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こたつで散りゆくこの命

「──げふっげふっ、この家ほこりだらけじゃねーか! ったく、フェイトのやつは一体どんな生活を……げほ」


床に積もった塵の山を慣れない風魔法で外に払いながら、どこかで自分を観ているであろう天界の女神に大声で悪態をつく。


俺の名は健人、18歳のごく普通の高校生──と言いたいところだが、訳あって今は可愛らしい少女になってしまっている。


「はぁ、今でも実感が湧かん」


◇◇◇


時は遡り、2023年2月5日……ちょうど俺の誕生日に、その事件は起きた。


今年は日曜日だったこともあり、俺はバイトを休んで家のこたつに引きこもっていた。


「あー、やっぱりこたつは最高だな。こんだけ暖かいと眠くなってくる……いや、今日は俺の誕生日だぞ。少しくらいは──」


こたつの中で寝るのは大罪だと母さんは何度も言っていたが、この誘惑に勝てるはずもあるまい。


そして俺は1時間ほど熟睡したあと、重い瞼を開いた。


「うーん──よく寝た。……あれ?」


意識の覚醒へと至ってからおよそ1分。

俺はようやく、この何かが狂った状況に違和感を抱く。


「ここは……」


辺りを見渡すと、終わりのない真っ白な空間がそこに広がっていた。


「この空間、何だか気持ちいい……ずっとここにいたい気分だが、そういうわけにはいかないよな」


そんな独り言を呟きながら俺は歩みを進めるが、どうやらここは人間は愚か、物体さえ存在しない領域のようだ。


「すみませぇ──ん! 誰かいませんかぁ──!!」


生涯最大の声で叫ぶ。

まあ、これで誰か出てきてくれたら苦労はしないのだが……。


「もうっ、うるさいなぁ! こんなとこに何のよう……って、あなた人間!? なっ、なんで人間が神の広場にいるのよ!」


出てきた。

齢15歳ぐらいの、美しい少女が。


◇◇◇


正直に言おう、俺は今すごく混乱している。


「確かに俺は人間だが……その言い方だと、まるであんたが人間じゃないというように聞こえるが?」


努めて冷静に問うてみると、天から降りてきた少女は不快感を露わにして言った。


「はあ? 私が人間? ふざけるんじゃないわよ! 私は神、女神よ女神! ……はぁ、それよりもあなたはどうやってここにきたわけ?」


「いやぁ、ただ家のこたつで寝ていただけだったんだけど」


「……うーん、しょうがない。この私直々に、あなたがどうしてここにきたのか見てあげるわ」


ドヤ顔でそう言いながら、少女は懐から球体の水晶を取り出し、何かを見始めた。


「──ふふふふっ、あっはっはっはっは!!」


刹那、白の空間に少女の笑い声が響く。


「ど、どうしたんだ?」


「いやーね、結論から言うと……あなたは死んでいるわ。それも無様にね」



「はっ? いやいや、俺はこたつで寝てただけだぞ? なんで死ぬんだよ」


「いやぁーその死因がさ、君こたつの中に頭を突っ込みながら寝てたでしょ?」


「そうだけど……それが死んだのにどう関係するんだよ」


「よーく聞いてね。信じられないと思うんだけど、こたつの足が何かの衝撃で外れたのよ。それでテーブルがあなたの頭に直撃、おまけにこたつの下は鉄製。うん、即死だね!」


状況を理解したとき、空間だけでなく俺の頭も真っ白になった。


「え、えっ、ゆ、ゆゆゆ夢だよね、これは! なあ!

そう言ってくれよぉ!?」


俺はもう自暴自棄になっていた。

不可視の床に頭を何度も叩きつけるが、出血することはなく痛みだけを感じる。


「とりあえず、君が死んだっていうのはわかった。でもなんで神の広場に来たんだろう──いや、まあいっか! とりあえず君には二択を選んでもらうわ。このまま成仏して天国に行くか、異世界に行くか。どっちがいい?」


目の前にいる女神の無頓着さに脱帽しつつ、 俺は「異世界」という言葉を聞き逃さなかった。


「え、異世界? 異世界に行けるのか!?」


「うん、そうだよ。……ああ、あなたの世界では異世界なんて単語は普通じゃなかったっけ。いい? 異世界っていうのは──」


「異世界がいい!!」


「えっ?」


即答した。

当然である、男なら誰しもが一度は異世界に憧れるというもの。

剣と魔法のファンタジー……ああ、想像しただけでもワクワクが止まらない!


