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二十八話 真面目な話と中層

イデアと再会した翌日、アルレルトは宿屋の酒場でイデアと朝食を食べていた。


「イデア、どうして顔を合わせてくれないのですか?」

「昨日の自分の所業を猛烈に反省してるところだからよ」


正面のアルレルトに目を合わせないように斜め九十度の方向を向くイデアの頬はほんのり赤くなっていた。


「膝枕、やっぱり恥ずかしかったですか?」

「その通りよ、アルは恥ずかしくなかったの?」


逆に問われたアルレルトは一瞬首を傾げて、笑みを浮かべながら答えた。


「確かに少し恥ずかしかったです」

「そこは否定して欲しかったわ」


照れるように笑うアルレルトにイデアはもはや背中を向けてしまった。


朝から甘酸っぱい雰囲気を醸し出す二人に酒場の男衆は殺気を出していた、主にアルレルトに対してだが。


絶世の美少女であるイデアを赤面させているアルレルトが羨ましいのだ、何故なら彼らはイデアが宿屋に来た初日に彼女に絡んで魔術でぶっ飛ばされているからである。



そんな殺気も振り向くと消えるので、特に気にせずに朝食を食べ終わたアルレルトは話題を転換した。


「膝枕の話は置いておいて、今後の話をしませんか?」

「そ、そうね、アルが来てくれたとはいえ目的の探索役(シーフ)治癒術師(ヒーラー)は見つかってないわけだし…」


真面目な話になるとイデアもアルレルトと目を合わせられた。


「俺は上級(ハイクラス)昇級依頼(クエスト)として迷宮(ダンジョン)のフロアボスの討伐依頼を受けたので協力して欲しいです」

「フロアボスの討伐?、中層のフロアボスの巨毒蛇(バシュム)ね。もちろん協力するわ」


アルレルトが取り出した依頼書の内容を確認したイデアは即座に快諾してくれた。


「ありがとうございます、イデアは迷宮(ダンジョン)には入ったのですか?」

単独(ソロ)で入ったけど浅層までが限界だったわ、中層から先は(トラップ)が多くてリスクが高いから入らなかったわ」

「懸命な判断だと思います、俺たちを加えたらどこまで行けそうですか?」


アルレルトが自分とアーネとヴィヴィアンを戦力に入れた場合を求めてきたのでイデアはその聡明な頭脳でもって素早く計算した。


「アーネちゃんとヴィヴィアンちゃんの実力にもよるけど浅層は問題なく突破できると思うわ、アルの前衛の実力は突出してるから私が後方から援護すれば迷宮(ダンジョン)の魔物は敵じゃないわ」


