美少女デウス・エクス・マキナ -the less said the better-
PCで執筆した都合上、スマートフォンで読む場合は画面を横にしていただいたほうが気持ち可読性があがるかもしれません。
―――――といってもこの商品はなん」―――異能至上主義テロ組織『Skill Link』の一員が日本に潜伏している可能せ」―――今日は全国的に晴れる陽気。新学期のスタートにはうって」
ザッピングをしながらトーストを食み、再び眠りの淵へと落ちて行きそうになる脳に栄養という名の活を入れる。もっと糖分をよこせと傲慢に要求するそれの為にココアを流し込む。
画面の中で毎日同じような事を言うNPCの如き人間に、朝から嫌気を覚えながら三白眼の少女は無意識に呟く。
「何か楽しいことでも起こらないかしら。」
国立季仙大学付属高校異能・魔術特別科。通称特科と呼ばれるこのクラスは、異能魔術省により全国から選りすぐられた『二つ名』持ちの、保有魔力を魔術に変換し行使する魔法魔術師、保有魔力により身体を強化する武闘魔術師、物理法則及び魔術法則を無視した現象を行使できる異能者が在籍している。
この世の全てを下に見ているような三白眼を携えた少女六花仙立華は、特科の教室の窓際に座り、魔法化学Ⅱの解説をBGMにしながらクラスメイトに目を通す。
跫谷 谺子 異能者『神韻緲渺』‐波を司る能力‐
巫凩 藍 魔法魔術師『臥竜鳳雛』
之御 晏子 異能者『異を狩る者』-エナジードレインの能力-
艮院 肆郎 武闘魔術師『天邪鬼子母神』
マキア・A=クロックメーカ 異能者『頃刻の女王』-時間停止の能力-
竜骨車 籾蒔 武闘魔術師『万華咲』
ヶ浜 凪 魔法魔術師『明鏡止水』
火蛾寺野 吾妻 異能者『救済の聖女』-加護を司る能力-
伽羅 ららあ 魔法魔術師『綾羅錦繍』
幾重 柵 異能者『悲憤慷慨せし者よ徹せよその恨み骨髄へ』-脊髄反撃の能力-
柳電治戦 列強 異能者『電脳の戦場を統べる鴛鴦』-数値改竄の能力-
踏鞴場 統児 武闘魔術師『襲鷲する蹴脚』
杏 真希那 魔法魔術師『Code:Unknown』
リヴハート・フルスコア 異能者『終焉の代替主神』-物質変換の能力-
燕子花 沙翁 武闘魔術師『阿』
燕子花 蘇芳 武闘魔術師『吽』
竜章 音々 異能者『轟雷帝』-電気を司る能力-
陸流 くるる 異能者『勝利へと循環する無限連立方程式』-倍々算の能力-
模糊木 朧 魔法魔術師『月卿雲客』
十五夜 鵜鷺 魔法魔術師『光風霽月』
唐獅子崎 伝来 武闘魔術師『拡張子.虎』
眠民 眼 魔法魔術師『明眸皓歯』
雷同 浮雲 魔法魔術師『行雲流水』
務従 聖 武闘魔術師『乱れ翼月下』
実戦においては一騎当千の彼らも、座学相手ではただの高校生に相違なく、立華と同様に授業を聞き流している者も少なくない。
板書が一段落ついたらしく、初々しさが残る新任の教師は教卓に貼ってある簡易の名簿を見ながら問う。
「今日は25日だから、えーっと25番のー、六花仙。ハーバー・ボッシュ法において触媒にされる物質は?」
「四酸化…三コバルト」
答えに満足したようで、授業はつつがなく進んでいく。立華は再び授業を聞き流す姿勢に入りながら空へと目を向ける。
陰り始めた空には、うろこ雲の合間を一羽の烏が飛んでいた。
立ち入り禁止と書かれた扉を開き、立華は屋上へと足を踏み入れる。人と話すことがない彼女にとっては、一人になれる屋上が学校で数少ない落ち着ける場所であった。
柵にもたれかかりながらコンビニで買ったおにぎりを口へ放り込む。一口では昆布まで辿りつけず素っ気ない海苔の味だけが口に広がっていく。
グラウンドで騒々しくバスケに興じる生徒を文字通り見下しながら、その声に柳眉をしかめる。昆布の甘みを求め二口目を食べようとしたとき、騒々しいバスケの音が掻き消えた。
