!」



「え、右?」



言われた方向にダッシュでボールを追いかけて、ゴールにシュートを決めた。




 キーパーは防ぎきれず,ゴールを許してしまった。





「龍弥さん、早いっす。」



「すごいだろ?」



中学2年生の 滝田 湊(たきた みなと)が息をあげながら言う。顔馴染みだった。




「龍弥~、マジ,早いって、手加減しろっての。」





「何言ってんですか、これくらい普通ですよ,下野さん。」




会社員27歳 独身の下野 康二(しものこうじ)が息と膝を震わせて言う。



今回初参加の他のメンバーの名前は覚えていないが、いつもたまたま一緒になるのは滝田と下野だった。




他にも3,4人、年上の仲間がいる。



学校の人間関係の構築なんてできるわけないと思っている。



そんなのやる暇あったら、好きなものを楽しめるやつとこうやって過ごす時間が大事だと龍弥は思っていた。



表と裏の顔だった。



時々、どっちが本当で嘘かわからなくなるが、このフットサルでいる自分は割と本物に近いのかもしれない。




尚更,この空間は、学校の同級生や先輩、先生にはバレたくなかったが、間接的にバレるのではないかと思う人がメンバーに時々入っていた。





雪田 将志(ゆきた まさし)


クラスメイトの雪田 菜穂(ゆきたなお)の父親だった。




「龍弥くん、今日も張り切ってるね。まあまあ、お手柔らかに頼むよ。」




「あー、そうっすね。よろしくお願いします。」



どう絡めばいいかわからなくなる。


平然と装った。



フットサルのクラブでは白狼ではなく、伊藤龍弥と名乗っていた。



 苗字で呼ばれると自分が呼ばれているかを忘れてしまうため、みんなには名前で呼んでくださいといつも自己紹介していた。





高校生とは言っていたが、こんなにもピアスを開けて、髪を明るくしてても、みんな平等に過ごしてくれる。




風紀委員なんていない。



とにかく楽しめばいい。




外見って全然関係ないんだと学校よりも勉強になる。




ゴールが目の前にあったら、ボールを蹴ることに集中するだけ、ただそれだけだった。



 しっかりと、2時間ぶっ通しで汗を流した。息が上がる。スポーツドリンクが美味しく感じた。



「お疲れ様でした。」



一過性のもの。



毎回メンバーは変わる。その中で気が合えばまたよろしくお願いしますとなるが、ほとんどが今日会ってさようならの人が多い。


 携帯ゲーム機の色塗りシューティングゲームでも、1ゲームしてその次のゲームではまた別な人というような常にシャッフルされる。同じ人と組むことは滅多にない。


 フレンド登録してあえて一緒にすることも可能だが、フットサルの場合は人数が多く必要となってくる。



必ずしも全員参加できるわけじゃない。



自由参加にはそういう利点があった。




龍弥もそういうやり方が好きだった。





お互いに嫌なところが見える前に別れる。




 綺麗なままで終わる。



 楽しちゃいけないんだろうけど、友達は少ない方が信頼関係も得やすいものだ。


「明日も学校だ…。」




「龍弥くんは高校生だっけ。背も高いから、年近いかなと思ってたけど…。若いね。」




「高校生っすよ。授業真面目に受けてます。」



「君が?! 嘘でしょ、君に真面目という言葉が似合わないよ?」



「下野さーん、それどういう意味ですか?俺は至って真面目でしょ。試合で手抜いたことありますか?」



「いやぁ、でも、外見で判断しちゃいけないけど、サボってそうだもんね。」



「イメージでしょ?いや,俺,やればできる子なんで?」



「ハハハ…龍弥くん、面白いなぁ。また、都合あえば、やろうな。」




「もちろんっす。下野さんも、いい加減、彼女の1人や2人、話聞かせてくださいよ~!」


「うっさいわ。んじゃな。」


 下野は帰り支度をして、ベンチに置いていた荷物を持って立ち去った。



 龍弥の隣には滝田がいた。



「龍弥さん、高校、どうですか?俺,来年受験なんですけどぉ、受かるか心配で。」



「え? どうですかって言われても…俺にとっては、地獄だね。」



「え?地獄?」


「そう、サハラ砂漠にいるくらい、学校は殺伐としてるよ。しーんとしていて、机の上でカリカリとペンの音が響き渡っていて、みんな勉強しまくり。俺なんて足元にも及ばない。」



