EPISODE Ⅰ ALL YOU NEED IS CHANCE
Ⅰ
極東の島国、日本。その近畿地方にある神解市の港町、唖々噛對。
その町の一角、雑居ビルの四階に、幽玄な光を放つ部屋があった。表札には「幽合会」と記され、静かにそこに存在していた。
「こんなヤバイ案件、うちみたいな小さい会社で対応出来ないですよ」
資料から目を上げず、淡々と言い放つのは、綺麗な長い黒髪に、どこか人間味のない冷徹な目をした、女性にしては長身の片田という掃除屋だ。
彼女のそっけない返事に、紙タバコを燻らせ、灰色の短い頭髪を手で掻く魚家が切り出した。
「いやいや、だからこそ片田さん達の方が、適任!得意でしょこういうの?相手一人ですよ、ひ•と•り」
片田は資料を指で叩いた。
「その一人に、一般人十五名と凶商三名、解体されてるんですけど」
彼女は切り刻まれた三人の虚無僧の写真資料を見ながら、魚家に言い返した。
「あっちは、変異体を排除する民間武装組織でしょ?人数は多いけど、個々の能力は平均的というか..」
「なら、尚更うちは厳しいですね。ろくな装備もありませんし」
魚家の言葉を片田の正論が遮った。すると、沈黙の後、魚家の指先から煙草の灰が床に落ちた。
「参ったなあ、あそこ(凶異商会)も大規模な部隊編成に時間がかかるらしく、単体ネームド級は専門外だから割に合わないって断られちゃって。だから、頼れるの幽合会さんしかいないんですよ〜」
高い委託料を払ったのに返り討ちに合い、クソみたいな案件振りやがってと凶商に断られたとは言えずに、困り顔で、魚家が片田に懇願した。
そう言われてもという顔で眉間に皺を寄せ、資料を見る片田と魚家が頼みますよ、無理です、と押し問答を繰り広げる最中、事務所の扉が開いた。
「公安四課が、何のようなの?」
ミディアムボブの金髪に碧い瞳、透き通るような白い肌、まるでフランス人形のような端正な顔立ち、黒いスーツに身を包んだ、小柄な女性が入って来た。
「ユーコさん、魚家さんからやっかいな依頼なんですけど」
片田が資料をユーコに渡しながら言った。ユーコ•那加毛、幽合会代表であり、片田の上司である。まあ二人しかいないのだけれど。
「神解公園の奴ね、へぇー凶商三人も殺られたんだ」
素早く資料に目を通し、特に興味を惹かれないという仕草で、片田に資料を渡し返そうとしたユーコの手が、身体を切断された惨殺死体写真の所で留まった。
魚家は、椅子から半身を乗り出し、畳みかけるようにユーコに頭を下げた。
「凶商三人よりお二人の方が頼りになりますから…頼む、本当に頼みます」
彼の視線は、懇願の言葉とは裏腹に、焦燥と疲労で僅かに揺れていた。
「高いわよ?」
ニチャリと不敵な笑みを浮かべたユーコが、魚家に含みを持たせて問いかけた。
「田島は暫定ネームドでネームドじゃないんで、これぐらいで」
ぼったくられると焦り、魚家はユーコにハンドサインで交渉する。
「はぁ、しょうがないわね、一つ貸しよ」
ユーコは溜め息まじりにかぶりを振った。
「いつもすいません、ユーコさん助かります」
やっかい事が解決したと魚家は、笑顔でユーコと片田に挨拶してから、それじゃあ失礼しますと嬉しそうに幽合会事務所から退散した。
二人はPCディスプレイの冷たい青光の中、依頼された標的のデータを頭に焼き付けた。
「田島ひろし、四十六歳独身、先月食品工場をリストラされてますね」
無表情で片田が言った。
「失うものがない無敵の人かな?」
屈託のない笑みでユーコが片田に水を向ける。
「どこで感染して変異体になったか、全く分からないですね」
