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九話 冒険者登録と模擬戦

「えーと名前はアルレルト、役割は見た目通りの剣士ですね。それで登録します、冒険者ギルドの説明はお聞きになりますか?」

「なにぶん素人ですのでお願いします」


表向きの笑顔を崩さず"説明しとけよ”という強い受付嬢の抗議の視線をイデアは無視した。


「こほん、冒険者ギルドは一般人が手に負えない様々な事柄を依頼として所属冒険者に斡旋しています。冒険者には階級(クラス)があり、下から下級(ロークラス)中級(ミドルクラス)上級(ハイクラス)天級(エンジェルクラス)です。階級(クラス)は依頼の達成数と難易度によって上がります」


事務的に怒涛の如く情報を並べた受付嬢だったが、アルレルトはその全ての情報を噛み砕いて自分のものした。


「なるほど、冒険者ギルドの仕組みは理解できました」

「それでは最後に冒険者と戦ってくれませんか?、実力を図るためです、冒険者ギルド(こっち)としては実力が足りなくて死なれては困りますので」

「俺としては一向に構いませんが、俺は誰と戦うのですか?」


アルレルトの言葉に立候補しようとしたイデアの切っ先を別の冒険者が阻止した。


「その新人の相手、俺がやってもいいぜ」

「ベイジンさん、二日酔いの状態で戦うんですかー?」

「あぁ!?、俺が万全じゃねえとあのガキに負けると言いてぇのか?」

「いやー、別にそんなことを言ったつもりはないですけどねー」


ベイジンと呼ばれた男の怒声でそそくさと引き下がった受付嬢の代わりにイデアが前に出た。


「飲んだくれは必要ないわ、彼の相手は私がするもの」

「おいおい、お前が連れてきた奴の実力をお前が見るのか?、いくら恋人を冒険者にしたくてもそれは行けねぇぜ」


ヒュー、ヒューと冒険者たちが冷やかす声に顔を赤くしたイデアが青筋を立てて今にも杖を抜きそうなほどに恥辱で震えていると、その肩に優しくアルレルトが手を置いた。


「俺は別に誰でも構いませんよ、しかし二日酔いは抜いた方が宜しいかと、飲んだくれと戦う趣味はありませんので」


アルレルトの意趣返しの言葉にベイジンは怒りで顔を赤くし、周りの冒険者がはやし立てた。


「はは、新人に舐められてるぞ!、ベイジン」

「冒険者の過酷さを教えてやれ!」

「言われなくても分かってる!、てめぇらは黙ってろ!」


「あ、ありがとうアル」

「礼に及びません、それよりあの冒険者のことを教えて欲しいのですが」

中級(ミドルクラス)で盾と斧を使う典型的な盾役(タンク)の冒険者よ」

「おい!、新人!、さっさと練習場に来やがれ!」


イデアからの情報を聞いたところでベイジンに大声で誘われた。


ベイジンの後に着いていったアルレルトをイデアと受付嬢が追随し、アルレルトとベイジンの二人は広い練習場で向かい合った。


「模擬戦なので使うのは殺傷性の低い木剣です、彼を倒す必要はありませんので、ベイジンさんも分かっていますね?」

「分かってるよ、これは新人の腕試しだからなぁ」


ベイジンはイデアの言う通り、木斧と丸盾を持っていた、アルレルトは渡された木剣を触ったり振ってよく確認した。


「片手半剣、木剣は重い方が好みなのですが仕方ありませんね」

「へへ、いつでもかかってきていいぜ新人」


盾を構えてニヤつくベイジンをよそにアルレルトは地面の感触を確かめていた。


「本気で打ち込んで宜しいですか?」

「構わねぇぜ、まぁ、新人の本気なんてたかが知れてる…」


ベイジンが言い終わる前に地面を蹴ったアルレルトの突きがベイジンの盾を強襲した。


ベイジンが想定外の速度と威力に驚いて盾でいなすのが遅れた隙をついて、連続で両袈裟斬りを打ち込みバランスを崩させた。