「え、龍弥さんって進学校に通ってるんですか?頭良いんですね?」



「え、いや、あ、あのーそういうわけじゃないんだけど。湊、冗談だって。俺の話信じすぎだよ。」



「どこまでが本当?」



「高校生ってことくらい。あとは秘密。」



「ざっくり?!龍弥さんって意地悪ですね。」




「まあな。湊はどうなんよ、学校。」




「みんな、偽善者ですよね。あっちもこっちにも良い顔して、本当の自分どこだって感じで過ごしてるやつが多くて…疲れます。俺もその1人…。まあ、いじめる奴の機嫌とるってことなんですけど。」



「そうなんだ。学校って、綱渡りしてるみたいだもんな。失敗しないようにってバランスとって、一歩間違えたら落ちる。その分,ここにいる時は楽よ。いつ辞めてもいいし、気楽にできるもんな。」



「ですね。絶対、またやりましょうね。俺も来ますから。俺,こう見えてすごいチキンで、ここに来て自信になってる感じあります。龍弥さんのおかげっす。」




「俺は何もしてないって。まあ、俺も楽しみにしてるわ。」



 シェイクハンドをする2人。

 案外気が合いそうだ。


 フットサルクラブには、週3回参加していた。


 スポーツ少年の習い事をしているようで、ちょうど良い気分転換になっていた。



ありのままの自分をさらけ出せる空間さえひとつでもあれば、心が落ち着いていた。



 


 龍弥にとって、心をかき乱されるあいつに会わずさえいれば、計画通りに高校生活が進むと思っていた。






 よく晴れた日。



今日もいつも通りに学校に通っていた。


いつも通りの教室のはずが、緊張する。


まゆみの席には誰も座っていない。


休みなんだろう。



 今まで、教室の掲示板に貼られている予定表のように気にしたことないクラスメイト。


 ドラマでいうところのエキストラ並みのキャラクターだったのに。



 視線の先には龍弥がいる。


 

 無言の圧力を感じてから、話はしなくとも妙に気になってしまった。



 目があいつを無意識に追っている。



 危なくメガネ越しに目が合いそうになって避けた。



 相変わらず、誰とも何も話さない。



 人に興味がないらしい。



 授業中に先生から指名されれば普通に小さい声だが、解答する。


 答えは合っている。


 間違うことは少ない。


 


 菜穂は教室の廊下側の後ろの席から窓側に座る龍弥の後ろ姿を見る。




 長い黒髪のが風で靡く。女子みたい。

メガネはレンズ分厚め。


 秋葉原でアイドルでも追っかけていそうな雰囲気。



光るペンを持ってオタ芸もできますというイメージをすごく持つ立ち姿。



 それは、そちら側に寄せてその格好をしているのか。



 普通に過ごしていたら、絶対関わりたく

ない。



 でも、なんで気になるのか、自分でも不思議だった。


 

 他にも男子は存在する。


 

 #杉本 政伸__すぎもとまさのぶ__#。


 髪は短髪だが、メガネでオタクっぽいやつ。でも、その男子は友達普通にいるし、1人では過ごしてない。龍弥とは話したことを見たことはない。キャラが違うのか。



 カースト制上位っぽい。

 かなりイケイケの男子も、もちろんいる。 

 #石田 紘也__いしだこうや__#。


 椅子の動かし方が乱暴で、がたがたうるさいし、授業中も先生に話しかける。


 髪型は金髪に近い。短髪。

 風紀委員指導日には、なぜか1日だけ黒く染めてくる。意外と真面目なのかもしれない。

 ピアスは何個も開けてチャラチャラしてる。


 紘也が、いつだか、龍弥にちょっかいをかけようとしたら、目で殺されかけたらしい。


 睨みつけられただけなのに威力抜群のようだ。



 それくらい、龍弥はクラスメイトとは、話さない。


 


 カースト制にはどこにも属してはいない雰囲気だ。




 他にも男子はクラスにはいるが、龍弥に近い席の男子はその2人だった。







 また別なの日の昼休み、窓際にふと立って外を覗いてみた。外にあるベンチに龍弥が1人座って、たまたま飛んできた鳩にお菓子をあげているのを見た。

 


 食べられるものなのか、確認する鳩は疑り深い。

 



 あいつが鳩の世話をするのかと思うと少し興味が湧いた。じっと見ていた。




 結局、鳩は食べずにチョンチョンとジャンプして、遠くにいる。


 飛ぼうとはしない。


 龍弥はしつこく、お菓子を食べさせたかったのか、近くにまでよってあげようとしたら、案の定、飛び立って行った。



(バカだ、あいつ…。鳩に餌あげたら、学校に住み着くじゃん。)



