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微話  作者: 歌川 詩季
20/165

◇20◇白熱のトーナメント戦!

 トーナメント戦、燃えます!

 なんてこった!


 その日は、大事なトーナメント戦の試合が、ある日でした。

 これをひとつ勝ちあがれば、上位入賞も見えてくるのですが、それだけに。

 ここはもう。強豪ひしめく盤上であり、百獣うごめく密林。

 万全のコンディションで挑まなければ、あっというまに打ち倒される。

 ふだんから風邪に気をつけて、手洗い、うがい。

 前日は、睡眠をたっぷりとるとともに。首を寝違えることのない、ぴったりくる枕を。

 少し、早めに起床した当日は。消化が良くも、活力となるものを朝食にする。

 あ、バナナ、もういっぽん食べちゃお。


 そこまでしました。ところが。

 その、三番めのバナナをかじったとたん。左上の奥歯を襲う、電撃の細い根が掘り進むような痛み。

 しまった。いつのまにか、おさまっていたとおもったのに。


 虫歯です。


 歯医者に行く時間はあったはずですが、それを(おこた)ってしまった。

 トーナメントの一回戦が、はじまるまえ。

 たしかに、違和感はあったんです。

 チョコアイスバーを、前歯でかじりとって。

 噛み砕くために、奥歯のならぶ内頬へと、その破片をころがしたとき。

 ぴりっとした痛み。

 ——知覚過敏かな? それは、希望的観測か、自己催眠か。

 だが、その程度の疑いにおさまる、ほんの痛み。

 やりすごしてしまえば、消えて忘れるものだと思っていましたし。実際、いまのいままで、私はそのことを忘れてさえいたのです。


 でも、こうして。

 虫歯の痛みは、もはや、思いすごしの範疇(はんちゅう)を超えた、たしかな(やいば)となっています。

 アイスどころか。冷たい水を口にふくんだときでさえ、奥歯に触れないようにとの、慎重さが必要。

 バナナののこりは、反対側である、右側の奥歯でかんだものの。こちらの奥歯まで、いまに痛みだすのではないかとの恐怖と、たたかいながらの朝食になってしまいました。


 さいわい、右まで痛みだすことはなかったものの。左の奥歯の痛みは、にぶいうずきとして、常勤をはじめました。

 まずいって!

 こんな状態で、奥歯をかみしめて、力をこめたりしようものなら——いや、それ以前に。痛みを恐れながらでは、試合に集中することさえ、満足にできやしません。


 その結果——。



 試合は負けてしまいました。


 たしかに、あいても強かった。

 負けても、なんら不思議はない。

 それでも、勝てないあいてではなかったはず。


 負けた理由は、はっきりしてます。

 負け惜しみではありませんが。あきらかに、じぶんの体調管理がいきとどかなかったせい。


 いまも、ずくずくするこいつが。


 私が、負けてしまった原因なのです。



 歯医者さんに予約をいれて。

 苦い「負け」の味を、うずく奥歯で噛みしめながら、その日をすごしました。


 こいつだ。

 こいつのせいで、わたしは負けた。

 やっぱり、こいつこそ私が負けてしまった原因なんですってば。



 敗退——「歯、痛(はいた)い」ですので!

 準決勝あたりで、番狂わせが!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 先日歯科の定期健診に行った私にとってはタイムリーな物語でした。 虫歯はどんな強者にもデバフをかけてしまいますね…。
[一言] 虫歯の治療では、さすがに眠れないですよね。 変なこと気になって、ごめんなさい。
[一言]  皆様の感想から見る限り。  歌川先生の勝ちのようですね。  もちろん私は端から白旗です。
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