17.デート
土曜日の朝、玲依ちゃんをマンションの駐車場で待っていると、とびきり綺麗なお姉さんが出てきた。はい。私の彼女です。
「侑、お待たせ」
「玲依ちゃん、今日も可愛い!! 荷物持つよ」
「ふふ、ありがと。侑もかっこいいよ」
はぁ、大人の余裕、好き……!
「今日はどこに連れて行ってくれるの?」
「着いてからのお楽しみー!」
助手席に座る玲依ちゃんを眺めたい欲求を振り払って運転に集中する。
高速をおりて少し走ると、目的地の看板が目に入るようになった。玲依ちゃん、喜んでくれたらいいけど。
「とうちゃーく!!」
「ここ!? 来たいって言ったの覚えててくれたの?」
「うん」
ご飯に行った時にたまたまパンフレットが置いてあって、動物と触れ合いたい、と目を輝かせていたから、絶対来たいと思っていた。せっかく車があるんだし。
「チケット買って早速入ろ!」
「はい、チケット」
「買っておいてくれたの!? いくらだった??」
「忘れちゃった。行こ!」
「え、ちょっと……!!」
玲依ちゃんの手を引いて中に入れば、私に金額を教えて貰えなくて膨れていた玲依ちゃんはぱあっと笑顔になった。
「うわぁ、広っ……!!」
「ペンギンとか、アルパカとか色んな動物に餌やりも出来るんだって」
「やりたい!! あ、おっきいわんちゃんいるー!」
わんちゃん……え、なにそれ可愛くない? 玲依ちゃんは犬と触れ合えるコーナーへ走っていった。無邪気な玲依ちゃん、可愛い……
「侑、写真撮ってないでおいでよ」
「うん。もう少し撮ったらね」
到着してそんなに時間が経っていないのに、もふもふな動物に囲まれて笑顔の玲依ちゃんを沢山撮影出来て大満足。
「いい写真撮れた?」
「バッチリ!」
「見てもいい?」
「もちろん」
「えぇ……」
覗き込んできた玲依ちゃんから呆れたような視線が送られた。なんで?
「わんちゃんは?」
「わんちゃん? なんでわんちゃん??」
「可愛い可愛い言ってるから、てっきりわんちゃんの事だと思ってた」
そんな訳ないじゃん。玲依ちゃんしか撮ってないよ。犬だってもちろん写ってるけど、メインは玲依ちゃん。
「玲依ちゃんの事に決まってるでしょ。はしゃぐ玲依ちゃんが最高に可愛い」
「……そう」
ふい、と顔を逸らした玲依ちゃんが赤くなっていて、抱きしめたくなったけれど我慢した。可愛いが溢れていて、今日はいい1日になりそう。
たくさんの動物と触れ合って、餌やりをして、ショーを見て、と遊び倒した。飽きちゃうようなら近くにある温泉に行ってもいいかな、と思っていたけど玲依ちゃんはずっとテンションが高かったし、あっちもこっちも、と子供のようにはしゃいでいたから時間が過ぎるのがあっという間だった。
帰り道、助手席に座る玲依ちゃんは眠気と戦っているみたい。
「玲依ちゃん、寝てていいよ?」
「んぅ、起きてる……」
1日遊んで疲れたのか、眠そうに目をこすって、頑張って起きていようとしてくれている姿が可愛すぎてキュンとする。そんなに頑張らなくても寝ていいのに。
助手席って眠くなるし、寝ちゃうのは安心してるってことだって聞いたことがあるような?
少しすると、寝息が聞こえてきて、ちら、と横を見ると可愛らしい顔で眠っていた。
沢山はしゃいでいたし、疲れたんだろうな。本当は一泊で、と思っていたけれど、明日の午前中自宅で仕事をすると言っていたから日帰りにした。
元々は資料作成の予定だったらしいけれど、今日出勤しているメンバーからトラブルの報告が入って、リモートで打ち合わせに参加することが急遽決まったらしい。電話で指示を出す玲依ちゃん、かっこよかったな……
仕事モードの玲依ちゃんをもっと見たいなぁ。同じ部署なら良かったのに。いや、仕事にならないかも?