 窓にある手すりに捕まって、外をずっと見ていたら、まゆみに声をかけられる。




「菜穂~、何してんの?」





「え、何か、外天気いいなぁって…。」





「ふーん。確かに。誰かいたの?気になる人でもいんのかなぁ。」



 額に手をつけて探る。



「別にぃ。私、この学校に彼氏なんて求めてないしぃ。作るなら、他校の人がいいなぁ。」



 振り返って、教室内に体を向けた。


 そのまま、まゆみは外を見続ける。



「そうなの?てっきり、菜穂はこの学校で相手を探してるんだと思っていたよ。入学したての頃、頑張ってた感あったから…。」




「…それは、黒歴史と言って。」




「黒くないって。ただの失敗でしょう。あ、あれ。白狼じゃん。あいつ、真夏になってもあの髪型すんのかな。暑いよね。かなり。」



 また、菜穂の胸に矢が刺さる。

 まゆみの言葉にはグサッとささる。



 菜穂は、入学してすぐに高校デビューしようとイメチェンで髪色を脱色に挑戦してみたり、慣れないメイクをしたが、このまゆみに指摘しまくられて、今の普通の女子高生のような格好になった。



 顔のイメージにそぐわない格好をしていたため、みんな誰も声をかけてくれなかった。



 女子も男子もさらりと交わす。唯一、見てくれたのはまゆみだった。




「だっさ!」




 入学式の初対面でその言葉言う?!と思ったけれど、それは1番自分のことを見てくれていたと納得した。



「え、どこらへん?」




「あ、全部だよ。」




「嘘。」




「ほ・ん・と。」


 まゆみはそう言いながらも、髪の色やメイクのやり方を伝授してくれた。


 初めて友達ができた瞬間だった。


 それまでは、気持ち悪がられて、誰も振り向いてくれないし、話しかけてもくれない。


 まゆみは声をかけてくれた。


 今では何でも話せる無二の親友だ。



 時々、グサッとくる言葉には胸に矢が刺さる。


痛い。


辛い。


でも、菜穂にはそれが刺激となり、元気の源とも言える。


1番に自分のことを言ってくれる。

むしろ、感謝している。





「だよね。そういや、白狼ってずっと長袖だよね。確か、体育の時も半袖見たことない。体を隠したい何かをしているのかな。」



「ただの寒がりじゃないの?」



「まさか。」



「筋肉ムキムキとか?」




「それなら、逆に見せるっしょ。」




「うん。そうだ。」



「刺青?!ヤクザ? こわっ。」



「ちゃうべ。高校生だよ。それ言うなら、今の言葉でタトゥーね。シールタイプもあるからわざわざ掘らなくてもオシャレは楽しめるよ。」



「ふーん。」




「菜穂。ずいぶん、白狼のことになると話が盛り上がるんね。興味あるん?」




「全然。絶対ないよ。あんなやつ。オタク嫌いだし。」



「へぇ。近くにいる杉本の前でよく言えるよねぇ。」



「おい!俺はオタクじゃねぇよ。」



「は?」



「ただアニメやゲームが好きなだけだって。」



「杉本ぉ。それがオタクって言うんだよ。」



「嘘、まじで。知らんかったわ。…って、誰だって、ゲームもするしアニメも見るだろ。ひとくくりにすんなよな。秋葉原とかコミケとかに通う人たちだろ?俺、ああいうのは全然興味ないし。本当、ウチで見るだけで楽しめるから。」



「もう、杉本の話いい。飽きた。」



「は?急に冷めるのかよ。」



「私はねぇ。どっちかっていうと、#木村 悠仁__きむらひさひと__#みたいなタイプなんだわ。優等生だし、生徒会に入っているけど、外見もきちんとしてるじゃん。人当たりもいいしさ。菜穂はどう思う?」



 木村悠仁は、クラスメイトの学級委員を務めている。人をまとめるのが得意で優等生。誰にでも優しい。先生たちからも信頼が厚い。



 悠仁は、龍弥にも怖気づくことなく話しかける。相手の対応としては頷くことや首をふることしかされないが、悠仁の言うことは真面目に聞くらしい。



「私も、いいと思うよ。優しいもんね。恋愛対象ではないから大丈夫。」



「遠慮してる?」



「違うって言ってんじゃん。他校がいいって言ったっしょ。恥ずかしいの。先生や友達やクラスメイトに彼氏彼女ってバレるのが。だから、絶対作らないから。気にしないで。」



「ふーん。そうなんだ。原因はそこか。恥ずかしがり屋なんね。」



 菜穂は、本当は悠仁のことは、多少いいなと思っていたが、まゆみが気になると言っているのだから、そこは譲らないと友情にヒビが入ることを恐れた。



チャイムが鳴った。席に戻った。


まゆみには、龍弥のことをオタクだから嫌いと言っていたけれど、好きではなくでも嫌いと言うだけで多少たりともその人のことを考えている。執着があるのかもしれない。


物でも同じなのかもしれない。


ピーマン嫌いと言うと、ピーマン料理以外でと言うとあえて、その料理を思い出す。


 何も考えなければ、アイデアも思い浮かばないのに、嫌いな人のことを少しでも頭の中に映し出している。


 

