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四十六話 指名手配犯と上級昇格


上下に両断された暗殺者の死体から鮮血が吹き出し、臓物がこぼれ落ちた。


アルレルトは血潮を浴びないように後方に飛び去り、血振りをして黒鬼を鞘に納めた。


「何者か存じ上げませんが見事な技でした、死合えたことを光栄に思います」


物言わぬ死体となった暗殺者にアルレルトは賛辞を送った。


死に絶えた敗者はそこで終わり、だが勝者の道は続く、なればこそ生き残った勝者は敗者を決して汚してならずその全てを讃えよ。


それが武の道を歩んだ者の命を奪った勝者の責務だと師匠は教えてくれた。


「アルー!!」


師匠の教えを思い出していたアルレルトの耳に聞き慣れた少女が名前を呼ぶ声が聞こえた。


振り返るとイデアがこちらへ走ってきていた。


気配で下がっていたことは知っていたが、イデアの後ろには二人の武装した人間がついてきていた。


「アル!、怪我は!?」

「ありません」


イデアの心配の声に無事だと伝え、安心したイデアは上下に両断された暗殺者の死体を見た。


「一撃で横に両断、さすがの腕前ね」

「はい、それで後ろの二人は?」

「あっ、憲兵さん!、そこで息絶えている人がいきなり襲いかかってきたんです」


イデアが連れてきた二人は憲兵と呼ばれる人達で街の治安を守る領主直属の警務隊なのだそうだ。


「経緯は道中でも聞いたが派手にやったな」

「うげぇ、上下両断とか初めて見た。というか先輩、こいつ指名手配犯の《乱鞭》じゃないですか?」

「何?」


先輩と呼ばれた憲兵が後輩の言葉に死体の顔を覗き込んだ。


「確かに手配書で見た似顔絵と似ているな」

「失礼ですが街中で人を斬った俺はどうなるのですか?」


アルレルトは今一番気になっていることを聞いた。


暗殺者は手練でありアルレルトには手加減をする余裕はなかったわけだが、結果的に街中で殺人をしたことに変わりはない。


「あー、事情聴取のために屯所には来てくれ。そこで詳しいことを聞く」

「逮捕はないわよね?、基本的には正当防衛だし相手はどうやら指名手配されてる手練の暗殺者のようだしね?」


憲兵の話を聞いていたイデアは凄みを効かせて、憲兵に詰め寄った。


元々が美人である為、妙な迫力を持つイデアに二人の憲兵はたじろいだ。


「アーネ」

『はい、アル様』

「痛っ!?」


アルレルトの懐に入っていたアーネが飛び出し、イデアの頭を尻尾で叩いた。


「アーネ!、不意打ちなんて卑怯だわ!」

「キュ、キュウ!」

「こんな時だけ動物の振りしない!」


ワーキャーと喧嘩を始めた一人と一匹をアーネを仕向けた張本人は微笑ましい目で見ながら、憲兵たちに向き直った。


「仲間が申し訳ありません、彼女が俺を心配しての言葉ですので何卒お許しください」

「い、いや、俺たちは別に構わん。そ、それよりも仕事をさせてくれと助かるな」


アルレルトたちの掛け合いにやや圧倒されていた憲兵だったが、辛うじてそう言ってアルレルトは素直に従うのだった。


◆◆◆◆


結果的にアルレルトは逮捕されず、宿屋に戻ってきたのは夜明け前だった。


理由は襲ってきた暗殺者が指名手配犯であった為であった、ある意味では幸運だったが憲兵の長と思われる方に街中で殺し合いをするなという厳重注意をいただいた。


夜明けだったが、アルレルトはすぐに寝て二時間ほど眠ってから起床した。


「アル、帰ってくるのが遅かったんだからもう少し寝てても良いのよ?」

「お言葉に甘えたいところですが今日は上級(ハイクラス)昇格がありますので、寝るのは後回しにしました」


キッパリと真面目な顔で言うアルレルトだったが、イデアはアルレルトがワクワクしているのを感じて笑みを浮かべた。


「ふふ、アルもなんだかんだいって子供ね。昨夜襲撃されたばかりとは思えないわ」

「そこは切り替えですよ、襲撃者の目的は分かりませんでしたが俺は泰然と迎え撃つだけです」


戦闘する時とそうではない時を上手く切り替えられるのもアルレルトの強さだと納得したイデアの向かいの席に朝食を食べるべくアルレルトは座るのだった。


◆◆◆◆


朝食を食べた二人は宿屋を出て、ギルドへ上級(ハイクラス)のドッグタグを受け取りに向かった。


