五十七話 借金とスピード解決
とりあえず気絶させた悪漢たちをイデアが魔術で拘束してからシネアから事情を聞くことにした。
「色々聞く前に紹介するわ、私のパーティー《ゼフィロス》の新しい仲間のネロとその妹のカラよ」
「この状況で紹介するのかよ!?、え、ええとネロだ。《ゼフィロス》で探索役を務めてる、よろしくな」
「カ、カラです。よ、よろしくです」
ネロとカラに挨拶されたシネアも慌てて挨拶を返した。
「私は《妖精の宿り木亭》店主のシネアだよ」
「シネアとはこの街に初めて来た時からの知り合いね、それで彼奴らはなんなの?、借金がどうたらとか言ってたけど…」
皆の自己紹介が終わった所でイデアがシネアに事情を聞いた。
「実はこの宿屋にはお父さんが残した借金があって毎月決まった額を返済してたんだけど、今日いきなりあの人たちがやってきて全額返済しろって言ってきたの」
「借金があったなんて知らなかったわ、ちゃんと完済できるの?」
「それは大丈夫だよ、借りたお金は返済できる範囲だけど今すぐには用意できない額なの」
「完済の目処が立ってるのにどうしていきなり返済を求めた来たのかしら」
「それはどうやら宿屋を修繕したのを見て、大金があると思われたようなのじゃ」
イデアの疑問に答えたのは拘束された男たちの前にふわふわと浮かぶ手のひらサイズの妖精ニコだった。
「「本物の妖精!!」」
「二人共落ち着いて、ニコ。ソイツらの記憶を見たの?」
「うむ、この宿屋に来た時から家の中から男たち全員の記憶を見たから間違いないのじゃ。こやつらの主はどうやら金が入用ようなのじゃ」
「つまりは俺のせいということですね」
宿屋の修繕費はアルレルトが全額弁償したわけだが、それが借金取りに大金を持っていると誤解されてしまったのなら自分のせいである。
「ち、違います!、アルレルトさんのせいじゃありません!、元々言えば借金を残したお父さんが悪いんです!」
「シネアの言う通りじゃ、お主が気に病むことはないのじゃ」
シネアとニコの二人は擁護してくれたがアルレルトのバツが悪そうな顔は変わることはなかった。
「アル、現実を見て。アルのせいで傷ついた人は誰もいないわ。それにシネアが本当に危なかったらニコが守ってたわ」
「しかしそれは偶然ではありませんか」
「偶然だろうがなんだろうが誰も傷ついてないならそれでいいだろ、アルレルトは真面目に考え過ぎなんだよ。お前が沈んでるのは勝手だけどその前にやることがあるんじゃないのか?」
ネロに言われて顔を上げたアルレルトは気絶した男たちを視界に収めてから頷いた。
「確かにこの男たちをどうにかするのが先でしたね、どうしますか?」
切り替えたアルレルトはまずイデアへ問いを投げた。
「そうね……シネア。借金って具体的に幾ら?」
「えっと確か残り金貨二十枚だったはずだよ」
「なら払ってきてあげるわ、その額なら十分払えるし」
「えっ!?、イデアに払わせるのは…」
「そうだよ!、何で他人の借金を払わないといけないんだよ!」
シネアはイデアの提案に対して申し訳なさから、やんわりと断ろうとしたがイデアの提案にネロが噛み付いた。
「今後の為よ、ここはカラが働く場所になるんだから後暗いことは綺麗さっぱり掃除しないとね」
「まだここにカラを預けるって決めたわけじゃ…」
「男たちを放逐してから尾行しましょうか」
「人の話を聞けよ!?」
ネロはイデアに飛びかかったが、防御魔術の障壁で防がれてその場で倒れた。
「何するんだよ!?」
「ネロがいきなり飛びかかってくるからじゃない」
「リーダー、ムカつくから一回殴らせてくれよ」
「絶対嫌よ!?」
「多少青あざができても美人なのは変わらないから大丈夫だよ!」
「何も大丈夫じゃないわよ!?」
拳を握るネロからイデアが逃げて、追いかけっこが始めてしまった。
「お主の新しい仲間は随分と賑やかな小人じゃのう」
