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三十話 金獅子と探索役


「《金獅子》レオン・ヴォルス・グラール」


突然現れた豪胆な雰囲気を持つ金髪の青年、その正体の名を隣のイデアがポツリと呟いた。


「《金獅子》だ」

「王国の英雄がどうして冒険者ギルドに?」

「というか喧嘩に混ざりたいとか言ってなかったか?」


周囲の冒険者の注目が集まる中、動いたのはアルレルトだった。


「何方かは存じ上げませんが問題は解決していますので介入される必要はありません」

「お前、面白いこと言うな、俺はこの目ではっきりとお前の後ろの奴が剣を抜こうとしたのを見た。お前は俺の目が節穴だと言うのか?」


金髪の青年が睨んだ瞬間、アルレルトに押し潰すような威圧が襲った。


常人であれば泡を吹いて倒れるであろうほどの威圧だ、そんな威圧に晒されてもアルレルトの表情は変わらなかった。


「そのように見えたのなら貴方の目は節穴だったのでしょう」


イデアも含め周囲の冒険者たちはアルレルトの返答に凍りついた。


アルレルトの返答に一瞬キョトンした顔になった金髪の青年だったが、すぐに意味を理解して破顔した。


「はははははは、この俺にそんな口を聞く奴は初めて見たぞ!、気に入った!、名を名乗れ剣士!」

「《双杖》の仲間、アルレルトです」

「アルレルト、良い名だ!、俺はレオン・ヴォルス・グラール、今日から我らは友だ!!」


ズンズンと前にやって来たレオンが大声でそう言った。


大声に驚いて落ちそうになるアーネを回収しつつ突然の友達宣言にアルレルトは困惑した。


「いきなり友と言われましても…」

「俺の友になるのは不満か?」

「いえ、そういう訳では。ただ突然友と言われても困惑しているのが正直な気持ちです」

「むう、確かに俺とアルレルトは出会ったばかりだからな、無理もない。だが俺がアルレルトを気に入ったということは覚えておけ、また近いうちに会おうではないか」

「はい、機会があればまたお会いしましょう」


アルレルトの返事に満足そうに頷いたレオンはそのまま伴を連れてギルドの奥へ去っていった。


金髪の青年レオンが突然現れて喧嘩に混ざりたいと言ったと思ったら、友達宣言をされて困惑したがとりあえず嵐は去った。


「《金獅子》に初対面で友達認定されるなんてアルは余程気に入られたのね」

「気に入られた理由が全く分からないのですが…イデアは彼のことを知っているのですか?」


冒険者たちの注目を避ける為に端に移動してからイデアはアルレルトの問いに答えてくれた。


「《金獅子》レオン・ヴォルス・グラール、ここら一帯の地域を治めるグラール伯爵家の次期当主よ」

「グラール伯爵家…なるほど、貴族でしたか」


それならばあれほどの風格をもっていたのも頷けた、マグナス様や先日会った女性の方も独特の風格があった。


貴族というのは強者でなくともそういった風格を有しているものだとアルレルトは理解していた。


「(グラール伯爵家と縁があるね)」

「そうかもしれませんね」

「えっ?、どういう意味よ?」


マグナス様とメリンのことを知るアーネの言葉に同意したアルレルトにイデアは首を傾げた。


「前に説明したこの街に来る時に受けた護衛依頼の貴族というのがグラール伯爵家の方だったのですよ」

「えぇ、王国辺境地域で最も権力を持つ貴族家と知り合いなの?、面倒事の予感しかしないわ」

「それは俺もそうですが貴族の依頼は断れませんよ」

「確かにその通りだわ、過ぎたことを気にしても仕方ないし先のことを考えましょう」


大男に絡まれたり《金獅子》レオン・ヴォルス・グラールの登場で乱されたが、アルレルトたちの本来の目的は探索役(シーフ)探しである。


「私は受付で依頼(クエスト)に志願者が出てるか、見てくるからちょっと待ってて」


イデアを見送ってアルレルトはギルドの壁に背を預けた。


「イデアに対する冒険者の態度は想定以上でした」

