なんて一日
汗ばんだ身体、なんとなく息苦しい気がして、現実に引き戻された。
枕元で明るいままの携帯電話の画面が天井を見上げている。覗き込んで時間を確認すると15:46。
今から有意義な一日にするには遅すぎるし、何もかもを諦めるには早い気もする。でもまあ、こんな日に充実を取り戻した試しはない。
ベッドの脇の小さなチェストの上には、コンビニで買った安いカベルネ・ソーヴィニヨンの空き瓶と、ほんの少し口を付けただけのワイングラス。いつも最後の一杯を飲み切れずに眠ってしまうのは私の悪い癖だ。それを何度繰り返しても彼は怒らない。それが有り難くも心地悪くもある。
たぶん反省はしている。自分の事なのにたぶんって言うのも変な話だけど、確かにその時は反省をして、今日は飲み切ってから寝ようと心に決めるのに、気が付けばまた同じことを繰り返す自分の「反省」に自信が無くなるのは当然とも言える。
飲み過ぎて痛いなって思っていた頭が、今は恐らく寝過ぎの所為で痛い。心臓が脈打つリズムに合わせてズキズキと鋭く私を責める。
寝過ぎによる片頭痛は、脳内の血管が広がることが症状の原因だから、血管を収縮させるカフェインを摂ると痛みが軽減するんだって、昔一つ上の先輩が得意げな顔して言っていたのを思い出した。本当の事かどうかは知らないけど、少なくとも私はそれを疑った事がないから、寝過ぎで頭が痛い時には決まってブラックコーヒーを淹れる。
だけど今日は起き上がってコーヒーを淹れるのも面倒くさい。
本当はやらなければならない事ややってしまったほうが良い事が山ほどある。最早どこから手を付けたら良いのかわからない。なんてことを言いながらも、本当はそんなのどこからだって構わない事は知っている。手を付けてしまえばトントン拍子に事が進むのを解っていながら最初の一歩が踏み出せない。
そのタスクから目を背けたいが為だけに、スマートフォンに触れる。迷惑メールを削除、公式LINEの通知を既読にする、一通りの動作を終えた後、なんとなくSNSを開く。
近頃は世間が鬱々としている。口を開けば誰かの非難、罵倒、揚げ足取り。誰かを否定しなければ自分の存在を保てない奴等が溢れ返る。そんな奴等にこれ見よがしに正義の剣を振りかざすヒーロー気取り。誰の否定もしない代わりにひたすら不安に堕ちていく人たち。そんな姿ばかりが目に映ってしまう私も結局同じ穴の狢。
そう自覚する自分が「前向きな事しか言ってはいけない」なんて暗黙のルールを、自分の中に作り出して勝手に息苦しい思いをしてる。馬鹿みたいだ。
暗い話題を目にするのも精神削られるし、かと言って楽しそうに遊んでいる仲間を見ても羨ましい。憧れの人たちの眩しさを直視する気力もなければ、彼らに喜ばれるような言葉を口に出す余裕もない。
そんな時は、この世界のどこにも居場所がないな、なんてしょうもない事を考えてしまう。そんな自分から目を背けたくて、携帯ゲームを始めてみる。その生産性の無さに救われる瞬間がある。その間は全てを忘れられるけど、ふと我に返ると、いつのまにか真っ暗になってしまった部屋の中で、とてつもない後悔が襲ってきて、その生産性の無さに嫌悪を感じる。
その後悔から目を背けたくてまたゲームを始めた。