 

 嫌だと言えば言うほど、あいつが頭から消えない。いらないはずなのに。



 無性に腹が立ってくる。



 授業中にも関わらず、菜穂は龍弥の後ろを睨みづつけた。



 視線を感じた龍弥は鳥肌が立つ。ブルっと震えて、姿勢を正した。



(父さんと母さんでも背中に来たんかな。)


 世界史の授業が淡々と進む。


 




***



 今日もフットサルをやるぞと張り切って、バイクを駐車場にとめてヘルメットを外した。耳から垂れるピアスのかざり、長い髪を無い頭にワックスでセットした銀髪を整えた。


 メガネをつけていないから、視界はスッキリしている。


深呼吸をして、ベンチに荷物を置いて、靴を履き替えた。



「こんばんは。龍弥くん。」



「あれ、雪田さん。お久しぶりですね。登録してたの気づかなくてすいません。」


「いいの、いいの。急に今日、決めたから。龍弥くんに紹介したくて、娘、連れてきてさ。ストレス溜まっているって言うからやらせようと思って。ほら、菜穂、自己紹介して。」


「あ、はじめまして。父がお世話になってます。雪田 菜穂です。」


 制服を着替えて、スポーツウェアを着てきた菜穂は恥ずかしそうに言う。



「はじめまして。将志さんといつもここでフットサルやらせてもらってます。伊藤龍弥です。菜穂さんでしたっけ?フットサルは初めて?」

(なんで、こいつに愛想ふりまかなきゃいけないんだよ。 )




心の気持ちと話す言葉が全く違う龍弥。




(何、この人、コミュ力超高め? 初対面でめっちゃ喋るし、何、この髪型。銀髪?!ピアス開け放題だし。カラコン入れてるし、こんな人、どこの高校よ

。よくこんな人と、お父さんフットサルをやれるわね。)



「はぁ、まるっきり、はじめてですけど…。」




「よし、じゃぁ、俺が教えるから、こっち来て。」



(ちくしょー。お父さんいる手前、自然の流れで教えないと空気悪くするし、同い年は俺しかいないじゃん。あー、どうして、ここにクラスメイトがいるんだよ!?)




 龍弥は菜穂の手を引っ張って、連れて行く。心の声と建前が葛藤する。




「龍弥くん、ごめんね。菜穂、覚えるの遅いと思うから。基礎から丁寧に教えてやって~。」




 将志は言うが、龍弥はその言葉に反応して教え方が徐々に鬼コーチと化していく。





「菜穂さん、良いっすか。聞いてください。フットサルは、サッカーと違って5人制です。そのうち、フィールドチームが4人、キーパー1人で構成されます。ボールを蹴るって動作は同じですけど、コートのサイズは小さいですし、時間は公式だと20分を2回です。……ーーー


 龍弥は事細かにフットサルのルールを説明した。





「あとは、ネットやYouTube見て、独学で勉強してください。」






 最初はそんなふうに優しく教えていた龍弥は、数分もすると…。





「おい、菜穂!バカ、お前、こっちパスよこせって言っただろ?!」



 早速、試合が始まっていた。


 

 今日の集められたメンバーで教えながら、だんだんと言葉が雑になってくる。  



 名前も呼び捨てになっていた。




「はぁ?!そんな、今日来て、すぐできるわけないでしょーーーが!」

 



 菜穂は叫びつつも、ゴールにボールを蹴ってシュートを決めた。




「…やればできんじゃん。」



「ふん、わたしだってこんなのかんたん…。」



 菜穂は何もないところで豪快に転んだ。




「どんくさ。」



「いたたた…。」



「ほら。」



 龍弥は手を貸して起こした。



「あ、ありがとう。」


 

 

 龍弥は起き上がった菜穂の耳元で

 



「お前、もう、来なくていいよ。」

(俺の素性がバレる前に消えてくれ。)



 そう言って、立ち去った。 


 歩きながら、着ていたシャツで汗を拭く。

 20分の2回きっちりゲームして、汗をびっしょりかいた。思っていたより教えながらはハードだった。


 

 教えるのが面倒になったんだろうと思った菜穂は、ペロッと舌を出して、



(あんたなんかに教えられたくないし、不良みたいな顔してふざけんなつぅーの。こっちから願い下げだわ。)


 ベンチに座って、水分補給にグビグビとお茶を飲む。大量に汗をかいていた。ふわふわタオルが癒しだった。



 龍弥は、むちゃくちゃに

 頭をかきむしる。


 


