第6話 初日
みんなおのおの過ごしている。
クラスメイトと話していたり。ひとり魔法書を読んでいたり。
「どんな先生かな…。めっちゃ美人だったらいいなあ。そう思うだろ?」
男子の誰かが、遠くで話している。
そりゃあ、美人のほうがいいに決まってる。
教室の戸が開いた。書類を持っているのは、背の高い、黒髪、短髪。30代くらいの男の人だった。
「みんな席に着け」
生徒が一斉に席に着く。女子がざわざわしている。
「担当のレイ・ダイクだ。私が、このクラスを受け持つことになった。よろしく」
『よろしくお願いします』
「今日から魔法を扱う授業が始まる。みんな、この学校生活を楽しもう」
『はい!』
「初めに……みんなはなぜ魔法を学びたいか、教えてくれるか?」
教室中がざわざわとする。回答をしようとする生徒がいない。
「ケイタ・ブラン。君はどう思う?」
しまった。視線を外していたがあたってしまった。
「えっと……魔法が好きだから……です」
教室中に笑いが起こった。自分で言ってみたが、笑われると恥ずかしい。
「そうだな。私も魔法が好きだ。魔法を学ぶ理由は人の数だけある。でも、この魔法学校が魔法を学ばせている理由はなにか。その一つは、キメラ退治の優秀な魔法使いを育成することだ」
レイ先生は続けて話す。
「キメラがどこから来たのかや何者なのか、正確にはわかっていない。ティラスの国王、そしてこの国の人々を守るためには、魔法で対抗することが必要なんだ。そのためにぜひみんなには魔法を使い、人々の力になってほしいと思う」
レイ先生は静かな話し方だけど、熱がこもっていた。
そのあと、自己紹介をして学校の事務的な説明が続いた。
*
なんでもない入学初日。といくはずだったのに、厄介なやつに目をつけられてしまったのが悩みの種だ。
聞くところによると彼女ソフィは、ティラスの王女様だというじゃないか。初めて会った時に機嫌を損ねてしまったらしく、俺にやたらと絡んでくる。変な人とは関わりたくなかったんだけど、それなりには対応している。
「ねえ。あなたって、魔法は使えるの?」
「なんでそんなこと聞くのさ。使えるよ……。一応」
「ふうん。そう。魔法を使えるようには見えなかったから……。一応……ね」
こんな感じ。ソフィ・アスティン、嫌味なやつだ。
まだ、授業も始まっていないのに。魔法の授業になったらぎゃふんと言わせてやる。ぎゃふんと言え!
*
「ケイタ。昨日のやつもう一回教えてくれ!」
こいつは、寮部屋の相棒、ダレン・クランだ。坊主頭で小柄な、いいやつ。
「昨日の宿題の魔法陣か? あんなに教えたのに」
紙に魔法陣を描き、魔法を発動すると、発動が正しくされているか記録される仕組みの宿題。簡単なテスト問題だ。
正確な描きと、描き始めてからの時間、適切に発動させているかをみる。
ダレンは、そもそも覚えようとしないからダメなんだよ。
「なあ、教科書見ながらやっても、全然発動しないんだよ」
ダレンお前は、授業中の話と、昨日の俺の話を聞いていたか。
「教科書の例から少し変えてるって言ってただろ。ここの節を変えるんだよ」
俺は、ダレンに答えを教えてやった。
「さっすが! 持つべきは友だな」
調子がいいやつめ。
ダレンは、属性魔法使いの両親に生まれたので、風の属性の魔法が使える。小さな頃から、見て覚えたらしく、座学がかなり苦手なようだ。
この学校の授業は、座学と演習の2つ。
俺たちが入学して、2日目からすぐに座学が始まった。
今のところは、魔法を扱う心構えについてと、魔法の初期知識の授業。あとはティラスの歴史について。
専門の先生の持ち回りで、いまだに担任のレイ先生にはホームルームで会うくらいだ。
入学した生徒は、家が魔法使いの一家だったり、そうじゃなかったりするので、一様に受けるようカリキュラムされているが、魔法の初期知識や心構えについては、アウストから教わったものばかりだった。
でも、ティラスの歴史については、初めて聞くことばかりだった。
大昔からティラスにはキメラがいたこと、そして最近数が増えてきたことについては知っていた。
でも、ティラスが鎖国的国家であることや、その理由については初耳だった。
鎖国の理由はもっともで、キメラをこの国の外に出さないようにしている、ということだった。噂だと、キメラがいるのはティラスだけだというじゃないか。
そんな感じで1週間、知っていることと知らないことをクラスメイトと一緒に教わった。