第10話 2人のハイカー
継続してクラスメイトの授業の手助けを行っている。教えるのが嫌いではないし、俺自身も、教えることでまた深く考える時間ができるので、結構役に立っていたりする。休み時間、いつものように質問に答えた後、席でゆっくりしていたらダレンが近づいてきた。
「あのさ、ケイタ、なんかいい魔法の勉強法ない?」
「勉強法? 魔法書読んでイメージしながら詠唱するとか。……あっ。」
そういえば、あった。俺だけしか、やっていないであろう勉強法。
「もしかして、ある?」
「ある!」
「どんな? 教えてくれ!」
「俳句で魔法を使う」
「俳句で?」
「そう。俳句で」
アウストに教えてもらった訓練法。頭で考えていることと、何も関係ないことを言葉にするイメージ方法。
無陣無詠唱より難易度が高く、魔法の勉強法にはうってつけだ。
あくまでも、アウストに教えてもらった訓練法なので、俺以外の人にうまくはまるかはどうかはわからないけど、選択肢の一つにでもしてほしいと思っている。でも教えるのは少しだけ恥ずかしい。
*
「あれって、3組のハイカーじゃない?」
違う組の女子生徒が、廊下で歩く俺を見つけてひそひそ話をしている。
「ケイタ、お前のこと噂してるぞ」
「わかってるよ! 俺は、レイ先生に用事があるの! なんで、お前もついてくるのさ」
「いいじゃないの、相棒。そうカリカリしなさんな」
「……」
「女子にちやほやされてうらやましいぞ!」
「お前のせいだろうが!」
訓練法として優秀な俳句は、クラスの中で徐々に浸透していった。
でも、ある日の授業中、ダレンが俳句で授業の返事をしたんだ。それから、クラス中の全員が面白がって雑談だろうが、真剣な話だろうが、テストの回答にまで俳句を使うようになったのだ。
レイ先生は困ってしまって、ついに3組に俳句禁止令を出した。
なんだよ、俳句禁止令って。
でも、禁止令が出たあとも、みんなこそこそ俳句を読んでいる。訓練ではなく。
今じゃ俺は、学校内でプチ有名人になってしまった。
3組で俳句を流行らせた張本人。そして、担任の先生に禁止令を出させた男。ミスター・ハイカー。
「3組のケイタ・ブランです」
「おお、入っていいぞ。どうしたんだ?」
「失礼します。レン先生。……あの、やっぱり俺にはクラスメイトへの手助けは荷が重すぎたようです」
「どうして? 私もすごく助かっているんだ。君以外に、適任はいないだろう」
「でも俳句が禁止令になって……。それでレイ先生にも迷惑を……」
「そうだな。でも私も、俳句はとてもいい訓練法だと思っている。しかし、訓練以外に使うのはな……」
レイ先生が、苦い顔をした。そして、あごを手で隠す。
「そうだ、ケイタ。私が俳句を取り入れた授業を行おう!」
「え!? 先生が?」
「ただし、その授業中と訓練以外に俳句を使うのは禁止だ。まあ、みんなそのうち俳句自体にも飽きるだろう」
*
それから少しして、俺との約束通りレイ先生が俳句を使った授業をしてくれた。その授業中と魔法の訓練以外には俳句を使ってはいけないという条件で。
面白い授業は頭に入りやすい。みんなノリノリで俳句を詠み、魔法の訓練をする。
いつしか、うちの学校の名物授業になった。訓練法として俳句は確立された。
俺とレイ先生の思いとは裏腹に、俳句自体が市民権と獲得したように学校中に浸透した。クラスから離れた俳句は、禁止令が効くはずもない。いつの間にか、うちの禁止令は有って無いようなものになった。
結果的に2人のハイカーが誕生したのだった。
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