「え、ええ。わかった、異世界ね。それじゃ一段落ついたことだし、私の自己紹介をしようかしら。──私は運命の三女神フェイト、気軽にフェイトって呼んでね?」


運命の三女神、か。

もうここは既に、俺のよく知る世界ではなくなっていると考えたほうが良さそうだな。


「それじゃ、そろそろ準備をしましょうか。まずは外見をどんな感じにするか教えて?」


なんか、RPGによくあるゲームみたいだな 。

「うーん、めっちゃイケメンでガタイが良い男子かな」


「ふむふむ……わかったわ。それじゃあ欲しい能力を言ってちょーだい」


「え、制限とかないの?」


「ないよー?」


「マジか! じゃあ魔法をめちゃくちゃ撃てて、使う武器は近接戦もできる杖。なおかつ不老不死の能力が欲しいっ!」


「あなたって自分に正直なのね……まあいいわ。その能力、つけてあげる」


「本当か? 助かる!」


「それじゃあ私もやることがあるから、そろそろ異世界に転移させるわよ。場所は山の上にある家……ああ、あと向こうの世界に行って寂しくなったら私の名前を呼ん でちょうだい。天から話しかけるから」


「ああ、何かトラブルがあったら呼ぶことにするよ。──じゃあ、行ってきます」


「いってらしゃーい」


◇◇◇


「ここが……異世界、か」


見渡すと、周りには広大な原っぱが俺を囲っていた。

フェイトの話によれば、俺が転移したところは山の上で──。


「……あれ? 俺ってこんなに可愛い声してたっけ? あとなんか異様に胸が重いな……いや、まさか」


ちょうど雨が降ったあとだったのか、足元にできた水溜まりで自分の姿を確認する。


すると──望んでいたイケメン男子ではなく、豊満な胸を持った美少女がそこにいた。


「なっ、なんじゃこりゃああああああ!? ど、どうしてっ、俺は、男子にしてくれと言ったはず……!?」


そして俺はふと思い出した 。


「そ、そうい えば天に向かって話かければフェイトが応えてくれるって言ってたな……フェェイトォ──っ!!」


俺は再び大きな声で叫んだ。

もう声が枯れそうである。


「ん〜、なに? 寝てたんだけど今」


「んなもん知るか! 俺はカッコいい男子って言ったのに、なんでめっちゃ可愛い女子になってるんだよ!?」


そこでフェイトはようやく俺の姿を見て慌てふためいた。


「え、嘘まって。私が趣味で作っためちゃくちゃ可愛い女子の方になっちゃっ た!?」


「なっちゃった? じゃねーよ!! 今すぐ頼んだのに変えてくれ!」


「あー、ごめんっ、これ一回行ったらもう変えれないんだよね……。だからこの世界では申し訳ないけどその姿でお願いっ! ちなみに不老不死だからずっとこのままだろうけど、私も忙しいから! また今度ね!」


「……えっ? ちょ、ちょっと待っ──」


動揺しつつも必死に天へと話かけるが、もう遅い。

誰もいない山の奥に、ただ俺の声だけが虚しく響いた。


「はあ……まあ、なっちまったものは致し方ない。どうにかするしかないな」


とりあえず、一人称を俺じゃなくて私にするか。

あと口調も女子っぽい口調に変えて……でも一番の問題は名前だよなぁ。


「うーん……」


女子っぽい名前──そういえば、両親が俺が女子だった時の名前は唯華って名前にする予定だったって言ってたっけ。


「よし、じゃあ今日から私の名前はユイカだ!」


空に向かって拳を上げ、俺は……いや、私は高らかに宣言した。

ここから始まるのだ──私の、予測不能な第二の人生が。

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