片田は、解雇された食品工場周辺の地図をみながら答えた。
「まあどうあれ、凶商三人殺れる能力があるなら、こちらもそれ相応の武装が必要ね」
そういうと、ユーコはズボンのポケットから銀色に光るスマートフォンを取り出して、片田に車を事務所の前に回しといてと指示してから、何処かへ電話をかけながら幽合会事務所を後にした。
Ⅱ
ユーコ達の事務所から、車で十五分ぐらい離れた場所にある雑居ビル。その雑居ビルの地上一階に、長方形のデカい看板に漢字で武器屋と書かれた錆びれた店がある。
その店先に、片田が運転する幽合会社用車の黒い4WDが停車した。後部座席右側のリヤドアーが開いて、ユーコが車を降りた。
「車で待ってて」ユーコはそう、運転席の片田に少し機嫌良く言って、武器屋の中へ入っていく。
店内は無数の武器で埋めつくされ、銃器や刃物の鈍い鋼の輝きが、錆びれた骨董品や鎖の煤けた暗さと対比している。最新のアサルトライフルの無機質な黒と、モーニングスターの古めかしい鉄球が、奇妙な調和をもってそこに存在していた。
ユーコが入ることで、店内にこもった火薬と油の重たい匂いが、わずかに揺らぐ。並べられた武器からは、使用者の汗や血、そして冷たい鉄の重みが、触れずとも伝わってくるようだった。
レジカウンター内側に座る、周囲の様子を気にすることも無く、スマホのディスプレイを凝視する男が見える。
読めそうにない、おそらく英字で描かれたデスメタルバンドのロゴが刺繍されたキャップを被った、長髪で小柄な男。おそらく店主の方へ店内の商品には目もくれず、彼女は迷わず進んで行った。
「ハンセンミサワの三冠戦」
店主の前に立ち、ユーコがぼそりと言った。
「プププ、プロレスニュース+1」
彼はすっと椅子から立ち上がり、甲高い声で叫んだ。
合言葉だったようだ。
彼はスマホをズボンのポケットに慌ててしまい、店内に他の客が居ないのを確認してから、レジカウンターの机裏側にあるボタンを押すと、店の窓、入り口にシャッターが降りてきて、あっという間に外から店内が見えない密室になった。店内の空気は一変し、密室特有の重く濃密な緊張感が、ユーコと店主の間に満ちた。
「で、何が欲しい?」
「そうね、対変異体バスターライフルと…対変異体用の軽量ハンドガンが欲しいわ」
店主はバックヤードへ続くのれんを潜り、あーでもないこーでもないとゴソゴソ探してから、大小のハードケース二つをカウンターの上に置いてユーコに見せた。
「ウィー!」
店主が右手でブルズホーンを作り、天高く振り上げる。
「あ、あれ、ハンセンはウィーじゃなくて、ユースって言ってたらしいわ」
ユーコが憐れむような視線を店主に向けてから、小さいハードケースの中身を確認した。
店主は、驚嘆の形相を浮かべ膝から床に崩れ落ちて固まっている。
「なるほど……充電式プラズマ振動弾か、射程短いし余り撃てないけど、まあ、..これならいけそうね。ありがと、じゃあ支払いは公安に付けといて」
「ユ、ユィ〜……ス」
店主の力ない声が、店内にかすかに響く。
ユーコは大きいハードケースの中身を確認してから、カウンターの裏側にあるボタンを押した。
シャッターロックが解除され、跪いたまま固まる店主を置き去りにして、大小のハードケースを両手に持ったユーコが、黙礼してから店を出た。
片田が、車のバックドアを開けてユーコを待っている。
「もークソ重ーいこれ、ちょっ、持ってよ」
ユーコが片田に大きいハードケースを渡す前に地面に置いた。片田は、その重いハードケースを左手だけで、軽々と持ち上げる。