(あーーーー、調子が狂う。学校のやつには絶対に会いたくなかった……。)


 

 ラウンジの壁にダンと拳を叩きつけた。


 愛想を振り撒くのも限界を感じた龍弥は、つい、本音が出た。

 


 

 遠くから2人を見ていた菜穂の父、将志は何となく、じゃれ合ってて仲が良いなぁと捉えられたようで、また菜穂をここに連れてこようと鼻歌を歌っていた。


 飛んだ勘違いしている父だった。




 龍弥は明日の学校でどんな顔して過ごせばいいのか変に緊張していた。




 どんよりと梅雨が近づき始めた曇り空。




  菜穂は朝寝坊をした。今日は、せっかく母に作ってくれたお弁当を慌てて出てきたため、忘れてしまった。




 仕方ないので、昼休みに購買部のパンを買いにバックから財布を出した。





 滅多に買うことのない菜穂は、少し心が躍った。自分で好きなものを選んで買うのは、楽しみだった。



「メロンパン、メロンパン。」




昼休みのチャイムが鳴ってすぐに1人で購買部に並んだ。


 生徒たちで混み合っていた。


 2列の隣に並んでいたのは、まゆみが言っていた白狼 龍弥の双子の妹 いろはがいた。


 

 ポニーテールにふわふわと靡かせた茶色の髪が揺れていた。


 

 パーマがかかったように揺れている。


 

 蝶々の模様のヘアアクセサリーをつけている。

 

 

 まつ毛は長く、猫のように目もぱっちりしていて,顔が思っている以上に小さい。

 


 弓道をしているせいか、姿勢がすごくいい。


 この人が、白狼龍弥の双子の兄妹なのかとマジマジと見つめてしまった。


「え? 何かついてる?」


「あ、ごめん。じっと見すぎちゃった。噂で聞いててね。白狼龍弥の妹でしょう。」


「うん。そうだけど…。お兄、何か、やらかしてる?」


「別に…何も。2人とも、双子の兄妹って言うけど、全然似てないなって思っちゃって。」



「そっか。噂では私ら双子ってことになってるんだね。」



「え、そうだけど、違うの?」



「うん。赤の他人だし。連れ子だから、私ら。顔はそりゃ、似てないよね。でもまぁ、母親は同じだし。父親が違うのよ。家にいてもいないようなもんだから。お互い関心ないから、何してるかなって、わからないのよね。」




「そうなんだ。ごめん、初対面なのにいろいろ聞いちゃって。」




「別に。噂を本当のことで広げてほしいもんだわ。あんな格好で学校に来てること私は認めてないし。言うこと聞かないからね、あいつ。」



「え、そうなの?」



「菜穂ちゃんだっけ。あまり、お兄に関わるとろくなこと起きないからやめておきな。私も苦労してるから。めんどくさいんだよね…。」



「ん?」



 ため息まじりに話すいろは。


 ようやく、購買で順番が回ってきた。思っていたより商品は少なくなっている。



「め、メロンパンがない。」




「菜穂ちゃんは、メロンパン好きなんだね。私はもっぱら、クリームパン。やった、あった。ラッキー。」




「えー、メロンパンないのー。んじゃ、あんバターパンかなぁ。」



 買い物を終えて、2人はラウンジに行く。



「改めて、私、白狼 いろは。1年5組。お兄が何か悪さしてたら、いつでも言って。力にはなれないかもしれないけど、アドバイスはするから。よろしくね。」



 いろはは、菜穂に握手を求めてきた。友達が増えて、嬉しかった菜穂はそっと手を差し出した。



「あ、ありがとう。でも、私、1年3組雪田 菜穂。お兄さんとは、ただのクラスメイトだから、別に関わることなんてないと思うよ。」



「そぉ?顔に何かお兄がめっちゃ気になるって書いてるよ。」



「え!?」




「嘘。」




「・・・・。」




「冗談だよ。菜穂ちゃん、面白いね。んじゃね~。」



 ちょっとしずられて、イラッとしたが、親しみやすいいろはだった。


好みのパンはなかったが、とりあえずはあんバターパンを手に入れた。



 菜穂は階段を登って教室に続く廊下を歩いた。

 

 昨日フットサルをして動かした足が筋肉痛なのかもつれて、真っ平な場所でコケた。



「菜穂!」




 声で助けられる訳ではないが、遠くから自分の名前を呼ぶ男子の声が聞こえた。


 聞いたことのある声。


 どこからとすぐに体を起こして前と後ろを確認したら、まばらに同級生たちが窓際や廊下に立っているだけで自分に向けて声をかけた男子はいなかった。



 気のせいかと思いながら、教室の中へ入る。



その声の主は、無意識に叫んだ龍弥だった。



 素性がバレたくないと思いながら、フットサルで叫んでいたようにポロッと菜穂の名前を叫んでいた。


 やばいと思って後ろを歩いていたのを、体をグルリと振り返って階段の踊り場の影に身を隠していた。



 かくれんぼをするように、さっと見えないようにした。


 菜穂はこちらに全然気づいていないようで、安心した。


 