『キィィィーーーン―――――。あー、てすてす、皆さん聞こえてますかー。突然ですがこの学校は占領させてもらいましたー。あー忠告しておくけどー、学校から出ようなんてしないでねー。どうなるか知らないよー。私たち『Skill Link』の要求はただ一つ、魔術師の殲滅でーす。魔術師の皆さん首を長くして待っててくださいねー。私たちが切り落としやすいように。』
キィィンと耳障りな音を残し、放送は途切れた。
一瞬の静寂が解かれ悲鳴が響き渡る。立華は静かに笑みを浮かべ、おにぎりを咀嚼しながら眼下を眺め続ける。
燕子花姉妹は、生徒がどこかへと避難し静まり返った廊下で異形の者と対峙していた。全身に漆黒の毛皮を携えた異形が、前傾姿勢で燕子花姉妹を睨む。燕子花姉妹の前に、空想世界の狼男が圧倒的情報量を持ってこの世に現界していた。
魔力を全身に纏い燕子花姉妹が臨戦態勢をとる。その時にはもう狼男の拳が蘇芳の鳩尾を捉えていた。
「GuRuuaaaaaaaaa!!!」
雄叫びとともに狼男が拳を振り抜き、蘇芳の身体が校舎から弾き出される。沙翁が反撃すべく発勁を叩き込む。だが、その掌は手応えを返さなかった。
「GuuRuRuGaa!」
発勁の姿勢のままの沙翁へと蹴撃が炸裂する。蘇芳と同様に吹き飛ばされながら、沙翁は自分と狼男との力の差を思い知る。
飛ばされた中庭で再度燕子花姉妹は構えなおす。
「蘇芳。これは一人では勝てない。」
「別に問題ないでしょ。だって私たちは二人でひとつなんだから。」
狼男が校舎を蹴り、加速しながら追撃へと迫る。
「GuAaaaaaRa!!!」
蘇芳の足元に鋭い蹴りが肉薄する。直撃の寸前、沙翁の発勁が狼男の脇腹へと突き刺さる。
「Guaa!」
「「破ァッ!」」
刹那の隙を逃さず燕子花姉妹の連撃が開始する。八本の手足による正確無比なガトリング砲の如き連撃は狼男に反撃を許さない。狼男が攻撃へと転じることは金輪際なかった。
雷同浮雲は窮地に瀕していた。戦いを好まない彼は『Skill Link』の一員と鉢合わせた際に、対話による解決を模索した。しかし相手は異能至上主義者。魔術師である彼の言葉など耳に届かないようだった。そして今、彼の目の前には多量の火球が迫っている。
「ごめんなさいぃ。ごめんなさいぃ。ごめんなさいぃ。」
火球を魔法障壁で受け流しながら浮雲は謝り続ける。自分が死の危機に瀕している理由に全く心当たりがない。人生とはなんと理不尽なものだのだろうか。
「なんだぁ?てめぇ。何に謝ってんだよ。赦してほしいなら潔く死んでくれよ。」
『Skill Link』の一員の貴村・V・フレイサーは虚空から無数の火球を出現させながら、浮雲を追い詰めていく。
「死にたくないです。助けてくださいぃ。」
「てめぇホントに魔術師なのかよ。おもしろくねぇな。死ねよ。『焔柩』」
フレイサーが手をかざすと今までの火球とは段違いの、小さな太陽のような熱量を誇る炎球が出現した。炎球はフレイサーの手の動きと連動し浮雲の方に落ちていく。浮雲は必死に謝りながらもその表情に焦りの色は見えない。
「キャスト。西方四重魔法障壁。」
詠唱に応じて浮雲の頭上に青色に輝く魔法障壁が現れ炎球を相殺した。
「ごめんなさいぃ。貴方では僕の魔法障壁は破れません。手を引いてくださいぃ。」
「だったらてめぇの魔力が尽きるまで打ち続ければいいだけの話じゃねえか!『焔柩』!!!」
激烈な炎球と堅牢な障壁の矛盾対決が幕を開けた。
仲良くお昼を食べていたヶ浜凪と竜骨車籾蒔は、誰もいなくなった食堂で魔界の御姫様の如き漆黒のフリルドレスに身を包んだ銀髪の令嬢からの狙撃を受けていた。手にしているのはマスケット銃のはずなのに、途切れることなく連射し続けている光景は、装者の風貌も相まって全てが現実離れした世界を作り出している。
「なんなのかにゃー、あの何もかもが理解できにゃいおひめさまは。」
くせっ毛を掻きながら籾蒔は凪を見る。
「異能者を論理的に理解しようとする行為に意味がないことは、クラスメイトを見てわかっているはずかな。」
