少女が宝石になって加工される話
これは遠い昔のお話。
まだ世界が切り離されず、境目があいまいだった頃、ある国にデーモンが現れた。
そのデーモンは暴虐の限りを尽くし、多くの村を滅ぼし、数えきれないほどの命を奪っていた。
そんな中、ある村の勇気ある少女は、親友の少年を守るためにそのデーモンへと立ち向かい、そして何もなすことなく死んだ。
息絶えた少女の胸にはぽっかりとした穴が空き、少女の胸を穿ったデーモンの手には心臓が握られていた。
そうして少女はあえなく絶命し、身体は力なく地に落ち、魂は輪廻の輪へと戻る。
――そのはずだった。
しかし、この世の理から外れたデーモンに殺されたからか、それともこのデーモンが特別なのか。
本来天に戻るはずの魂は、デーモンの手にある心臓に引き寄せられ、あろうことかそれを核に結晶化する。
そして淡い桃色の光を放つ宝石と化した魂を見て、デーモンは満足そうにうなずくと、その場に異界へと通じるゲートを開き、立ち去った。
そして、その少女の犠牲を最後にそのデーモンは現れなくなった。
今でもその国では、少女を慰霊する祭が行われており、なぜか腐ることのない少女の肉体は聖遺物としてその国の神殿に飾られているという。
――それから、異界へと持ち帰られた少女の魂の話をしよう。
今もむかしも、デーモンは魂を求める生き物だ。
その理由については諸説あるが、このデーモンについて言えば、自らが作り上げる芸術品。
その素材となる質の良い魂を求めてのことだった。
今回の狩りもまた、そういった質の良い魂を求めてのことだったが、最後の最後に手に入れた少女の魂。
それは格別に質の良いものだった。
幼さゆえの純情と無垢さ。
親友の為なら命をも投げ出せる純真さと、それを実行に移せる行動力。
そういった物をこそデーモン達は評価し、それ故にこの魂から作られる芸術品は価値あるものとなるのだから。
故に、この少女の魂もまた素材となる運命にあった。
少女の魂が封じ込められた宝石を片手に、作業台へと向かうと、デーモンは手に持ったそれをゴリゴリと削り上げ、ハート型へと削り上げていく。
そのたびに封じ込められた少女の魂は悲鳴とも、何とも取れない声を上げ、
長い年月に耐えられる様に変質させられていく。
しばらくして成型が終わり、少女の精神性が定命の者とは違うものになった後、デーモンは近くにあった鈍い白銀色の金属から、鎖と茨をモチーフにした細工を作り上げると、それと宝石とを組み合わせていく。
そして宝石が金属細工の一部として組み込まれると、、くすんでいた金属細工は生気を取り戻したかのように輝きを増し、淡い桃色の光が鼓動を始める。
これこそがデーモンのみが作れる芸術。
――生命の持つ美しさを芸術の美へと変換する魔技である。
こうして、少女と彼女が組み込まれた金属細工は、長い時を芸術品として過ごす事になり、幾多のデーモン、好事家の手を転々としたのちに少年の子孫、国をも巻き込んで一波乱を巻き起こすのだが、それはまた別のお話。