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五十五話 カラの今後と魔人の脅威


領主館の襲撃から始まり、魔人(ディアボロス)を討伐したことで終わった一連の騒動から一日が経った日の朝、アルレルトたちの姿は宿屋にあった。


「は、初めまして、ネ、ネロの妹のカラと言います」


アルレルトたちに丁寧に頭を下げて自己紹介したのはネロの妹であるカラだった。


「イデアよ、宜しくね」

『アーネだよ』

「一昨日ぶりですね、カラ」


アルレルトがそう言うとカラは笑みを浮かべた。


「は、はい。あ、あの時はありがとうございました」

「姉の私からも感謝するよ、アルレルト」

「カラはともかくネロに素直に感謝されるのはむず痒いのですが…」

「どうしてだよ!?」


抗議の意味も込めて、言葉で噛み付くネロを軽く流したら物理的な行使に出ようとしたのでカラが慌てて止めた。


「落ち着きなさい、ネロ。この後はギルドに行かないといけないし話し合いを始めましょう」

「そうですね、まずはネロ、冒険に出ることはカラに話しましたか?」

「昨日の夜に助けに行った帰り道に話したよ」


カラは昨日の夜、オリビアの許可をもらってネロの貯金に僅かに金貨を上乗せすることでカラを身請けすることでカラを解放することに成功した。


ネロの言葉にカラは頷いた。


「お、お姉ちゃんから聞きました、こ、この街を出て小人族のネロとして名を上げるって」

「その割には寂しそうじゃないわね?」

「さ、寂しいです、で、でもお姉ちゃんがこの街に収まる人じゃないのは分かってましたから」


カラはネロがいつか自分を救ってくれた時、自分の元を離れていくことを悟っていた。


「カラ、何か勘違いしてない?」

「へ?、お姉ちゃんは私を置いて冒険に行くって、あっ、痛っ!?」


ネロはふざけたことを言うカラの頭を叩いた。


「カラを冒険には連れて行けないから置いていくけど、見捨てたりなんか絶対にしないよ」

「お姉ちゃん…」

「当然ね、私に付いてきてもらうんだから仲間の家族の世話はするわよ」

「ここから本題です、具体的にカラをどう生活させるかの相談です」


アルレルトはやっと議論が始まったのを見て、議題を提示した。


「カラは接客ならできるよ。もちろんお昼の仕事だぞ!」

「念を押されてなくても分かってるわよ、けどこの街に信用できるお店をやっている人がいないのよねー」


頭を悩ますイデアの言葉を聞いたアルレルトは一件の宿屋のことを思い出した。


「イデア、辺境都市グラールの《妖精の宿り木亭》はどうでしょうか?

