六十一話 解決法とアーネの告白
「で?、リーダー、こいつらはどうするのよ」
「放置するわ、私を追う理由はなくなったもの、追ってくるなら別だけどね」
イデアは冷たい目で見下ろすがベルナルドは何も答えなかった。
「皆、行きましょう。とりあえず宿り木亭に帰りましょうか」
イデアの意見には誰も反対せず、ベルナルドたちを放置して貧民街を後にした。
暗闘団の魔術師たちと戦闘したせいで、忘れかけていたが《妖精の宿り木亭》の借金を払うという目的は達成したのでシネアとニコに報告した。
「本当にありがとう!、イデア達には感謝してもしきれないよ!」
「友達が困ってたら助けるのは当然よ、それはそれとして今夜は泊まれる?」
「勿論泊まれるよ!、全員無料で良いよ!」
「ダメじゃ!、せめて半額にするのじゃ!」
シネアはニコに怒られていたが、無事に部屋を取ることが出来たので一度部屋に入ってから再度集合した。
「あっ!、そうだ、カラさんが働く話だったら快諾するよ」
「えぇ!?、カラ、話したの?」
「う、うん。シ、シネアさんとお話した時に話したよ」
「シネア、いいの?」
「全然大丈夫だよ、お給金をたくさんは出せないけどカラさんは真面目に働いてくれそうだしね!」
力強く言ってくれるシネアにイデアたちは安堵し、家族であるネロも態度には出さなかったが安心してるように見えた。
シネアとカラは宿屋を案内すると言って、ニコが連れ出してくれたのでイデアたちは卓を囲んで話し合いを始めた。
「まずは謝らせて欲しいわ、ごめんなさい。私のせいで皆を危険な目に遭わせてしまったわ」
真っ先に頭を下げて謝罪したイデアを見て、アルレルトとネロを視線を合わせ、ネロが何も言わなかったのでアルレルトが口を開いた。
「イデア、俺たちが欲しいのは謝罪ではありません。一緒に戦ってくれた仲間に言う言葉は謝罪ではありませんよ」
「アル…?」
「リーダーは《ゼフィロス》のリーダーだろ?、どうしてリーダーがパーティーメンバーに謝罪するんだよ」
ネロの呆れた視線を受けてイデアは二人が何を言って欲しいのか、すぐに気づいた。
「そうね、確かに仲間に掛ける言葉としては間違っていたわ。ありがとう、皆。私の為に戦ってくれて」
「当然のことをしたまでです」
「私はアルレルトみたいに馬鹿じゃないからそんな風に割り切れないけど、もうパーティーに入っちまったからな」
半ば巻き込まれて戦うのは諦めていると言ってくれたネロにイデアは苦笑した。
「それではこの話は終わりにして俺は魔術都市レーベンの話をしたいです」
「『ーー』」
レーベンの名を出した瞬間、イデアの表情に影が差したがアルレルトはアーネも反応したことに気付いた。
「薄々分かってると思うけどレーベンは私の故郷、私が生まれ育ち魔術を学んだ街よ」
「故郷と呼ぶにしては随分とその街のことが嫌いなんだな」
「ええ、大嫌いよ。魔術の発展の為なら何でも許されると考えるクソッタレ共の巣窟、魔術が全ての階級社会、住む人間も街並みも全てが嫌いよ」
イデアがここまでの悪感情を吐露するのは珍しく、聞いたネロですらも唖然としてしまった。
「唯一の救いはレーベンには私が知る中でも最高の治癒師がいることかしらね」
「それはイデアが前に言っていたアテがあると言ってた人ですか?」
「その通りよ、行きたくもない街に行くんだから絶対に彼を仲間に引き入れてみせるわ」
「大丈夫なのかよ、リーダーの口から聞く限りヤバい魔術師の巣窟なんだろ?」
「彼はあの街では数少ないマトモな人間の一人よ、少し変人気質なところがあるけどね」
「おい、最後付け足された言葉で少し不安になったぞ」
ネロのツッコミは流しつつ、アルレルトはベルナルドたちとのやり取りで気になったことをイデアに聞いた。
「先程抗争を止めるとか言っていましたが具体的にイデアは何をするのですか?」
「あー、フルグラス派とアルテレス派の諍いって日常茶飯事みたいなものなのよ。ずっと仲が悪いから抗争が大きくなったら両派のトップが話をつけるのが慣例化してるわ」