「それもネロの取り柄のひとつですから」
「ね、姉さんに私以外にも本音を言える人たちができて、ほ、本当に嬉しいです」
「と、止めなくていいの?」
シネアの問いにアルレルトは笑みを浮かべながら、首を横に振った。
「いいんじゃないですか、男たちが起きるまではとりあえず」
「えぇ…」
二人共一応宿屋の内装は壊さないように追いかけっこをしているのでとりあえずは安心だが、シネアは怒涛の如く変わる状況に混乱してしまった。
「ニコちゃん、どうしよう…?」
「もう少ししたらアルレルトが止めてくれるじゃろ。にしてもイデアが来ると毎回飽きることがないのう」
ニコの言う通り、男たちがうめき声を上げて起き始めたのを見たアルレルトがネロの頭に手刀を叩き込み、イデアの額にデコピンを打って追いかけっこを止めた。
「うう、アルのデコピン、結構痛い」
「アルレルト!、明らかにリーダーと私で扱いに差があるぞ!」
「ネロが主犯だからですよ、それよりそろそろ奴らが起きます」
男たちは目を覚ますとベラベラと喚き散らしたが、アルレルトが殺気を出して睨むと黙りこくった。
「命が惜しければ今すぐ消えろ、五秒以内に消えなければ斬り捨てる」
アルレルトの本気の殺気にはイデアたちも緊張してしまったが、それを真正面から受けた男たちは悲鳴を上げてイデアが魔術の拘束を解いたので慌てて逃げていった。
「さぁ、追いましょう」
アルレルトの一言にイデアたちは頷いて、カラとシネア、ニコ、そしてヴィヴィアンを置いて男たちを追うのだった。
◆◆◆◆
アルレルトの本気の殺気を浴びたせいで尾行するアルレルトたちに全く気付かず、男たちは路地裏から貧民街と呼ばれる場所へ入っていった。
アルレルトたちは建物の屋根伝いに男たちを追い続け、やがて男たちは一件の建物の中に入った。
しばらく待っても男たちが出てこないので、アルレルトを先頭に建物の入口から中に入った。
「借金を返しに来たわ!、《妖精の宿り木亭》に金を貸した奴がいるなら出てきなさい!」
見張りと思われる奴らをアルレルトとネロが素早く片付け、イデアが大声で呼び掛けた。
やや時間を空けて、階段から小太りの男が降りてきた。
「こ、困りますよ、お客様。従業員に手荒な真似をするなんて…」
「話すのはこっちよ、《妖精の宿り木亭》の借金は全額返済するから証文を出しなさい」
借金取りの元締めと思われる男はイデアが出した金貨の詰まった皮袋に目を光らせるとすぐに二階へ上がって、証文を持ってきた。
「こちらが《妖精の宿り木亭》に貸した金額になります」
「ーーー聞いてた金額より多いわね」
「それは利子にございます、其方がなかなか返済してくれなかったものでして」
「偽物ね」
イデアはそう一言で断じると、杖を抜かず魔術で証文を燃やした。
「な、何をする!?」
「本物の証文はこんなに簡単に燃えたりしないわ、小細工を弄してる暇があったら素直に本物の証文を出しなさい」
イデアの凍えるような視線を浴びさせられた小太りの男は二の句が告げなくなり、諦めて本物の証文を持ってきた。
(やはりイデアがいると交渉事は速いですね)
グラール伯爵家を訪れた時のことを思い出しながらアルレルトは改めてイデアの頭の良さと回転の速さに感心した。
アルレルトがそんなことを思ってる間にもイデアが金貨二十枚を支払ったことで《妖精の宿り木亭》の借金は完済した。
「強引な取り立ては止めた方がいいわよ、痛い目に遭うかもしれないからね」
イデアが小太りの男にきちんと釘を刺したのを見て、アルレルトたちは建物を後にした。
「「「「!!?」」」」
建物の外に出た瞬間、突然凄まじい重さに襲われて、全員が膝をつかされた。
「見つけたぞ、《魔術姫》よ」
全く動けない《ゼフィロス》の面々の耳に厳格な男の声が聞こえてきた。
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