「(世界三大秘境の攻略を大真面目に言うから笑われる)」

「その無謀な夢を言い続けるからイデアは進み続けることが出来るのですよ、生半可な人ではありません」

「(僕もバカじゃない、イデアが凄い魔術師なのは分かる。でもこのままだと本当に仲間見つからないかも?)」

「不安を煽るようなことを止めてください、イデアなら探索役(シーフ)を見つけられ…」


探索役(シーフ)をお探しですか?、お兄さん」

「!!」


突然割って入ってきた声に驚き、周囲を見回すが誰もいない。


「…下だよ、お兄さん」

「!、子供?……いえ、小人族(こびとぞく)の方ですか?」


アルレルトの前に現れたのは外套を身を包みマフラーを着ける小柄な冒険者だった、一瞬子供かと思ったが子供の冒険者がいるわけないので残った可能性を聞いてみた。


「その通り、私は探索役(シーフ)のネロ」

「俺はアルレルトと申します、こちらはアーネです。先程の言葉の意図は?」

「聞いたままです、探索役(シーフ)をお探しなのでは?」

「…盗み聞きしたのですか?」

「いやいや、たまたま聞こえただけだよ」


軽く笑顔を見せた小人族の冒険者ネロに疑るような視線を向けるアルレルトだったがすぐに止めた、どうせ確認する手段はないからだ。


「そうですか、話を戻すとネロさんはイデアのパーティーに入りたいと?」

「ご名答、私はこれでも迷宮(ダンジョン)の深層まで潜ったことのある冒険者なんだよ」

「その言葉が嘘ではない証拠はあるのですか?」

「疑う気持ちは分かるけど私は探索役(シーフ)、戦闘には参加しないから守ってくれれば深層にだって行けるよ」

「戦わない?、それだけ探索役(シーフ)の腕が優れているということですか?」


アルレルトの問いにネロは頷くだけだった。


「アル、残念ながら依頼(クエスト)に申し込んだ人は…その人は誰?」

「イデア、俺たちのパーティーに探索役(シーフ)として参加したいそうです」

「本当!?」


失意の様相でやって来たイデアにネロのことを伝えると、一瞬で復活してネロの前まで走ってきた。


「ネロさん、こちらがリーダーのイデア。そしてイデア、彼女がネロさんです」

「よろしくね、ネロ、私はイデアよ。パーティーに入ってくれるなんて感激よ、実は私の目的は迷宮(ダンジョン)だけじゃなくてその先の大迷宮(ラビリンス)…」


余計なことを口走ろうとしたイデアの口をアルレルトは慌てて塞いだ。


「ふごぉ!?」

大迷宮(ラビリンス)のことを言ったら折角の探索役(シーフ)が逃げてしまうかもしれませんよ」


アルレルトに小声で囁かれたイデアはハッとして、アルレルトが離れると咳をして誤魔化した。


「気にしないで欲しいわ、これはそのアルとのスキンシップみたいなものよ!」

「随分と愉快なスキンシップもあるんだね」


ネロの指摘にイデアは一瞬ひるんだがその事には一切触れなかった。


「私は当面の目標は中層の階層主巨毒蛇(バシュヌ)の討伐なんだけど"密林迷路(ジャングルメイズ)"の(トラップ)は問題なく解除出来るのかしら?」

「出来るよ、この街での探索役(シーフ)歴は長いからね」

「なら安心ね、是非パーティーに入って欲しいわ!」

「私としては願ったり叶ったりだけどお兄さんは不満があるみたいだけど?」


ネロの指摘によってイデアが潤んだ目で見てきた。


「不満はありません、リーダー(イデア)の意見に従います」

「(アル様、大丈夫?、この小人族なんか怪しいよ?)」


アルレルトはアーネの言葉に答えず、頭を撫でるだけに留めた。


(ネロさんが怪しいのはイデアも分かっている筈、でも怪しい彼女ぐらいしか仲間に入ってくれないのも事実です。ここは不意を打たれないように注意しなければいけませんね)


念願の探索役(シーフ)が仲間に入ってくれたことは嬉しかったが、悩みの種が増えたことにアルレルトは気を揉むのだった。



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