まだ一緒にいたいし、静かにしてるから居させてもらえないかな……
渋滞することも無く順調に進んで、玲依ちゃんのマンションに着いてしまった。起きたら離れないといけないから名残惜しくてしばらく寝顔を眺めていた。
「んー、ん? あれ!?」
「おはよ」
「おはよ……ごめん、結局寝ちゃってた」
最悪、と項垂れているけど、可愛かったし気にしなくていいのに。
「寝顔可愛かったよ」
「嘘だ~」
「ほんと。もっと寝ててくれてよかったのに」
「もしかして結構前に着いてた?」
「着いたばっかりだよー」
「ほんとかなぁ……」
棒読みの私を疑うように見てくるけど、寝顔をずっと見てた、なんて嫌がられそうじゃん?
「玲依ちゃん、明日って何時からお仕事するの??」
「9時くらいからのつもりだけど、どうして?」
「あのさ……静かにしてるから居ちゃダメ?」
反応が怖くて玲依ちゃんを見られない。仕事の邪魔だよね……
「いいけど、暇じゃない?」
「嘘!? いいの!?」
「え、何その反応??」
「ダメだって言われると思ってたから」
仕事モードの玲依ちゃんを見れる嬉しさにニヤニヤが止まらない。
「やっぱりだめ」
「えぇっ!? なんで!?」
「ニヤニヤしすぎ」
「え、ごめん!」
「良く考えたら集中出来なそう」
玲依ちゃんは仕事なんだし、気が散るか。逆の立場だったら絶対落ち着かないだろうし。
「それもそっか。分かった。午後からは会える?」
「あ、うん」
「仕事終わったら連絡して? もし早く終わるようなら一緒にお昼食べよ?」
「うん」
わがまま言って嫌われたくないし、これで合ってるよね?
名残惜しいけど、玲依ちゃんを見送ったら帰ろう。
「今日はありがとう。ちゃんとお風呂入ってから寝るんだよ?」
「……うん」
「オートロック通るまで見てるから。また明日ね。おやすみ」
「おやすみ……」
車を降りて助手席のドアを開けて、玲依ちゃんが帰るのを見送る。この瞬間は何時も寂しい。
玲依ちゃんが振り向いて、手を振ってマンションに入っていった。あー、帰っちゃった。
9時前に帰るから、泊まらせてってお願いすればよかったな、って後悔。玲依ちゃんは部屋に着いたかな、と見上げても当然見えるはずがない。私ってこんなに女々しかったっけ……
「はー、さむ……帰ろ「侑」」
車に乗り込もうとドアに手をかければ、名前を呼ばれた。
「玲依ちゃん?」
振り向けば、帰ったはずの玲依ちゃんが戻ってきていた。
「あれ、なにか忘れ物?」
「うん。忘れ物」
「見てみるから待ってね……っ!?」
ドアを開けようとすればグッと手を引かれて、振り返れば玲依ちゃんが抱きついて見上げてくる。え、可愛すぎるんですけど!?
「帰っちゃうの?」
「え? あ、うん。玲依ちゃん明日仕事だし……嫌われたくないし……」
あ……動揺しすぎて余計なことまで口走った……
「侑、可愛い」
「いやいや、可愛いのは玲依ちゃん。さっきのは忘れて」
「やだ」
あー、もう……
「もっと一緒に居たい」
「うん。私も」
「9時前には帰るから、泊まらせて?」
「私も泊まって欲しいって言いに来た」
それで戻ってきてくれたとか嬉しすぎる。車を置いてこなきゃだけど、離したくないな……
「侑、一緒について行ってもいい?」
「来てくれるの? もちろん!!」
玲依ちゃん、エスパー??
「ふふ、侑、わんちゃんみたい」
「え、そう?? 初めて言われた」
私が犬ならちぎれんばかりにしっぽを振っていると思う。玲依ちゃんと居られるなら、犬だっていいや。
さて、車を置きに行きますかねー