イデアの聡明さを承知しているアルレルトはイデアの判断を信用して、頷いた。


「イデアがそう言うのならばその通りなのでしょうがアーネとヴィヴィアンの実力を確かめるという意味でも一度迷宮(ダンジョン)に入るというのはどうでしょうか?」

「それは私から提案しようと思ってたことだけど、その前にヴィヴィアンちゃんはともかく、アーネちゃんは一緒に戦ってくれるの?」


イデアはアルレルトの肩の上に乗るアーネに視線を向けた。


イデアの視線に気付いたアーネは肩から降りると、イデアの前に進んだ。


意図を汲んだイデアは杖を抜いてアーネに向けた。


「(アル様の意思に従う、戦えと言うなら戦う)」

「戦う意思があるならありがたいわ、ローデス派の魔術師だから肉弾戦が得意?」

「(正解、硬い敵以外だったら全部殴り潰す)」


杖を会してアーネの言葉を受け取ったイデアは頷いて、杖を腰のホルダーに戻した。


「ありがとうございます、アーネ」

「(感謝されることじゃない、むしろ当然のこと)」


会話の内容は聞こえなかったがアーネが戦うと言ってくれたことだけは分かったアルレルトが感謝すると、アーネは当たり前だと言って肩の上に戻った。


「それじゃあ外にいるヴィヴィアンちゃんも連れて迷宮(ダンジョン)に向かいましょう」

「はい」


イデアの提案に頷いて、酒場を後にするのだった。


◆◆◆◆


迷宮(ダンジョン)と聞いてアルレルトが想像したのは薄暗い洞窟のような光景だったが現実は少し違った。


迷宮(ダンジョン)とはもっと暗いところだと思っていましたが意外と明るいのですね」

迷宮(ダンジョン)の魔力に惹かれて生える光苔(ライトモース)のお陰ね」


アルレルトの呟きに後ろを歩くイデアが答えてくれた。


迷宮(ダンジョン)の魔力?、迷宮(ダンジョン)とは魔術でできたものなのですか?」

迷宮ダンジョンの成り立ちについては諸説あるけど魔術で造られたものではないわ、魔術でこれほどのものを建造するのには途方もない魔力が必要で現実的ではないわ」


「なるほど、イデアは博識ですね」


「ありがとう、迷宮ダンジョンのことはまた話してあげるわ」


「はい、今は目の前のことに集中ですね」


アルレルトとアーネが前に出ると、通路の先から数十匹の魔獣が現れた。


犬人(コボルト)よ!」


イデアの言葉の通り、現れたのは犬の顔を持った人型の魔獣、犬人(コボルト)だ。


「"神風流 斬風(きりかぜ)”」

「フンっ!」


瞬時に前に出たアルレルトの刃が犬人(コボルト)を袈裟に斬り、アーネの拳が顔面を粉砕した。


「アーネ、後ろは気にせず前には出過ぎないでください」

「分かった!」


獣の俊敏さを活かした素早い動きで犬人(コボルト)を翻弄し、殴り倒していくアーネの強さは大したものでアルレルトの援護も特に必要なく三十秒ほどで殲滅した。


「相手が犬人(コボルト)とはいえやるわね」

「当然です」

「どうしてアルが自慢げなのよ」


アルレルトにジト目を向けつつ、イデアは計画を修正することにした。


「強力な前衛が二人いるなら中層に行ってみましょう、この階層から下に十層降りた階層よ」

「分かりました、隊列もこのままですね」

「ええ、ヴィヴィアンちゃんは変わらず中衛よ。魔獣だけに気を取られないでね、(トラップ)があることも忘れないこと」


イデアの忠告を耳に入れ、アルレルトとアーネは共に歩き出した。



人獣であるアーネはもちろんのこと凄まじい身体能力を持つアルレルトと亜竜のヴィヴィアンに乗ったイデアの走る速度はとても早く、すれ違う冒険者たちを驚かせて、魔獣を蹴散らしながらものの一時間ほどで中層の入口の階層"第十一階層”に辿り着いた。


「…アル様」

「はい。イデア、この先は…」

「見ての通り、中層"密林迷路(ジャングルメイズ)”よ。魔獣だけではなく迷路そのものが冒険者を殺しにくる、そしてこの迷路は巨毒蛇(バシュム)がいる二十階層まで通じているわ」


目の前に広がるのは緑の木々で構成される複雑奇怪な迷路(メイズ)だった。


遠目で見ても無数の魔獣が跋扈しているのが見えるがこの中層の恐ろしさはそこでは無いらしい。


「迷路のそこら中に(トラップ)が仕掛けてあるの、冒険者を妨害し嬲り時には即死させる(トラップ)がね」

「イデアが探索役(シーカー)を求める理由ですか」

「そうよ、この迷路を攻略できないようじゃあ大迷宮(ラビリンス)攻略なんて夢のまた夢よ」

「今日は偵察だけにして一度撤退しましょう」

「僕もそう思う、アル様の意見に賛成」

「グルルルゥ」


アーネとヴィヴィアンもアルレルトの意見に賛成した、この光景を見て何の準備もなしに行くのは無謀だと悟ってくれたようだ。


「もちろんそのつもりよ、元々今日は行けたとしても偵察だけのつもりだったから」

「流石はこのパーティーのリーダーですね」

「え?、私がパーティーのリーダーなの?」


ヴィヴィアンから降りていたイデアはアルレルトの褒め言葉に首を傾げた。


「何を今更、イデア以外に適任がいるのですか?」

「確かに戦略的には私が務めた方がいいけどアルはリーダー、やりたいかと思ったわ」

「いいえ、俺は前衛としてイデアを守る方が向いていますよ。リーダーはイデアです」

「そこまで言うならリーダーを努めさせてもらうはこのパーティー、えっとパーティー名も後で考えなくちゃね」


とりあえず議論を終えると、再びアルレルトとアーネを先頭に一行は来た道を戻るのだった。

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