「リーダーがフルグラス派のトップなのは話の流れから分かるとして、アルテレス派のトップは話が分かる奴なのか?」
ネロの質問にイデアは難しそうな表情をして、口を開いた。
「今のアルテレス派はトップである《使徒》が不在なのよ、正確には後継者争いの真っ最中のはずよ。後継者が決まったという話は聞かないわね」
「えぇー、何だか面倒事になる予感しかしないんだけど」
「同感です」
テーブルの上で寝るアーネを撫でるアルレルトはネロの言葉に同意した。
「あはは、なるべく皆に影響が出ないように頑張るわ」
「となると件の治癒師は俺たちが勧誘した方がいいですか?」
「そうなるかもしれないわね、一度くらいは顔を出せるように何とかするわ」
「何にせよ、私はできることをやるだけだな。何時出発する?」
「なるべく早く解決したいから出来れば明日には出発したいわ、ネロには悪いけど」
「今更気にするなよ、リーダーたちと出会うまではカラを失う恐怖で毎日が苦しかった。でも今はそんなことない。これでもリーダーとアルレルトには感謝してるんだぞ」
ぶっきらぼうな口調と腕を組んでいるせいで態度と言葉が乖離しているように見えるが、二人にはネロが言葉通り感謝してるのが分かった。
その後、細かい予定や旅の準備などの話をしてから、イデアとネロが買い出しに出掛け、アルレルトは宿に残ってお留守番していた。
「グルルゥ」
「ヴィヴィアン、頭を擦っても追加のお肉はありませんよ」
留守番とはいえど暇なアルレルトは宿屋の庭でヴィヴィアンと戯れていた。
「アーネ、俺になにか話したい事はありませんか?」
『…藪から棒に何?』
「ずっと何かを言いかけて止めているではありませんか」
『アル様にはお見通しだね』
「家族ですからね、それで何を話したいのですか?」
アルレルトはヴィヴィアンの頭を撫でながら、アーネに聞くとアーネは肩から降りて人獣の姿に変化すると隣に座った。
「実は私もレーベンで生まれて育った」
アルレルトは驚きはしたが、黙ってアーネが話すのに任せた。
「だからイデアにはすごく共感できる、あの街は最悪の街。魔術の為って言えば全てが優先される」
「私の家はローデス派の魔術師で人獣についてずっと研究してた。アル様も知ってると思うけど人と獣が融合した人獣は御伽噺の存在、現実には存在しない」
アルレルトはその目で見たわけではないが、師匠曰く獣人という獣の姿で人の言葉を話し二足歩行する種族はいるが、人と獣が融合した姿の人獣はいないのだという。
しかしアルレルトはアーネという人獣を知っている。
「私は多くの兄弟、姉妹の命と引き換えに人獣魔術の実験が成功した唯一の存在。あの魔術実験を受けた者は私以外誰も帰ってこなかった」
日が傾きつつある空を見つめるアーネの横顔を見たアルレルトはアーネを無言で抱き締めた。
「アル様、痛い」
「申し訳ありません、でも今は許してください」
アルレルトは短く謝罪して、アーネを強く抱き締めた。
アルレルトの温もりを肌で感じるアーネはアルレルトの優しさに頬を綻ばせてアルレルトを抱き締め返した。
「実験が成功してすぐに家はアルテレス派に襲撃されて、壊滅した。だから私はレーベンから逃げた」
「それであの森へ?」
「ううん、逃げる途中で変な魔術師に魔力を全部奪われてトビリスの姿にされた。あの森に入ったのはその後」
魔力を失っても必死に逃げたところでアルレルトに出会ったのだという。
「あの時のアル様はかっこよかった、アル様に会えて僕は幸せ」
「そう言ってくれるのは嬉しいですが、レーベンに行くのは辛くはありませんか?」
「辛くないと言ったら嘘になる、でも今の僕はウェアウルフ家のクローディアじゃなくてアル様の家族のアーネだから大丈夫。心配してくれてありがとう、アル様」
「心配するのは当然です、アーネは俺の家族なのですから」
アルレルトとアーネはイデアたちが帰ってくるまでしばらく抱きしめ合うのだった。
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