「《妖精の宿り木亭》?、確かにニコとシネアのことはよく知ってるし良い案だと思うわ」


イデアは《妖精の宿り木亭》のニコとシネアのことをネロとカラに説明した。


「妖精がいて人間の女の子が経営してる宿屋か」

「お、お姉ちゃん!、わ、私は本物の妖精に会ってみたい!」

「私も会ってみたいけど、カラは少しは考えなさいよ!」


妖精と聞いて目をキラキラとさせるカラをネロは叱りつけた。


「まだ修繕中でしょうがグラールに行って交渉してみましょう」

「修繕…?、あぁ、アルが壊したんだっけ?」

「はぁ!?、アルレルト、一体何をしたんだよ!?」

「俺が直接破壊したわけでありません」


アルレルトたちを襲撃した三人の魔術師たちが悪いのである、それに弁償はしたので許して欲しい。


「三人の魔術師と戦ってなんで生きてるんだよ…」

「その三人が俺たちより弱かったということでしょう」


アルレルトの簡潔とも言える言葉にネロは呆れの篭った溜息を吐くのだった。


◆◆◆◆


カラの行先をとりあえず決めたアルレルトたちは予定通り、冒険者ギルドを訪れた。


受付でイデアがオリビアに呼ばれていると話すと、応接室に通された。


「来たか、《双杖》、アルレルト。小人は来ておらんのか」

「ネロは留守番よ、それに知らない面子がいるわね」


応接室にはオリビア、レオン、ギルド長のマイリー、そして初めて見るローブの男と騎士服を来た女がいた。


「《双杖》のイデア様、その素晴らしきお噂はかねがね。私の名は…」

「その口ぶり、レーベンの魔術師ね。それなら会話することは何もないわ」


イデアに冷たくあしらわれて名乗りを妨げられた男は柔らかい表情に亀裂が入ったかのように固まった。


「わ、私はガーランド家の分家筋に当たるトルランド家の…」

「会話することはないと言ったはずよ、其方の騎士様のお名前は?」


イデアは魔術師の男の言葉を冷たく遮って、もう一人の女性に目を向けた。


「コホン、私は王国騎士団で副団長を務めているアイエス・ネッケルと申します」

「宜しくね、アイエスさん。私はイデアよ、こちらの彼はアルレルト」


イデアに紹介されたアルレルトは軽く頭を下げてからイデアと共にソファーに腰掛けた。


完全に無視された魔術師の男が顔を真っ赤にして、立ち上がった。


「なにゆえ《双杖》殿は私を蔑ろにするのだ!、私は魔術都市レーベンの使いとしてここに呼ばれたにも関わらずその態度はいかがなものか!?」

「知らないわよ、私はレーベンの魔術師という生き物が等しく嫌いなのよ。貴方を特別嫌っているわけではないから安心して欲しいわ」


「小娘が図に乗りおって…!!」

「リーグ殿」


イデアの全くフォローになっていない言葉に魔術師の男は激高して、杖を抜こうとしたがマイリーに咎められて渋々腰を下ろした。


「さて、自己紹介は終わったな。お前たちを集めたのは他でもない、一昨日の夜我が屋敷で起きた出来事は知っているな?」

魔人(ディアボロス)に襲撃されたとか、正直なことを言いますとよく生き残りましたね」

「それは我の実力と《双杖》のパーティーのお陰だな」

「イデア殿のパーティーがいなければもっと被害が出ていただろう」


オリビアとレオンの言葉にイデアとアルレルト、主にイデアに視線が集まった。


「討伐できたのは運と仲間のお陰よ、特に私は魔術師だしアルには随分助けられたわ」

「イデアを守るのもオレの役目ですから、それに魔人が本気ではなかったのも大きかったですね」


「魔人が本気ではなかったというのは?」

「魔人の目的が我の騎士たちを手に入れることだったからだ」

「今回襲撃してきた魔人の権能は男を魅了し操るものでどうやら戦力を欲していたのだと我々は推察している」

「精強と呼ばれるグラールの騎士が敵になるなど考えたくありませんね」


アイエスの言葉に応接室にいる全員が首肯した。


「しかしそれほどの力を持つ魔人がいることを知らなかったわけではありませんな?」


リーグと呼ばれた魔術師の言葉に答えたのはオリビアではなく、ギルド長のマイリーだった。


「当然オリビア殿とレオン殿から魔人の潜伏の情報を受け、内密に実力のある冒険者を集めてグラール伯爵家の騎士と合同でちょうど一昨日の夜歓楽街へと攻め入る予定でしたが…」

「逆に襲撃されたのだ、どこから情報が漏れたのかはだいたい察しがつくがな」


オリビアの皮肉めいた言葉にマイリーは「申し訳ない」と頭を下げた。


「責めてはおらん」と適当に返したオリビアとギルド長のやり取りにアルレルトが疑問符を浮かべているとイデアが小声で教えてくれた。


「《妖魔の館》の拠点は娼館だし依頼(クエスト)を受けた冒険者がおそらく娼婦相手に話したのよ」


「なるほど」とアルレルトが納得してる間にも話は進み、オリビアの話が終わりアイエスが話し始めていた。


どうやらオリビアは王国騎士団と魔術都市レーベン、そして冒険者ギルドに魔人の脅威にする為の協力を求めたようだ。


「我々王国騎士団はご存知の通り、王国民を魔獣の脅威から守護する役目を陛下から賜っております。王国の重要都市を治める領主が魔人(ディアボロス)に襲撃されたという事実はあまりに重い、即刻王都へ帰還し事態を報告させていただきます」

「副団長、魔人の動きが国内で活発化してるのは良くない兆候だ。俺も王都へ戻り国内の調査を手伝いたい」

「認めましょう」


アイエスが了承するとレオンの険しい表情が少し和らいだ。


「魔術都市レーベンは確約できないがなるべく多くの魔術師を派遣できるように上に話を通そう」

「冒険者ギルドは今まで通り魔人(ディアボロス)討伐の為に王国に協力します、上も私と同様の判断をするでしょう」


リーグとマイリーが了承の旨を出すと、オリビアの一言で会議は解散になった。


アイエスはオリビアとレオンと共に退出し、リーグはイデアとアルレルトを睨みつけながら退出した。


「イデア、アルレルト」


イデアとアルレルトも退出しようとするとマイリーに呼び止められた。


「何かしら?」

「パーティー名をまだ登録していなかっただろう、今ここで考えてくれると助かる」


冒険者ギルドの規定では三人以上の正式なパーティーを組む場合はパーティー名を登録する必要があるのだという。


「パーティー名ね……《イデアと仲間たち》というのはどうかしら?」

「俺はなんでもいいですがネロがキレそうなのでダメですね」


ネロが不満気に喚き散らす光景が脳裏にすぐ浮かんできた。


『あと普通に安直過ぎてつまらない』

「うぐっ、じゃあアルが考えてよ」

「別に構いませんよ」


イデアにそう答えつつもアルレルトは顎に手を当てて真剣に考えた。


チラリと窓の外を見たアルレルトの中で一つの単語が浮かんできた。


「《ゼフィロス》というのはいかがでしょうか?」

「《ゼフィロス》?、何かの名前?」

「はい、風の大精霊の名であり風という意味もあります。風とは縁が深いので…どうでしょうか?」

「良いんじゃない?、響きもいいしなんだかしっくりくる気がするわ!」

『アル様、僕もいいと思う』


イデアとアーネの賛同を得て、パーティー名が《ゼフィロス》に決まったことにアルレルトは笑みをこぼすのだった。

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