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三十二話 範囲魔術と虫の群れ


ネロと共に十二階層の入口を偵察し、魔獣がいないことを確認したのでネロに皆を呼びに戻ってもらった。


黒鬼をいつでも抜けるように警戒していたアルレルトだったが、すぐにイデアたちが現れた。


「よし、陣形はそのままよ。まずは十二階層を踏破するわよ」

「一歩ずつ確実にですね」


アルレルトの言葉にイデアは頷き、パーティーは十二階層を踏破するべく動き出した。


十二階層も十一階層と風景や出てくる魔獣などは特に変わらなかった。


あえて違いをあげるなら(トラップ)の数が増えたことだろう、十一階層よりも明らかにネロの出番が多い。


しかしそれでも特に苦戦をすることなく無事十二階層を踏破し、十三階層に降りることが出来た。



このまま順調に進んで欲しいと思った矢先、ネロが止まった。


「ネロ?」

「リーダー、問題発生よ。別れ道が三本ある」

「その言い方、ハズレがあるのね?」

「うん、三本のうち一本がハズレ。ハズレを引くと迷って迷路を出れなくなる可能性があるよ」

「見分ける方法はあるのよね?」


迷宮(ダンジョン)が出来て長い時が経ち、その間に多くの冒険者が迷宮(ダンジョン)を攻略してきたのだから見分ける方法があるとイデアの中で確信があった。


「あるよ、(トラップ)がある道が正解の道だよ」

(トラップ)がある方が正解とは迷宮を創った人は意地が悪いですね」

「意地が悪いんじゃなくて賢いのさ、人間の心理をよく理解してるよ」


迷宮の製作者を褒めたネロにアルレルトはそういう捉え方もあるか、と納得した。


いつも通り(トラップ)を解除するネロを守るアルレルトの耳に何かの音が聞こえた。


「羽音!?、ネロ、解除は中断です!、魔獣が来ます!」

「うわぁ!?」


ネロの襟首を掴んで後退するアルレルトが肩越しに振り向くと無数の蜂の魔獣、貫通蜂(スティングビー)が見えた。


アルレルトがたとえ黒鬼を抜いて、戦っても絶対に数匹に抜かれて後衛のイデアたちが攻撃されてしまう。


こういう場合の対処法をアルレルトとイデアは決めていた。


「イデア!、薙ぎ払ってください!」

「任せて!、"閃光雷滅(フラッシュザンダー)"!」


二本の杖から放たれたのは眩く迸る無数の稲妻(いなずま)、前にアルレルトが食らったシンシアという魔術師が放った電撃魔術とは比べ物にならなかった。


稲妻は一瞬で貫通蜂(スティングビー)を呑み込み、絶命させた。


残ったのは焦げた貫通蜂スティングビーの死骸だけである。


「恐ろしいほどの威力ですね」

「安心して仲間に向けて撃ったりしないわよ」

「普段から大分魔力を抑えてる?」


アーネの指摘にイデアは一瞬迷ったような顔をしてから頷いた。


「…ええ、その通りよ。加減なしで相手に撃つと死んじゃうからね」

「魔獣相手には全力ということですね」

「当然よ、加減する理由はないもの」

「ふふ、魔術を撃った後のイデアはなんだか満足そうな顔をしてますね」

「えっ!?、そんな顔してた?」

「はい、イデアは魔術が好きなんだと如実に教えてくれました」


からかいが含まれていることは分かってはいたが、それでもイデアはアルレルトの言葉に頬を赤らめた。


「どうでもいいけど早く話して欲しいんだけど?」

「おっと、これは失礼を」


ずっとアルレルトによって襟首を掴まれていたネロが抗議すると、アルレルトは手を離した。


アルレルトに引き続き抗議する視線を向けつつも魔獣が排除されているのを確認したネロは(トラップ)の解除に戻った。


「アル、アーネ、貫通蜂(スティングビー)の羽を回収して。それなりの値段で売れるから」

「かしこまりました、アーネ」

「うん」


イデアの指示でネロが(トラップ)解除をしている間、アルレルトとアーネの二人は貫通蜂スティングビーの羽を切り取って回収した。


アルレルトは興味は薄いのでよく知らないが何らかの素材として使われる為、お金になるのだ。


「アル様、全部回収した」

「ありがとうございます」


全部で四十枚程の羽を回収したアルレルトは荷物として持ってきた紐で纏めて縛り、ヴィヴィアンが背負う大きな荷物鞄に入れた。


「グルルゥ!」

「荷物持ち、とても助かっていますよ。ありがとう、ヴィヴィアン」


ヴィヴィアンの不機嫌そうな息が前髪を撫でたので、アルレルトは素直に感謝の気持ちを述べた。


「イデア、ヴィヴィアンが不機嫌なので予定よりも荷物持ちの交代は早い方が良いかもしれません」

「ヴィヴィアンちゃんが不機嫌?、あぁ、アルレルトの従魔だけど首輪がないからか」


イデアは一瞬首を傾げたが、従魔の首輪を破壊したというアルレルトの話を思い出して納得した。


従魔ならば本来首輪によって様々な方面から制御することが出来るので従魔が不満を抱くことはないのだが、ヴィヴィアンには首輪はないのでヴィヴィアンの意思を尊重しなければいけない。