盾が弾かれたベイジンは咄嗟に木斧を振り下ろしたが、アルレルトは左側に避けて丸盾の死角に入りながら突きを打ち込んだ。


盾と剣がぶつかる鈍い音が響き押されたベイジンは完全にバランスを崩して、倒れた。


しかし追い討ちはかけず、中段に構えてアルレルトは一歩引いた、倒れてもなお繰り出される反撃(カウンター)を警戒したのだ。


「流石に誘いが露骨過ぎますよ、それでは反撃(カウンター)しますと言ってるようなものです」

「ちっ!、新人のくせに生意気な!」


狙いを見破られたベイジンは即座に跳ね起きて、丸盾を正面に突撃してきた。


突撃(チャージ)を左右に避けても木斧が襲ってくると判断したアルレルトは正面から迎撃った。


風船が破裂したような音が響き、ベイジンは大きく跳ね上げられていた。


「しまっ…!?」


一瞬空中に浮いて無防備になったベイジンにアルレルトの返す剣が命中し、ベイジンは斬り飛ばされた。


「引き分けですね」


ゴロゴロと地面を転がるベイジンと反対にアルレルトが振った木剣は折れていた。


アルレルト自身気をつけていたが、少し本気を出したアルレルトの力に木剣が耐えられなかったのだ。


「強いってことしか分からなかったわね?」

「は、はい。まぁ、とりあえず強いことは分かったので下級(ロークラス)のドックタグを発行致します」


イデアの視線から逃れるように受付嬢は走っていった。


アルレルトはのびているベイジンに声をかけようとして、イデアに手招きされたのでそっちを優先した。


「かなり手加減していたでしょう?」

「えぇ、そうしないと木剣が折れると思ったので結果的に折れてしまいましたが」

「今回は仕方ないとして冒険者は実力主義よ、相手と変な禍根を残さないように徹底的に倒した方がいいわ。流石に殺すのはダメだけど」

「俺が様子見をしていたことに気付いていたのですね」

「無論よ、アイツが反撃(カウンター)を打とうとした時アルなら木剣が折れるの承知で反撃(カウンター)ごとねじ伏せられた筈よ」


イデアの指摘にアルレルトは息を吐いて、折れた木剣を持ち出した。


「確かに決着を急ぐのならイデアが言う選択肢も取れましたが、俺は剣が残る方を優先しただけです。今回は模擬戦でしたが魔獣との戦いでは連戦があることもあります、ナマクラでも剣が無いと不便です」

「む、確かにアルの言うことには一理あるわね」


森での魔獣との戦いを思い出して、そこで培われたアルレルトの基幹戦術をイデアは改めて理解した。


「あの冒険者は放っておいて良いのですか?」

「仮にも中級(ミドルクラス)の冒険者なんだから心配はいらないわ、さっさと行きましょう」


倒れたベイジンを放置して二人はギルド会館に戻るのだった。


「こちらが下級(ロークラス)のドックタグで無くさないようにして下さい」


紐が付いた白いプレートを受付嬢から貰ったアルレルトは興味深そうに見ながらも、首に掛けた。


「あのーイデアー、お願いがあるんだけど…」

上級(ハイクラス)依頼(クエスト)ならお断りよ、私はアルとパーティーを組むんだから」


イデアの発言に受付嬢に目を剥いた。


「はぁ!?、あの誰ともパーティーを組まなかったイデアがパーティーを組むの!?」

「声が大きいわよ、別に私が誰と組もうと私の勝手じゃない」


半目で睨む視線を向けたイデアは顔を逸らした受付嬢に溜息を吐いた。


「まぁ、いいわ。アル、拠点にしてる宿屋に案内するから着いてきて」

「宿屋ですか?」

「えぇ、これからしばらくは"妖精の宿り木亭”が拠点よ」


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