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七話 決意と旅立ち


突発的な戦闘による疲労で暫く放心しているとアルレルトの足元に寝ていた魔人ディアボロスの死体が塵となって消えた。


「魔獣が消えた?」

「やられたわ、今消えた魔術人形を使って逃げられたわ」

魔人ディアボロスでしたか、逃しましたね」


折れた刀を鞘に納めようとして鞘が壊れたことを思い出したアルレルトは半身の刀を地面に突き刺した。


「逃げられたと言え私たち魔人ディアボロスを退けたのよね?、何だか実感がないわ」

「あれが噂に聞く言語を話す魔獣"魔人ディアボロス”ですか、イデアがいなかったら勝てませんでした。改めて感謝します」

「それはこっちのセリフよ、私一人だったら邂逅した時に死んでるわ」


そういえば似たようなやり取りを魔粘体(スライム)と戦った時もしたような気がして、二人は笑いあった。


「とりあえずお互い無事で良かったですね」

「ええ、本当よ。ちょっと動かないで血糊を落としてあげるわ」


杖を振って魔術を唱えるとアルレルトの全身に飛び散っていた血糊がきれいさっぱり宙に溶けて消えた。


「血糊を落とす魔術があるとは驚きました」

「元々は鉱石を分離する魔術だけど私が改良したのよ、冒険者をやってるとどうしても血糊を浴びる時があるから」

「それはともかくこれからどうしましょうか…」


魔術について話し出しそうなイデアを制してアルレルトは現実的な問題を唱えた。


昨日まで住んでいたアルレルトの家は瓦礫の山と化し、とても生活できる環境ではなくなってしまった。


「今日は村長さんの家に泊まりましょう、あとのことは明日考えればいいわ」

「そうですね、そうしましょうか」


アルレルトはイデアの提案に笑顔で頷くのだった。


◆◆◆◆


突然押しかけたのにも関わらずメイス村長は暖かく俺たちを向かい入れてくれた。


村長の家で一夜を過ごした俺たちは今一度森に戻ってきた。


「アルレルト、瓦礫を片ずけるなら私も手伝うわよ?」

「おや、昨日のようにアルとは呼んでくれないのですか?」

「え?、あ、あれは咄嗟に呼んだだけというか…別に深い意味があったわけじゃ……か、からかわないでよ!」


赤面して答えに窮したイデアはアルレルトが忍び笑いを零しているのも見て、からかわれているのだと気づき抗議した。


「俺をアルと呼んだのは師匠だけだったので()()()()()イデアもそう呼んでくれると嬉しいです」

「い、今"これからは”って言ったわよね?、私のパーティーに入ってくれるの!?」


赤面した顔から一転して興奮気味に詰め寄ってきたイデアにアルレルトは軽く頷いた。


「はい、住む家が無くなってしまいましたし良い機会です。イデアの夢を俺にも分けて下さい、そして一緒に叶えましょう。たとえどれだけ月日を費やしたとしても夢を叶えたイデアの隣に俺は立ちたいです」


温かい風が吹きアルレルトの黒髪が揺れ、珍しい山吹色(やまぶきいろ)の瞳はイデア・ガーランドという少女だけを見ていた。


「…!」


イデアは自分の体が明確な()を帯びたのを感じた、それは夢へ一歩前進できたことへの歓喜か、それとももっと個人的な何かか、ごちゃ混ぜになる思考のせいで瞳から温かい涙が溢れてきた。


「ただただ嬉しいわ、たった一人でいるかも分からない剣士を探す為にここまでやってきてあの時は必死で諦めないって言ったけど正直言って不安だったわ、仲間になってくれてありがとうアル」


溢れる涙を拭きながらイデアは精一杯の笑みで微笑むのだった。



イデアの仲間になることを誓ったアルレルトはイデアに手伝ってもらい、瓦礫を退かし続けた。


「やっと見つけました」

「これは地下扉?」


瓦礫をどかして現れたのは二人が三食を囲んでいた机の下にあった縦に長い地下扉だった。


「師匠に俺の持ってる剣はナマクラなのでもし旅立つ時はここにあるものをもってけと言わました」

「これは…漆黒の刀よね?」

「この刀は師匠が差していた刀です」

「えぇ!?」


驚くイデアをよそにアルレルトは丁寧に漆黒の鞘に納まった刀を取り出した。


抜いてみるとやはり刀身も漆黒、拵えと刀身共に漆黒であるならばかつて師匠が差していた名刀"黒鬼(クロオニ)”に相違なかった。


「死ぬ時は差していなかったと思ったら俺の為に丁寧に収めていたのですね」


黒光りする漆黒の刀身はその斬れ味を明確に伝え、ずっしりと重みの感じる重厚な様、冷徹さと美しさを兼ね備える名刀の名に相応しい刀だった。


「少し試し斬りをしてみます」


瓦礫と化した太めの木材の一本を立てて、抜刀姿勢に構えたアルレルトをイデアは固唾を飲んで見守った。


アルレルトが流れるように抜刀し、木材に触れた瞬間綺麗に上下に分かたれた。


イデアは小さく拍手していたが対するアルレルトは戦慄していた。


「刃が触れただけで斬るとは恐ろしい斬れ味ですね、慣れるには少々時間がかかりそうです」

「斬れ味が良いなら良いことじゃないの?」

「確かにその通りですが良過ぎるものは良くないのです、刀というのは剣士が扱う道具、持ち主の思惑よりも斬ってしまっては困ります」


苦笑いを零したアルレルトはとんだじゃじゃ馬をプレゼントとしてくれたものだと、(そら)の師匠に愚痴を吐くのであった。


◆◆◆◆


「師匠、行ってまいります。俺はここを離れますが墓の面倒は皆が見るので安心して下さい」


白き花弁が舞い散る中、墓石に手を置いたアルレルトはそう報告するとチラチラと小精霊たちが現れて縦横無尽に飛び回った。


「ふふ、お願いしますよ、皆」


微笑ましい笑みを浮かべたアルレルトはもう一度頭を下げて、白桜の墓を後にすると純白のローブを着こなす美少女イデア・ガーランドが待っていた。


「もう少し師匠さんと一緒にいてもいいのよ?」

「いいえ、あれ以上しがみついていたら師匠にどやされます」

「そう、アルが満足してるなら行きましょうか」

「一体どこに向かうつもりなのですか?」

「まずはアルの冒険者登録をする為に辺境都市グラールへ行くわよ!」


嬉しさ全開で片腕を突き上げるイデアに釣られて、笑顔になったアルレルトは長年住み慣れた森を去るのであった。








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