「それなら今日の目標の階層まで行けたらアーネと交代ね。ヴィヴィアンちゃんは頭が良さそうだから言えば伝わるかしら?」

「はい、俺が伝えてきます」


ヴィヴィアンの機嫌を取るなどの出来事を挟みながらも、ネロの(トラップ)解除が終わったので再び一行は攻略を再開した。


◆◆◆◆


十三階層を無事突破し、十四階層を攻略する最中先頭を歩くネロが足を止めた。


魔獣の気配がしないのに立ち止まったネロにアルレルトは疑問に思い、遅れて気付いた。


「イデア、血の匂いがします」

「アルレルトの言う通り、この先から血の匂いがするよ」


アルレルトとネロは後衛のリーダーに指示を仰いだ。


「後退する選択肢はないわ、何が起きてもいいように最大限警戒して進むしかないわ」

「分かりました、ネロは俺の後ろに、アーネ、行きましょう」

「うん」


アルレルトはアーネを伴って、ゆっくり前に進んだ。


ネロを下がらせているので時折黒鬼で床を叩いて、(トラップ)の有無の確認も忘れない。


幸いにも(トラップ)はなく、数分ほど進んだところで何かが見えた。


「「「ギュイイーー!!」」」

「"神風流 薙風(なぎかぜ)"!」


何かに群がっていた魔虫(インクス)が襲いかかってきたので、アルレルトは薙ぎ払いで斬り捨てた。


貫通蜂(スティングビー)!」


アーネは襲ってきた貫通蜂スティングビーを殴り殺した。


「「「「ギュイイーー!!」」」」

魔虫(インクス)貫通蜂スティングビーの大群!」


イデアは前衛として戦うアルレルトとアーネの力を冷静に分析し、範囲魔術より援護の小規模魔術を選んだ。


「二人を下がらせてさっきみたいに凄い魔術を撃てば良いじゃないの!?」

「ダメよ!、二人が下がり切る前に魔獣に群がられたら範囲魔術に二人を巻き込むことになるわ!」

「その前に二人がやられたら私達も魔獣の餌になるよ!?」

「ネロ、二人を信じなさい!」


ネロはイデアの叱咤に目を見開いた。


援護の魔術の数々は的確にアルレルトとアーネの隙間を撃ち、魔獣がこちらへ来るのを防いでいた。


二本の杖を持つアルテレス派の魔術師の手数の多さが味方していた。


ネロはイデアの魔術に助けられながらも奮戦するアルレルトとアーネの二人を見た。


人獣のアーネの凄まじい機動力と拳の威力は当然としてもやはりアルレルトの動きは異常だった。


(人間とは思えないほど()()、魔獣の目で持ってしてもアルレルトの動きを追えてない)


剣術の腕もさることながらアルレルトの強さの根底にあるのは圧倒的速さだ。


歩法や身体操作だけでは説明できない速さがアルレルトの中にある気がした。


そして十分ほど経つ頃には全ての魔獣を殲滅した。


「ね?、言ったでしょ?」

「ーーー」


得げに言うイデアに対してネロは黙るしか無かった。


「イデア」


アルレルトに呼ばれたイデアはヴィヴィアンやネロと共にアルレルトの傍によるとその光景に眉をひそめた。


そこにあったのは魔獣に食い散らかされた冒険者の死体、全部でおそらく六人。


血の匂いの原因は彼らだった。


「あ、ああ」

「この人はまだ息がありますが…」

「出血が酷すぎるわ、ここで殺してあげるのがせめてもの情けよ」


杖を抜いたイデアをアルレルトが制した。


「イデア、ここは俺がやります」


黒鬼を抜いたアルレルトは虫の息の男の首に狙いを定めた。


「苦しませはしません、一瞬で終わります」

「ーーー」


アルレルトは男が感謝の言葉を呟いた気がした。


首を一瞬で振り抜かれた黒鬼によって綺麗に切断された、既に多量に出血していたのもあって吹き出てくる血の量は少なかった。


「魔術で燃やすわ、さっきみたいに魔獣が群がって大群になったら大変よ」


イデアの炎の魔術が六人の遺体を速やかに焼却した。


「リーダー、一つ気になることがある」

「何かしら?」

「死んだ冒険者の遺体は確かに魔獣に食い散らかされていたけど()()()()()

「何ですって?」


イデアはネロのまさかの発言に瞠目した。


「リーダーたちは例外にしても冒険者ならあれだけの魔獣の大群が来たら迷わず撤退するよ、おそらく彼らは別の魔獣に襲われて動けなくなったところを魔虫(インクス)貫通蜂スティングビーの大群に襲われたんだよ」

「つまり彼らは別の魔獣に殺戮された後に貫通蜂スティングビーたちに襲われた?」

「多分そうだと思うよ」

「魔獣に殺されさらに別の魔獣に死肉を喰らわれるとは憐れな」


アルレルトは死んだ冒険者たちに手を合わせて供養の祈りを捧げた。


「ネロの推察が本当なら六人の冒険者を殺した魔獣がいることになるわね」


順調だと思われていた迷路攻略に罅が入った音がどこからか聞こえた気がした。


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