 その様子をしっかりと見ていたクラスメイトが階段を駆け降りて、こちらをじっと見ている。




「……。」



 

 杉本政伸だった。


 

 メガネをかけたオタクっぽいクラスメイトが、龍弥の様子をじっくりとぐるぐる周りながら見つめている。



「ねぇ、龍弥くん。今…。」



 龍弥に一瞬壁ドンをされて、口を右手で塞がれた。



「何も言うな。」



 殺気立った目で睨みつけた。


 冷や汗と震えがとまらない。



「今、お前は何も見てない。な?」


 

 黙って何度も頷いた。

 

 尚更、低い声で話すので、怖かった。

 

 これから殺されるのではないかと恐怖でしかない政伸。



「……。」


 

 気が済むと、龍弥は政伸の口元にあったそっと手を離して、ポケットに両手つっこんで、教室に戻った。


 

 トボトボと、どこか寂しげな様子だった。


 

 本当はこんなことしたくなかったのかもしれない。

 


 でも、ここで素性をバレてしまってはこれまで築いてきた学校生活が変わってしまう。


 政伸は龍弥の弱みを握ったと思い、わざと逆撫でするような行動にうつすと決めた。







***





「はい、雪田さん。シャープペン落ちたよ。」


 政伸は、授業中にもかかわらず、机から落ちたシャープペンを隣の席の人よりも早くに拾い、渡してあげた。



「あ、ありがとう。」



 菜穂の席から2つも離れている。


 それを見た龍弥は、何か政伸が菜穂に言うんじゃないかとヒヤヒヤした。



 ぎっと怖い目つきで遠くから政伸を睨むが、それを見た政伸はニコニコしていた。



(作戦成功。見てろ、見てろ。)



「雪田さん、ほら、消しゴム落ちてるから。」


 今度は休み時間。


 落としたかなと疑問に持ちながら、菜穂は受け取る。


 政伸はケースから外れた消しゴムを渡した。


 それは机の下に落ちていたものではなく、自分の半分に切った消しゴムを角をやわらかくして丸めたものだった。

 かなりの小細工。


「何か、今日は、何回も杉本くんに拾ってばっかりだね。ごめんね。」



「いいんだよ。気にしないで、たまたま近くあったんだから。」



 ニコニコしながら、龍弥の様子を確認しながら話している。



「うん。ありがとう。杉本くん、あっちに何かあるの?」



 龍弥を見ながら言う政伸を見て、菜穂は、気になった。



「ううん。別に、明日は体育あるんだなって時間割見てただけ。席戻るわ。」



 政伸はごまかすように席に着く。



 龍弥は、じわじわとこちらを見ながら、何か菜穂と話している政伸を見て、イライラが止まらない。



 いつもなら,全然気にならない。



 気にしないはずが、こんなにもモヤモヤするとは自分自身に腹が立ってくる。



 菜穂の頭の上には疑問符が3つも浮かぶ。







***






 放課後の昇降口。


 龍弥は人を待っていた。


 このモヤモヤを解消するために、ある人に話さないといけないなと思った。



 

 同級生たちにはガリ勉で誰とも話すことはないキャラクターでこの数ヶ月過ごしてきたはずがここで崩れそうになると思うと、自分の中での計画がすべてパァーになる。それを恐れて、政伸のことを待ち伏せしていた。





