第8話 演習
「あー、寝不足だ」
ダレンの教室での第一声。俺は見てたぞ。
「昨日、しっかり寝てたじゃん」
「おいおい。ケイタわかるだろ? 眠れたようで眠れなかったんだよ」
いや、わからん。
「俺はな、今日が憂鬱で憂鬱で……」
なんで魔法学校なんかに来てしまったんだよ。
「まだ入学したばっかりだろ? こんなとこでへばってたら、上級生になる前に死んじまうぞ」
ダレンが憂鬱になってしまう理由。それは今日から演習が始まること。
*
分厚い壁に囲まれた演習室の机に、事前に配られたものと同じ、プラスチックの四角い薄いボードが用意されている。
演習では、このボード上に、チョークで魔法陣を描き、詠唱を行う。
「それでは、今日から演習を始める。連絡していたように、水属性の属性魔法、ウォータを実践する」
レイ先生の声で授業が始まる。
「まずは、私が実践するから、みんなこっちに来てくれ」
一斉に教壇に集まる。すらすらと描かれていく魔法陣。みんな真剣な眼差しで見つめていた。
「これは、水を生み出す魔法。よく見るように」
魔法陣から少量だけど水が噴き出した。水飛沫が飛ぶので、みんな濡れてもいい服装で来るよう言われていた。準備のいい生徒は、室内にレインコートを着て準備している。
レイ先生は、描き終わった魔法陣に集中する。
「清き水よ、飛沫と共に、現れよ」
『おお!』
みんな声を合わせた。
魔法自体は初級なので、見たことも、やったこともあると思うが、大人が使う魔法を目にすると、やっぱり魔法使いぽくで憧れる。
「無詠唱ができる人は無詠唱で。魔法の強弱と、周りの人に気をつけよう。では席に戻って始めるように」
みんなそれぞれ演習をこなす。
「なあ、なあ、ケイタ。できたぜ。俺、できた」
ダレンが嬉しそうにこっちに来た。俺の周りには、話したことのないクラスメイトしかいなかったので、居心地が悪かったところだった。
「よかったじゃん」
「まあ、詠唱有りだけどな。ケイタはもちろん無詠唱?」
「いいや、詠唱有りだよ」
詠唱有りってことにしておいた。
*
一通り演習を終えると、レイ先生が生徒を教壇の方に呼んだ。
「このクラスはみんな優秀なようだ。授業時間も少し余ったみたいだし、誰が、一番強く発動できるか挑戦してみよう。自信のあるやつはいるか?」
こんなときは、うちのクラスはかなりシャイだ。
「レイ先生、こいつが一番だと思います!」
ダレンが、俺を指さす。
何言ってんだてめえは!!
「お、おおダレンわかった。……ケイタ、できるか?」
レイ先生は気まずそうに苦笑いする。
ダレン、先生に苦笑いをさせるな!
「あ、はい」
まあいいか。いつも魔法の強弱の扱いに集中していたので、上限がどれだけかがわからないし。こんな機会めったにない。
教壇の前で、床にボードを置き魔法陣を描く。
「清き水よ、飛沫と共に、現れよ」
3mほどある天井に水がつきあがる。
水飛沫がクラスメイト全員に飛んでしまった。
あっ、これやばいやつだ。
『えー!!』
一斉に声が上がった。
しまった。やり過ぎた。こんなことになるとは……。
「すみません……」
レイ先生に顔を向けて謝った。クラスメイトの顔が怖くて見れなかった。
「ケイタ。……確か、君の適性は、強化魔法だったはず」
「……そうです。すみません」
レイ先生はあごを右手で隠し、じっと俺を見ている。
「魔法陣の正確さ、干渉能力。すべてが卒業レベルだ。」
『えー!!』
俺も、クラスメイトと一緒に声を出してしまった。
*
授業が終わった後、レイ先生に残るように言われた。
「ケイタ。魔法模擬場についてきてくれ」
魔法模擬場の中央まで、連れられてきた。
初日に見に来た以来だな。中に入ってみると、まるでテレビで見ていたサッカースタジアムみたいだ。
「上限を気にせずに、難易度の高めの魔法を見せてくれないか?」
「いいんですか……」
「近くに何もないし、心配することはないよ」
レイ先生から、演習のボードいくつかを渡され、水属性以外の3つの属性魔法を詠唱した。
今、使うことのできる上級魔法、あとは中級魔法をいくつか。
今まで修業を行ってきて身に染みたもの。だけど、自分の限界を引き出すのは初めてだった。
一通り終わったところで、レイ先生から止めの合図があった。
「無陣無詠唱で扱えるのか?」
「はい、一応できます。けど、今は魔法陣と詠唱があれば、より安定します」
「そこは訓練次第だな」
またレイ先生はあごを右手で隠した。
考え事をするときの癖らしい。
「……君はもう、熟練の属性魔法使いにも匹敵する。それぞれを適性として生まれた人にだ」
「ということは……」
「ケイタ、君は属性魔法と強化魔法の二つの適性を持っているということ……だな」
俺は、どうやら適性者と同じくらい、属性魔法を扱えるらしい。その日は、初期の水属性魔法の演習のはずだったのだが、全属性魔法を試すことになった。
どうぞ楽しんでいってください!