「にゃはー、その通りですにゃー。とりあえずこの状況どうしよっか?」
弾丸降り注ぐ中で身を隠しているだけではジリ貧なのは言うまでもない。かといって相手の手の内が分からないのに特攻をかけるのはリスキーだろう。
「こういうときはあれよ『三十六計逃げるに如かず』かな。」
かくして魔術師二人と御姫様による鬼ごっこが始まったのだった。
トイレで放送を聞き、急いで教室へと戻ってきた艮院肆郎は、衝撃の光景を目の当たりにする。無残に崩壊したかつて教室だったスペースの中央には、身長が優に2メートルを超えている筋骨隆々の大男が君臨し、大男の足元には血だらけのクラスメイトたちがうずくまっていた。
肆郎の存在に気付いた大男がその場で拳を構える。次の瞬間、肆郎の視界は暗転した。
各所で開始された『Skill Link』とクラスメイトの戦いを眺める立華の後ろに迫る人影があった。
「誰が屋上に入ってきていいと言ったかしら?」
「入ってはいけないとも、誰も言ってなかったように記憶しているが。」
影が嘯く。
「あら、扉に立ち入り禁止と書かれていたでしょう。」
影は素知らぬ顔で聞き流す。
「この状況は貴女が原因かね?」
「どうしてそう思うのかしら?ねえ、真希那。」
「質問を質問で返すのは感心しないね。」
お互いに腹を探りあう、しかし核心に触れることはない会話が続けられる。この会話から得られるものがないことを、最初から二人とも分かっていたのだろう。真希那はいつの間にか消えていた。
20分以上御姫様から逃げ続ける凪と籾蒔の顔には微かに疲労の色が見え始めていた。銃撃に注意を払い、適宜魔法で防御を行うという行為は、走ることの数倍の体力と精神力を奪っていく。
そのとき突如、背後で激しい雷が轟いた。銃撃が止み、雷により焦土と化した校庭に少女が舞い降りる。
「さんざん友達をいじめやがって、覚悟は出来てるだろうな。」
竜章音々が静かに発する。帯電によって逆立つ髪の毛が彼女の怒りを代弁しているようだった。
「二人とも後は任せとけ。」
「にゃー!音々ちゃん、私たちも一緒に戦うよ!」
籾蒔が身に纏った魔力を研ぎ澄ましながら臨戦態勢に入る。その姿は野生の豹や虎を彷彿とさせるしなやかなものだ。
「止めなさい籾蒔。音々の能力じゃ私たちがいても邪魔になるだけかな。」
「それもそうだにゃー。じゃあ音々ちゃん、あとはよろしく!」
臨戦態勢を解いた籾蒔は、凪すらほったらかして脱兎のごとく退散を始める。
目の前で繰り広げられる緊張感皆無の茶番に、痺れを切らした御姫様エリザベートが銃撃を再開する。だが、その銃弾はすべて音々の身体を避けていく。
「貴方、異能者でしょう?私たちが戦う理由が見当たりませんわ。」
心の底から不思議そうにエリザベートは首を傾げる。その間も銃撃の手は止めないが、悉くの銃弾が音々に恐怖するかのように曲線軌道を描く。
「友達を守るのに理由がいるかい?」
迷いひとつなくそう言った音々は、『轟雷帝』と呟く。刹那、四方数十メートルに視界すら破壊するほどの雷光を放つ神鳴が直撃した。
異能の矛と魔術の盾、先に砕けたのはフレイサーだった。無尽蔵に思えるほどの浮雲の魔力相手に、炎を操るフレイサーの精神力が先に尽きたのだ。
「てめぇ…ナニモンだ…。なぜ顔色一つ変えずにここまでの魔法を行使できる…。」
立つこともままならずに地面に這いつくばりながら、フレイサーは尋ねる。
問いかけに対する回答として、校舎の陰から一人の女生徒が現れる。陸流くるるだ。彼女は憐みの表情とともにフレイサーに告げる。
「私の能力『勝利へと循環する無限連立方程式』は倍々算の能力。つまり、浮雲の魔力は減る度に魔術法則なんて無視して倍々にされていたの。」
最初から貴方に勝ち目なんかなかったってわけ。くるるは続ける。
フレイサーが無尽蔵にも感じていたものは、嘘偽りなく文字通りに無尽蔵だったのだ。無慈悲な種明かしの残響を耳にフレイサーは気を失った。