昇降口を出て、すぐの柱に背中をつけて、スマホを見ながら,いつ来るんだと出入り口付近を睨みつけていた。




 10分以上経った頃、政伸は、履いたスニーカーの靴紐を結んでいた。



龍弥は、目の前に立ちはばかって、ガンつけた。



「…あれ、龍弥くん。どうかした?」



 紐を結び終えると、立ち上がって笑顔で問いかける。




「…俺の言いたいことわかる?」




「何のことかな。」



 政伸は、校門へと足を進めようとするが、それを龍弥は追いかける。



「待てよ。」



 政伸の肩をつかんで後ろを振り向かせた。



「……今まで話したことないけど、龍弥くんてそういう喋り方、するんだね。絶対、オタクなんかじゃないよね。偽物だ。」



「……。」



 政伸は、龍弥の髪をバサっとよけてみた。

 きらりと光る、両方の耳元には大きく穴が開いているのが見えた。


 学校の校則もあって、ピアスはつけてなかった。



 見られたのを腹が立ったのか黙って睨みつける。



「そんな怖い顔するなよ。隠しても無駄だよ。クラスの男子はみんな知ってるよ、その耳の穴、薄々、気づいているんだから。」



 何人かの学校の生徒が周りにいる。

 見られるのを恐れて、龍弥はその場を立ち去ろうとした。



「逃げるのかよ!」



 話そうとしたが、素性がバレるのに怖気ついて、ガン飛ばすだけで、龍弥は逃げ出した。



 逃げるが勝ちがあるように、これ以上、関わりたくなかった。



「ちっ・・・。」



 政伸は舌打ちをした。



 1人で過ごし続けたい。関わりたくない。友情なんていらない。



 そんなにも殻に閉じこもるには理由があった。



 龍弥の両親は中学生の時に交通事故で亡くなった。


 父親違いの妹のいろはと一緒に住むようになったのは、母親が亡くなったあと。



 血のつながらない父といろはと母方の祖父母と暮らしているが、ほぼほぼ、父は単身赴任で家にいることはない。



突然、両親は事故で亡くなるし、訳分からない血のつながらない父は出てくるし、突然、妹がいるとか、果敢な思春期の龍弥には人を信じることができない。



 親が亡くなって、戸籍謄本というものを出してみると、龍弥の本当の両親は離婚していて、新しい父と妹の名前が記入されていた。



 誰が龍弥を面倒みるんだという話になったとき、血のつながらない父の名前が出てくる。



 時間と体力はあっても、祖父母の経済力では育てられないと、金銭援助という形で間接的に義父と関わっている。




 自分はいない方がいいじゃないかという疎外感。



 そこから、学校生活が人を寄せ付けない状態にさせていた。



 義妹であるいろはは、引っ越すことと友達と離れることを恐れて、祖父母の家に龍弥と一緒に住んでいる。




基本、龍弥は家にいる時間が少ない。



 学校が終わると週3回のフットサルと、コンビニアルバイト、土日もバイトのシフトを入れているため、ほぼ、家にいることは寝泊まりするくらいだった。

 



 金銭的に迷惑かけないようにとご飯だけはアルバイトで稼いだお金で過ごしていた。




 そのため、いろはと関わることも少ない。お互いに会話もほぼない。


 一緒の高校でも、登校時間はずらしている。



 いろはからの歩み寄りはあってもほぼ拒否されている。


 家も外も一匹狼のような過ごし方だった。



「いろは。龍弥、今日もお弁当持って行かないのよ。悪いけど、届けてくれる?」


 亡くなった母方の祖母の#白狼 智美__しらかみ ともみ__#は、毎日孫のためにお弁当を準備していた。

今年で満65歳。


 いろはは、普通に持っていくのに対して龍弥は毎日用意していても絶対に持っていこうとしない。



 智美が直接学校にまで届けようとしたら、やめてくれと龍弥に叱られた経験もあることから、しばらく作るだけにしていた。いろはから渡したら受け取るんではないかと、試そうとした。



「えー。お兄の教室行ったことないのに、お弁当届けに行ったらお兄のクラスメイトに変な目で見られるよ?」



「いいから。あの子、昼ごはん抜く時もあるって担任の先生から聞いてるのよ。授業中にお腹のなる音が激しいって場所的に龍弥だって電話来てね。」



「…ダイエットでもしてんじゃないの?持ってたら余計なお世話じゃん。」



「良いから。いろは、お弁当、持ってて。お願い。」



「嘘でしょう。私、お兄のクラス、あんまり好きじゃない。あ、でも、最近友達できたから、入りやすいかも?!」



 いろはは、菜穂のことを思い出して、祖母の智美が作ったお弁当を2つ持って

家を出た。



「高校生は本当、難しいですよ、おじいさん。」



「は? ああ。そうだな。まあまあ、バイトしてんだろ。迷惑かけたくないって気持ちあるんだから大人なってる証拠だろ。まだ、お前がやってあげなくちゃいけないところもあるんだろ?」



「いや、まあ、そうですよ。龍弥は、朝昼夕をほぼ、外で済ますみたいで、それ以外の生活はこちらで,準備してますから、そこの部分は頼ってると思うんです。洗濯物とかは、私に洗わせてくれますし、生活必需品とかも買ってくることはないですから。食べ物だけですね。」


 母方の祖父、#白狼 良太__しろかみ りょうた__#。

祖母の智美と同じで65歳。


 実の娘を交通事故で亡くして、3年は過ぎた。

 


 娘の死後、複雑な兄妹関係を知り、孫と一緒に暮らしている。




 いろはの父の#白狼 雄二__しらかみしゆうじ__#は、龍弥の母で雄二の妻である#美香子__みかこ__#が亡くなった時に、この白狼家に婿養子として手続きした。

 


