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雲の上から

「おかえりなさい。地上は楽しかったですか?」

 雲の上では天気を司る天使様が帰ってきた雪の子たちを笑顔で出迎えていました。雪の子たちは楽しかったと口々に答え、美しい雪の衣装を脱ぎます。すると彼らは雨粒になりピチョンピチョンと雲の上を跳ね回りました。

 しかし最後に帰ってきた子だけは様子が違いました。時間切れギリギリまで地上に残っているので雪の衣装も溶け、寂しさを堪えるように俯いています。この子はいつも誰よりも早く地上に降り、誰よりも遅く帰ってきました。楽しむために地上に降りている他の子たちとは違い、この子だけはある目的を持って地上に降りていました。

「おかえりなさい、レイン。いつも通り次に降るのは6月の雨でいいですか?」

 天使様の問いに雨粒は黙っていました。天使様は雨粒が言いたいことがあるということを理解し雨粒の返事を待ちました。


「俺……人間になりたい」

 雨粒は言いました。雨粒が人間になるなど簡単なことではないでしょう。雨粒はどんな試練も受け入れる覚悟でした。しかし天使様は雨粒の言葉を待っていたかのように微笑みました。

「なりますか? 人間」

 あまりにさらりと言うので雨粒は拍子抜けして目をパチクリとさせました。

「でもそんな簡単になれないだろ?」

「ええ、簡単なことではないですよ。精霊である雨粒が人間になるには条件があります。一つ、人間と交流したことがあること、二つ、人間に名をつけられること、三つ、人間になりたいという強い意志があること、そして最後にもう一つ……」

「もう一つ?」

「ええ、それだけは内緒です。しかしあなたは全て満たしていますよ」

 先ほどまで暗かった雨粒の瞳がキラキラと輝きだしました。

「じゃあ……」

 天使様は頷きます。

「でもどうやって人間になるんだ?」

 すると天使様は地上を指差しました。

「受け入れ先の準備はもう整っていますよ」

 その指の先にはお腹がふっくらとした女性の姿がありました。女性のそばには小さな男の子がお腹を撫でています。その様子を食い入るように見ていた雨粒は雲の上から身を乗り出しました。

「俺、本当に人間になれるんだ」

「ええ、ただし人間になれば雨粒の記憶はなくなります。それでも行きますか?」

 天使様が聞くと雨粒は大きく頷きました。

「行く。あいつのそばにずっといられるならかまわない」

 その瞬間、雨粒は光になり女性のお腹へと吸い込まれていきました。それを見ていた他の雨粒たちが光を追って楽しそうに雲から滑り落ちていきます。

「いってらっしゃい、レイン」

 天使様は雲の上に残っているたくさんの雨粒たちとともに彼を見送りました。


 ポコッ

 地上ではお腹を撫でていた男の子ははっとして手を止めました。

「ママ! 今お腹が動いたよ」

 男の子と女性が顔を見合わせ笑顔を浮かべます。

「ええ、赤ちゃんが初めて蹴ったわ。大雨に驚いたのかしら」

 窓の外では雨がザーザーと音を立てて降り出していました。


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