肆郎は気付くと図書室にいた。意識が途切れていたというわけではない。たしかに一瞬前までは教室にいたのだ。
「大丈夫?とっさに僕が『頃刻の女王』で助けたのだけれど。」
『頃刻の女王』マキア・アレクヴェリ=クロックメーカが保持する、時を止めるという異能のなかでも異端の能力。
「何度経験してもなれないものだな。」
肆郎は混乱する頭を振りながら周りを見渡す。近くの椅子には柳電治戦列強と火蛾寺野吾妻が座っていた。
「他の奴らは?」
「一般生徒と先生は柳電治戦くんと火蛾寺野くんの能力で安全なところに保護したけれど、クラスメイトまでは手が回らなかった。教室にいた人たちの多くはあの大男にやられたよ。」
マキアは血が滲むほどに拳を握っていた。一般生徒たちは柳電治戦の『電脳の戦場を統べる鴛鴦』で次元と大きさを改竄し、小さな紙のようにして保護しているらしい。こちらの能力も全くもって末恐ろしい。
「そうか。あの大男に対する勝算は何かあるのか?」
肆郎はついさっき感じた、心臓を鷲掴まれるような感覚を思い出し身震いする。
「みんなの力を合わせれば可能性はある。でも僕の能力の限界的にもチャンスは一度だけ。失敗した場合はさっきみたいに助けることもできないよ。」
マキアの作戦はこうだ。アタッカーである肆郎に火蛾寺野の能力で強化をかけ、マキアの能力で大男の前に肆郎を転送し一撃で仕留める。なんとも単純明快な作戦だ。
「柳電治戦くんはお留守番だよ。」
重苦しい空気を紛らわせようとしてか、マキアが軽い口調で言う。
「列強の能力であいつを生徒同様紙にできないのか?」
僕の能力はタイムラグがあるから数値を減らしている間に反撃でお陀仏だね。と柳電治戦が笑う。
「マキアの案しか活路はないわけか。」
活路への希望を掴むため、魔力を纏い『救済の聖女』の加護を受ける。これだけで準備は終わりだ。もう一度心臓を鷲掴まれるような感覚を思い出す。身体中から嫌な汗が噴き出し、足は震える。落ち着け。落ち着け。落ち着け。落ち着け。落ち着け。落ち着け。落ち着け。落ち着け。――――――
世界から音と色彩が消えていく感覚へと落ちていく。足の震えもいつの間にか消えていた。
「いいぜ。いつでも連れていってくれ。」
マキアが黙って頷く。
―――――――永劫とも思える虚空の時を抜け、再び大男の前に対峙する。大男の拳が脊髄反射をも超えた速度で動き始める。しかし遅い。肆郎の拳は既に大男に届いている。
時間にして一秒に満たない攻防。勝利の聖女は肆郎に味方した。
各所の死闘が終わり静寂を取り戻した学校に、再び耳障りな音が響き渡る。
『キィィィーーーン―――――。あー、てすてす、皆さん聞こえてますかー。まさか同志が一人残らず敗北するなんてー。びっくりしましたー。まあ、別に魔術師の殲滅くらい私一人でできるんでいいんですけどねー。また地獄で会いましょうあでゅー。』
放送が途切れると同時に放送室のある校舎が爆音とともに崩れ去る。瓦礫の中から気が狂った笑い声が響く。そして、校舎だった場所から放射線状に黒いボールのようなものが飛び、地面へ落ちると同時に煉獄と黒煙が一面を覆う。
「アッハハハハハハアアアァァァーーー、朝のナパームは格別だアアアァァァ!!!」
『Skill Link』の残党であるウォルター・アポカリプスの『阿鼻召喚』-精霊と兵器を隷属させる能力-によって季仙大学付属高校は地獄へと変貌した。
『Skill Link』の一味との戦闘に勝利した特科の生徒たちは教室へと集結していた。大男に倒された生徒は火蛾寺野の『救済の聖女』によって一命を取り留めている。しかし、ウォルターによって地獄へと塗り替えられた学校を目にして、生徒たちの表情は絶望を内包している。
残存戦力は、竜骨車籾蒔、ヶ浜凪、柳電治戦列強、燕子花沙翁、燕子花蘇芳、陸流くるる、雷同浮雲、巫凩藍、十五夜鵜鷺の計9名。艮院やマキアを含む他の者は戦闘不能の状態または行方不明だ。