「田島の家が分かりました。後、犯行現場がポートピアアイランド内、特に神海公園付近に集中してますね」
片田がバックドアの中にハードケースをいれながら、冷静な口調でユーコに説明する。
「まあ、田島の職場と家行ってみてから考えるかなあ……案外よなよな、その公園付近をうろついてたりすんじゃないの田島?」
そう言うと、小さい方のハードケースを持ったユーコが少し戯けた表情で片田を見てからリヤドアーを開けた。
Ⅲ
ポートピアアイランドは、神解市中央区の神解港内に作られた人工島。
神解大橋及び、港島トンネルによって神解市中心部と結ばれ、都市機能を一通り備えた、日本で最先発のウォーターフロント都市である。
午後20:00時過ぎ──────
一台のバスが、ポートピアアイランド北西に位置する神解キャンパス前に向かっていた。
15分前──────
ささいな事だった。
田島ひろしはバスの最後尾から一つ前の窓際にある、二人掛けの席に座り俯きながら独り言をぶつぶつ呟いている。最後尾のソファーの様に長い座席に座っていた。
黒髪マッシュの大学生と連れの茶髪のマッシュが田島の方をチラチラ見ながらコソコソ話している。
「ヤバいのキタ」
半笑いで田島をチラ見し、嘲笑しながらスマホのカメラで動画を回して田島を撮影していた。
車内には田島と大学生二人組、運転席の後ろ側に老人が一人とパート帰りの妙齢の女性が二人、さらに会社帰りのサラリーマンの中年男性が一人、バス中央の左側一人掛けの座席に座っている。
田島は、後ろ側で自分にスマホを向けている黒髪マッシュの方をチラッと一瞥した。
「ヤベッ」
と、スマホのカメラを田島から一旦外し両足の間に隠したが、またすぐに田島を撮影しだした。
その時だった。田島の左手人差し指と中指から湧き出した刃物状の鋭利な異形肢の様な指で、スマホごと黒髪マッシュの顔面を砕き割った。
「……あ……ああ……」
茶髪は、さっきまで楽しげに会話していた友達が何か分からない蠢く物に串刺しにされ、顔面からドロドロと赤い鮮血を垂れ流す様を見て、口を開けたまま絶句した。
「なんだあ、何かお、おれに文句でぼあるのか?ガキぃ?」
田島は、顔色一つ変えずに茶髪の両目を指先の凶刃で抉り出し、愉しむように少し間を置いてから、ゆっくりと下に刃を引いた。
そして、そのままゆっくり席を立ち、無抵抗な乗客達を、無表情、且つ淡々と刃物状に変化した硬質な指先で次々に串刺し、切り裂き、一方的に屠っていく。
走行するバスの車内は驚くほど静かな地獄だった。
バスが神解キャンパス前に着いて、車両前方の降車口がバタンと開いた。
ゆで卵をスライサーで輪切りにした様なバス運転手の顔面が、田島の左手から伸びた禍々しい刃状の指先から、濡れた音を立てて地面に滑り落ちた。
Ⅳ
田島が、乗客達を殺した返り血で泥々になりながら、バスを降りて神解公園へ歩き出したその時だった。
ドスンという鈍い衝撃音とともに黒い4WD車のフロントバンパーに、田島の左脇腹がめり込んだ。
田島の身体は轢かれた衝撃で空中に投げ出され、5メートルから7メートルぐらい先の歩道脇の草むらに突っ込んだ。
黒い4WD車の、運転席側のリヤドアーが開いて、黒いスーツに身を包んだユーコが降りてきた。
街灯に照らされた金髪は、ほぼ真っ白に見え、碧眼が凶々しく光っている。
「あなたが田島ひろしね、探したわ」
ユーコが運転席にいる片田にアイコンタクトを送り、右手のハンドサインで合図した。
少し間をおいてから、片田が車を発進させ、その場から離れて行く。
「あんたに聞きたい事が三つあるわ」
ユーコが田島の方へ歩きながら聞いたが返事はない。
