第5話 黒いマント
ライラ校長に会ってから、俺は強化魔法の修業にかなり力が入った。
鉄の強度強化は十八番となった。魔法書でいうところの中級はほぼ使えるようになったが、上級に関してはぼちぼちといったところだろうか。なんせ魔法の種類が多いので、まだ見たことがないものも多いんだろう。
書店で買ったライラ校長の本は、魔法書ではなく、魔法を使うための心構えや、鍛錬の重要性について書いたものだった。とてもポジティブなもので、修業するうえでとても参考になった。ベストセラーとなっているその本のシリーズを買いに行くのが、修業の合間の息抜きになっていった。
*
エルヴァ魔法学校への入学の日。
魔法学校の学生は全員が寮生活をすることになる。だから長い休み以外はこの家にも帰れなくなるのだ。
「ケイタよ、頑張ってこい」
「うん。頑張ってくるよ。アウストこそ元気で」
「元気が取り柄じゃからな!」
「はは! でも、転送魔法はほどほどに!」
「それはできんな。わしの生きがいじゃ」
アウストは本当のおじいちゃんのようになった。初めは、キメラ退治をするためにこの世界に転送されてきたけど、あの日、キメラに会ったことを告げると、すごく心配してくれた。俺は心配されたことに少し驚いたが、とてもうれしくなった。
そう。アウストは、俺が魔法を使える機会を与えてくれた恩人だ。
「ケイタ。これを持っていけ!」
「これは……!」
黒のマント。魔法使いなら黒いマント。俺は、何度もアウストに熱弁していた。
サプライズで用意していてくれたのか! 魔法学校は制服だけど、勝負服として絶対着よう。
マントを鞄の中にしまい、玄関を出る。
「じゃあ、行ってきます」
*
歩いて魔法学校へ向かう。新しい制服を着た同い年ぐらいの子が同じ道を歩いている。
みんな頭良さそうに見えるなあ。中学入学の時もそうだった。周りが頭よく見えたり、スポーツがすごくうまそうに見えたり。なんでなんだろ、不思議だ。
「あなた、どこ見て歩いてるのよ。危ないわ。どきなさい!」
「え?」
振り返ると、魔法学校の制服の女の子。
肩まである白髪、透き通るような白い肌に、青い綺麗な目。
綺麗な人だなあ。でも、かなり口調がきつい気が……。
「あなた聞いてるの? 邪魔なのよ、聞こえなかった?」
「え。あ、すいません」
よそ見していた俺も悪いけど、あの言い方はないんじゃないか、いくらなんでも。
えっ! 歩くの速っ。すんすん行ってる!
この世界にもいろんな人がいるもんだな。変な人とはあまり関わりをもたないようにしよう。
*
「失礼します」
「やあ。ケイタよく来たね」
「ライラ校長、これからよろしくお願いします!」
「元気があってよろしい! ケイタは3組だったね。勉学に励むように」
校長室での挨拶も終わってまだ時間があったので、ざっと魔法学校の中を見てまわることにした。敷地内には広場や、魔法模擬場といわれる競技場のようなものがあった。かなりスケールが大きい学校だ。この町だけじゃない。ティラス内の、魔法使いを夢見る若者が集まる学校。こうでなくちゃ。
俺は観光に来たんじゃないんだぞ、これからここで勉学に勤しむんだ。
気持ちを整えて3組の教室に向かう。早めに来たが、時間はぎりぎりだ。
教室の中へ入る。
もちろん、みんな、今日初めて会う人達だ。初めて会う人……。
「あ! あなた、来る時に会った……邪魔した人」
「……その節は、どうも」
変な人と同じ組になってしまった。
入学早々に厄介ごとに巻き込まれてしまったような気がする。