上級(ハイクラス)のドッグタグは直接ギルド長がお渡し致します」


昨日も担当してくれた受付嬢にそう言われて、ギルド長の執務室に案内された。


「失礼します。ギルド長、例の彼をお連れしました」

「うん、ありがとう。やぁ、君がアルレルト君かな?」


執務室で事務作業をしていた眼鏡を掛けた妙齢の女性が声をかけてきたので、アルレルトは名乗った。


「お初にお目に掛かります、俺の名前はアルレルト…」

「アル、固すぎるわ、たかが一支部のギルド長に畏まりすぎよ」

「全く《双杖》の口の悪さは相変わらずだね、私はバーバラの冒険者ギルド支部の長をしてる"マイリー"だ。まぁ、座りな」


ギルド長、マイリーさんに促されてアルレルトはギルド長と向かい合う形でソファーに座った。


今回はアルレルトが主役だと分かっているイデアはソファーに座らず、アルレルトの近くに立った。


ちなみにマイペースなアーネはアルレルトの肩から降りてソファーの上で丸まっていた。


「さてと早速本題に入るけど……観察されたことに気付くとはやるじゃないか」

「ありがとうございます、一瞬でしたが視線の圧が強かったので気付きました」


アルレルトは部屋に入った時にマイリーに観察されたことに気付いていた。


そしてそれは観察したマイリーにも分かっていた。


「それでアルレルトの実力は分かったかしら、どうせ実績に乏しいから上級(ハイクラス)に相応しいかどうか手っ取り早く目利きしたんでしょ?」

「その通りだよ《双杖》、そして正直な感想を言えばアルレルト君は未知数だね。歳はいくつだい?」

「数え年でおそらく十八だと思います」

「十八でその気構えと腕前か、成熟したらどんな存在になるか、末恐ろしいよ」


冷やかすように言いながらマイリーは金色のドッグタグをアルレルトの前に置いた。


「これが上級(ハイクラス)のドッグタグだ、受け取ってくれ」

「!!、それでは俺は合格ということですか?」

「ああ、君は今日から上級(ハイクラス)冒険者の仲間入りだ。到達速度で言えば《双杖》と同じ歴代最速タイ記録じゃないかな?」


マイリーの茶化すような声が聞こえた気がしたが、ほとんど聞こえなかったアルレルトは喜びのあまりソファーから立ち上がってイデアの方へ振り向いた。


「やりました!、イデアに追いつきましたよ、これで一歩前進しましたね」

「ええ、おめでとう、アル。私も嬉しいわ」


アルが上級(ハイクラス)になることは分かっていたが、いざ昇格すると嬉しいものでイデアは自然と笑顔になった。


『おめでとう、アル様』

「ありがとう、アーネ」


アーネは飛び上がりながら褒めてくれたので、アルレルトは丁寧に受け止めてお礼の言葉を伝えた。


「喜び合うのは外でやってくれ、仕事の邪魔だ」


憮然とした表情のギルド長に追い出される形で、アルレルトたちは執務室を退室した。


「ネロは…来ていませんね」

「待ちましょう、時間はあるしね」


アルレルトとイデアが頷きあっていると、受付嬢がやってきた。


「お二人宛にネロ様から言伝を預かりました」

「ネロから言伝?」

「はい、『用事が出来てしばらくギルドに来れないから、私のことは忘れて別の探索役(シーフ)を探してくれ』、だそうです」


言伝を告げた受付嬢は去っていったが、アルレルトとイデアは突然の別れに困惑した。


「一体どういうことですか?、ネロにはもう会えないということ……イデア…?」


アルレルトが俯いてからイデアを顔を見ると、見たこともないような恐ろしい憤怒の表情をしていた。


思わずアルレルトは恐る恐る話しかけてしまった。


「一方的に別れるなんて許せないわ。アル、今すぐネロに会いに行くわよ」

「そ、それは構いませんが顔が怖いですよ?」

「えっ?、そんな怖い顔になってた?」


自覚がないのかイデアは自分の顔を撫でて、不思議そうな顔をしていた。


「はい、俺は絶対にイデアは怒らせません」

「ちょっと!?、一体どんな顔をしてたのか、教えて!?」


アルレルトは絶対にイデアを怒らせないと誓い、イデアは自分が一体どんな顔をしていたのか、アルレルトに詰め寄るのだった。

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