草むらから大きな影が出現し、変異した姿の田島がユーコの方へゆっくり移動してきた。
「まァ、あ゛い……い゛ぃカラダ……ころすぅゥ……」
田島の両腕から電光石火で射出された黒い筋は、空気をも切り裂くような速度で、彼女にその歪な先端を叩きつけた。
触手の刃先が彼女の左腕に直撃して、左肘から先を綺麗にスパッと地面に切り落とした。ドサッと、乾いた音と共に左腕が地面に転がる。
途切れた左腕の白いブラウスが、赤く染まり血液が地面に流れ落ちていく。
「質問に答えないのね」
ユーコは、顔色一つ変えずに右手で黒いジャケット内側にあるガンホルスターから、対変異体用軽量ハンドガンを抜いて、引き金を引いた。
「ギャがわぅ..うああぁアヅい」
田島の被弾した部分が、黒い血を垂らし、赤く焼けただれている。
「どう?質問に答える気になった?」
ユーコは月光の下、至って冷静で冷淡かつ冷酷に、転がった左腕を素早く回収した。切り離された左肘から、極めて細かい、白い無数の蟻の様な糸が、蠢くように現れ、切り落とされた左腕と結合していく。その接続は一瞬、神経を引きちぎられるような激痛を伴い、彼女は顔を歪ませるも、すぐに冷徹な表情に戻った。
彼女は、自らを「再生者」と称し、いかなる傷をも修復する奇妙な能力を持っていた。まるで機械のように、切り落とされた腕は数秒で再生し、あたかも何事もなかったかのように再び機能していた。
「ギギギ……だ、れ、おマエ……」
片膝をついてユーコに撃たれた銃創からドス黒い血を流しながら、田島が少し後退りながら問いかける。
「質問してるのは私よ」
ユーコが銃のモードスイッチを変えると、プラズマの様な蒼白い閃光が田島に向かって走った。
「がああああああ……」
田島の悲鳴が暗闇に響き渡る。
「まずどうやって変異したの?」
冷淡な碧眼が田島を捉えたまま問いかける。
「いしゃ….ぃしや….サレ…お、レ……」
「何処で?」
「玉重にぎや…..アだ、名前……は……グギギ」
ユーコの右側下方の足元から、田島の凶刃がヒュルンと伸びてきて、突然彼女の右足首を掻っ切った。
彼女は右側にガクンと体勢を崩しそうになったが、左腕の時より数倍速いスピードで、極めて微量な出血に抑え、瞬時に白い糸が切断部分を結合し、再生させて倒れそうになっていた体勢からなんなく復帰した。
「しつこい」
ユーコが銃口を向ける刹那、田島の触手が一気に加速し、彼女の左胸と腹部中央を貫いた。
「くっぅぅ、いっつ」
小さな呻き声を漏らしていると、貫かれた勢いで、後方へ叩きつけられるように倒れる最中、彼女は右手で握った銃のトリガーを天に目掛けて引いていた。
空虚な夜空に、雷の様な蒼白い光の柱が顕現した。それは、弾の残渣が上空で光を放つ片田への合図だった。
その光景を、数百メートル離れた高架歩道の影から冷徹に見下ろす片田がいた。彼女の手にあるのは、対物ライフルを基盤に再設計された対変異体兵器――「バスターライフル」。重量は二十キロを超える。だが片田は、まるで長年身体の一部であったかのように構え、呼吸すら機械的に制御していた。
彼女は地面に転がっていた塩化カルシウム入りの土嚢袋を掴み、即席の射撃台として積み重ねた。
袋は湿気を吸って膨れ、破れ目から白い結晶粉がにじみ出す。膝をずらした拍子に、その粉が片田の黒い靴に付着し、細かな白い跡を残した。
彼女は気にも留めず、銃のバイポッドを袋に沈める。塩の結晶は砂よりも硬く、砕ける音が「ジャリ」と低く響いた。反動吸収には不足ない。スコープは熱源センサーとレーザー測距器を統合した複合光学。彼女の視界には、変異体の触手運動が赤外線の残像となって幾重もの軌跡を描いていた。