 いろはの苗字が父親の旧姓では兄妹としては、生活しづらいだろうとの配慮だった。



 いろはは、ここに住む前は雄二の実家に住んでいたが、雄二の両親が老衰で他界したばかりで、いろはと生活するのに大変だということもあり、この地にやってきた。


 

 という父親の雄二も仕事が出張することが多くて、ほぼ家にいることが少ない。


 月に1週間しか一緒に過ごすことができない。




***


いろはと龍弥は別に登校している。いってきますの挨拶なしに外に出るため、いつ出るのかわからない。

 

 いろはは、龍弥より15分遅れで出発する。


 住んでいる家は、高校まで徒歩20分の閑静な住宅街に住んでいた。


割と近いということもあって、ゆっくり出ても間に合った。昇降口の靴箱について、上靴に履き替えると、いろはは、菜穂に会った。


「あ、菜穂ちゃん。おはよう!」



「あれ、いろはちゃん。今来たんだね。おはよう。」



「そう、これから、お兄のところに行かなくちゃいけなくて…ちょっと憂鬱なんだけど。」



「え、なんで?」


2人はクラスは違えど、同じ東校舎だった。同じスピードでゆっくり歩いた。



「これ、おばあちゃんに届けてって言われててさ。」


「あー、お弁当ね。」


「前に、おばあちゃんが届けようとしたらお兄にめっちゃ怒られたんだって。反抗期かって感じ。」



「そうなんだ。大変だね。」



「私行くと、おばあちゃんと一緒に行ったら怒られるかも。そうだ、菜穂ちゃん、お兄に渡してくれないかな。」



「え・・・・。無理。」




「なんでー、同じクラスだし。いいじゃん。私、お兄と話したくないのよ。」




「私だって一緒だよぉ。無理無理。」




 菜穂の後ろから、腕が覆い被さった。




「菜穂、おはよう。何してるの??」




「あ、まゆみ。おはよう。」




「あ、あれ、いろはちゃんじゃない?」



「どうも。白狼 いろはです。龍弥お兄がお世話になってます。」



「そうそう、龍弥の妹ね。私、山口まゆみ。よろしく。って2人仲良いの?もう、菜穂ったら攻めるねー。」



「違うっつぅの。まゆみ、龍弥にお弁当届けられる?いろはちゃん困ってて。」



「へ?私が?なんで、菜穂行けばいいじゃん。チャンスだよ?」


「何のチャンスよ? やだよ、何か怖いし。」



「そしたら、男子に頼めばいいじゃん。あ、杉本~。ちょっと待ってよ。」


 廊下で教室に向かおうとしていた杉本政伸がいた。まゆみは少し大きな声で呼んでいた。



「は?うっさいですけど、朝から。何?」



「杉本、頼まれなさいよ。ほら、いろはちゃんからのお願いだって。白狼龍弥にお弁当をお届けして欲しいって。」



「ごめんなさい。よろしくお願いします。」



「え、俺が? 別にいいけど。あいつ、弁当食べるの?」



「良いから良いから。任務遂行しよう。」


 まゆみは政伸の背中を押しながら、教室へ向かう。いろはには手を振ってクラスそれぞれに分かれた。


「ほら、もう、教室にいるよ。」


 菜穂とまゆみは廊下で様子を伺う。政伸はそっと、龍弥の机に向かう。龍弥はコードタイプのイヤホンを耳につけていた。


「あ、おはよう。」



「……。」



 何も言わずにイヤホンを外す。



「これ妹のいろはさんから、お届けもの。何か、俺に託されて。お弁当だって。」


 そっと机の上に置いた。

 前におばあちゃんが届けに来たお弁当袋だった。


 あれほどやめてくれと断ったはずなのに怒りが込み上げてくる。


しかもなんでいろはが届けにこないで、政伸が届けに来るのか意味不明だった。



「……。」


何も言わずに受け取ったが、すぐに立ち上がり、持ってきた曲げわっぱのお弁当を広げ、教室の後ろの方にあるゴミ箱にガンガンと全て中身を捨てた。

 元の席に戻る。丁寧に包んであったハンカチと弁当箱をしまってバックに入れた。


 それを一部始終見ていた菜穂とまゆみ、政伸は龍弥の心中を疑った。



「な、なんで?!」

菜穂が言う。


「ちょ、捨てることないんじゃねえの?」

政伸が言う。


「まだ食べられたじゃん。」

まゆみが言う。


「最悪。」

3人揃えて言った。



 コード付きイヤホンをまたつけて音楽に浸る龍弥。



 その龍弥の行動に信じれなかった。立ち上がって龍弥の席の前に行く。 











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