第1話 魔法とは
俺は念願だった魔法使いになれそうだ。
マナと呼ばれる魔法を操るための力は、人には少なからずあるようだ。
そして俺は熟練の魔法使いと同程度のマナを持っているらしい。通常、マナは鍛錬によって少しずつ大きくなっていく。マナ自体で簡単に魔法使いの優劣は決められないらしく、魔法の種類、適性も関係するそうだ。
俺の場合はそのポテンシャルが高いらしい。
ワクワクが止まらなかった。どんな魔法があるのか。俺の適性は何なのか。この世界に来た日、立て続けに質問をした。
でも、魔法の適性については簡単な魔法を習得してからになるので、その日にはわからなかった。
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アウストは本当のおじいちゃんのように接してくれた。この国では、孫ということにしておけと。
そして文字がわからない俺に読み書きを教えてくれた。
俺はこの世界の住人じゃない。そんな事をアウストに言った時は少し動揺していたけど、そんなことは特に問題じゃなかったようだ。アウストは初め、他国から転送したと思っていたようだけど。
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ティラスに来てから1か月程が経ち、アウストの家での生活はだいぶ慣れていった。1か月間も学習すると、大体の事は理解できるようになっていった。教科書が初級の魔法書で、教師が魔法使いとくればすんなりと頭に入っていく。
なにより、早く魔法を使いたい。この一心だった。
たまにアウストに黙って、魔法書通りに魔法陣を描き、節を詠唱するが、一度も魔法を発動させることができなかった。
単にポテンシャルがあってもそううまくはいかないらしい。
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「今日からは、少し魔法を実践してみるかのう」
「よっしゃ!」
「まあ、簡単なやつから徐々にじゃ」
この日を待ち望んでいた。鼓動が速くなっているのがわかる。
「この本の中の火を操る魔法を行うぞ」
「その本は読んだよ。書いていることはわかる」
「本当にわかるか? 理解しているか?」
「うん。でも……。黙って実践しようとしたけどダメだった」
アウストに黙って魔法を使ってみようとした事を言ってみた。
「そうか……。まずは魔法についてからじゃな。魔法とはなんじゃ?」
「えっと……。人の中にあるマナと、自然界に存在しているマナを干渉させて行うもの?」
初級の本には嫌という程書いてある。
「そうじゃ。自分と自然を干渉させる。干渉させるためにあるのが、魔法陣と詠唱じゃ」
「それはわかっているんだけど、一度も成功したことがないんだよ……」
マナはあるのに使えない。なぜなんだろう。
「そこで必要なのは、魔法の三要素じゃ」
「――知識、認識、意思でしょ」
これも本で何度も読んだ。魔法発動にはこの三要素が必要だって。
もったいぶってないで早く教えてくれ。
「知識は申し分ない、魔法陣を描いて試そうとしているからな。今、足りないのは認識と意思じゃよ」
「認識と意思が足りない……」
「そうじゃ。認識とは本質を理解すること。魔法陣を描ける、詠唱を覚えるという知識だけでは魔法は使えない。そしてその認識とは時間をかけて培うものなんじゃ。」
「じゃあ、今日魔法が使えるかわからないってこと?」
長い間修業が必要ってことか。頭の中が空っぽになった気がした。
「そうかもしれない。じゃが、魔法が長い間伝承されてきたのは知識と認識を同時に得る事ができるからじゃよ」
「え?」
「直接体験すること。つまり師の技を見て真似ることじゃ」
アウストは床にすらすらと魔法陣を描いた。俺が描いたものとはまるで違う。全く迷いがない。
「ふう……。よく見ておくのじゃ」
アウストは魔法陣に念を込める。
「火の玉よ、蛍火の如く、眩く照らせ」
ボッっと音を立て、光る魔法陣の上に、火が玉のように燃え上がった。
周りが熱くなる。
「……す、すごい!」
「次は意思。魔法を使うこと、そして強弱をイメージする。自分と自然を干渉させる、つまりイメージを共有するのじゃ」
自然とイメージの共有する。アウストが魔法陣の上に出した火の玉の大きさ、色、温度、体感したものを思い出してみる。
「さあ、やってみるのじゃ」
ゆっくりと確かめながら、床に魔法陣を描く。そして深呼吸。
「火の玉よ、蛍火の如く、眩く照らせ」
明るい。眩しい。
「成功じゃ」
アウストが笑う。
初めての使う魔法。言葉が出なかった。
「簡単な魔法は見て感じるのが一番じゃからのう。後は本で知り、理解し、イメージする。イメージの仕方を身に付ければ、一人で魔法を使えるようになるじゃろう。まずは、いろいろ試してみることじゃな」
「……うん、やってみるよ」
「ある程度使えるようになったら、応用を教えてやるぞ」
魔法の使い方を学ぶことができた。
かなり奥が深くて難しい。けど楽しみしかない。これからどんな魔法を使えるようになっていくのか。
楽しく読んでいただけたらうれしいです
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