呼吸のサイクルを「二拍吸って、三拍止める」で固定する。呼吸を制し、心を制する。照準線がユーコの背をかすめ、乱舞する触手の隙間を縫い、やがて田島の中心核――頭蓋を越えた奥に存在する異形の中枢――へと落ち着いた。
「距離、412。湿度74%。潮風による弾道偏差は、.50口径換算で約5センチ。」
片田は脳内で補正値を計算し、呼吸を制御する。
独りごちる声は冷ややかで、無駄がない。呼吸と鼓動の狭間、意識が闇に溶け、無意識へ。
引き金にかかる指が一分の一秒を延ばすように、わずかに緊張する。電子点火式の撃発機構が、従来の火薬銃とは別次元の切れ味をもたらす。
バスターライフルが吠えた。
砲声は抑圧器によって鈍く低く潰され、しかし弾丸――タングステン合金を超電磁加速した徹甲弾――は、空気を裂く超音速の衝撃波を残して突き抜ける。
ユーコの頬をかすめた刃風。次の瞬間、田島の半身が消失し、残った腹から下の部分が後方に弾け飛んだ。触手が痙攣し、舗道に叩きつけられる。
スコープの向こう、片田の眼には冷たい青の残像だけが残っていた。ユーコを救った喜びも、敵を討った昂揚もない。あるのは任務遂行の静謐。
彼女はただ、ライフルのボルトを引き、次弾を薬室に送り込んだ。
田島の残された、ほとんど存在すらしない半身から、焦げ臭い悪臭が漂う。
「遅いッッッツ!」
仰向けに倒れたまま、ユーコは怒号を叩きつけた。その声は、街灯の届かない暗闇に、鋭い刃のように響き渡る。
ユーコは左胸と腹部中央から、突き刺さる田島の触手を荒々しく引き剥がした。身体に空いた血で滲んだ暗い穴を、細かい白い糸が隙間を埋める様に結合し、再生していく。
「スーツ……また経費で落とす羽目に、最悪..」
血が滲んだスーツの穴を一瞥し、彼女は緩慢な動作で立ち上がる。
「すいませーん、ユーコさーん」
片田が、後方からバスターライフルを担いで歩み寄って来た。
「あんたねえ、もう少し早く撃てなかったの?」
ユーコが訝しみながら片田の顔を覗きこんだ。
「なんかこう、ここっていうタイミングが掴めなくて」
と、申し訳なさそうに片田がぺこりと頭を下げながら答えた。
「最悪よ、スーツ穴だらけで肝心な事聞く前に、あんたがバスターライフルで吹っ飛ばしちゃうから」
「いやいや、今、撃つの遅いって言ったばかりじゃないですか?それに、いくら再生者のユーコさんでも、あのままなら危なかったでしょ?」
「私はチープなスリルに身を任せただけよ」
と、ドヤ顔で見つめてくるユーコに、片田は、あーまた始まったよと表情を曇らせ、苦笑した。
真っ黒い灰の塊に成り果て、生命活動を停止した田島の死骸を前に、二人は責任をなすりつけ合う押し問題をしばらく展開してから、何事もなかったかの様にその場を後にした。
「で、どうするんですかこれから?」
「まあ標的は始末したし、とりあえず戻る、事務所に」
車内で、ユーコは後部座席で穴が空いたスーツを恨めしそうに眺めながら、スマホを操作する。
「テンテンテン、テ、テテテー」
車内に哀しげなGet wildなピアノの音色が充満していく。
「シチーハンター!?」
暗い車内に片田の声だけが響いた。
「チーじゃないティーよ」
極めて冷静なユーコのツッコミに、仄かに片田の耳が紅く染まっていく。
何事もなかったかの様に片田が、強く右脚で車のアクセルペダルを踏み込んで、アスファルトをタイヤが切りつけた。
──────
See you in the next hell…