「にゃー、この状況で『三十六計逃げるに如かず』なんて言ってられないにゃー。」
こうしている間にも何かが爆発し地鳴りが起こる。そう遠くないうちにウォルターが無差別爆撃を止め、こちらに照準を合わせるだろう。
「もしここを狙われたら負傷者に危険が及ぶかな。」
皆それは分かっているのだろう。お互いに顔を見合わせて立ち上がる。そのとき、フレームだけとなった窓の外に天を焦がす雷光が迸った。
ウォルターは古今東西様々な兵器を召喚し破壊の限りを尽くす。すでに爆弾魔の周りは、瓦礫すら残らず粉塵だけが舞うクレーターへと塗り替えられていた。
「石器時代へと戻りィィィなアアアァァァーーー!!!」
ウォルターの頭上に一際大きな爆裂弾が出現する。だが黒球がその真価を発揮することはなかった。彼方から現れた雷撃により消し炭さえ残さず爆風すらも霧消したのだ。
「やってくれるじゃねえかァァァ。」
ウォルターは雷撃が出現したほうに目をむける。人影は見えなかったが代わりに無数の雷矢が飛来していた。
ウォルターが楽しそうに『阿鼻召喚』と叫び、その声に合わせて空間が青色へと染まる。青色の空間へと突入した雷矢が、標的に辿りつくことなく減衰し消滅しすると同時に、ウォルターの背中に氷柱が直撃した。
「がァ、ハァッ!」
肺の空気を無理やり押し出されながらも、体制を立て直し背後を向く。そこには同志が殺り損ねた忌々しい制服姿があった。
全く見分けがつかない二人組が隙を逃さず距離を詰める。虚空からおびただしい銃器を出現させ爆弾魔が向かい撃つ。
「キャスト。東方六重魔法障壁。」
『『『『『GAGAGAGAGAGAGAGGAGAGGAGAGAGAGAG!!!!』』』』』
魔法障壁により鉛玉の大バーゲンを抜けた二つの掌がウォルターを捉える。
「「破っ!!」」
その場から離脱する双子と入れ替わりに、異様な速度で成長する鎌鼬がウォルターを切り刻もうと唸りを上げる。
「しゃら、くせええぇぇ!!!『阿鼻召喚』!!!!!」
ダイナマイトと思しき筒状の爆弾が出現と同時に爆発し鎌鼬を相殺した。
「私の『勝利へと循環する無限連立方程式』で増大させた藍の風雨の太刀をこう易々と破るなんてね。」
呆れたようにくるるが吐く。その視界が不意に影に包まれ、上空から2機の戦闘機が超加速しながら迫りくる。
「月下氷人!!」「東極九重魔法障壁!」
凪と浮雲の叫びとともに、くるるの前に氷壁と魔法障壁が出現し戦闘機が猛烈な爆風とともに爆散した。
「あ"ああァァ?F-16ファイティングファルコンすらぁぁァ防ぎやがるかアアァァァ!!!」
ただでさえ足りてない頭のネジが外れたように笑い始めたウォルターは、ひとしきり笑い続けたのち落ち着きを取り戻し言った。
「もう飽きた。『阿鼻召喚』ツァーリ・ボンバ。」
ツァーリ・ボンバ。半径58キロメートルを死の大地にする、『核爆弾の帝王』の名を冠する史上最大の威力を持つ水爆。そんなものが直上数百メートルに降臨したのだった。
立華は崩壊寸前の校舎の屋上に立ち一部始終を眺める。そして今、目の前では長さ8メートル直径2メートルを誇る黒き死兆星が自由落下を始めていた。
立華は心底退屈したようにそれを眺める。久しぶりに活動をしていた口角の筋肉は、既に定位置に戻っている。
死兆星は阻止すべく発動される魔術と異能に見向きもせず突き進む。そして大地へと着弾する――――
「こんな結末私は認めないわ。退屈な日常に戻りましょう。」
世界が真っ白にオーバーライトされていった――――――――
騒々しいバスケに興じる声を聴きながら、新任教師は特科の名簿を眺める。
1 杏 真希那 『Code:Unknown』
2 幾重 柵 『悲憤慷慨せし者よ徹せよその恨み骨髄へ』-脊髄反撃の能力-
3 艮院 肆郎 『天邪鬼子母神』
4 燕子花 沙翁 『阿』
5 燕子花 蘇芳 『吽』
6 ヶ浜 凪 『明鏡止水』
7 唐獅子崎 伝来 『拡張子.虎』
8 伽羅 ららあ 『綾羅錦繍』
9 跫谷 谺子 『神韻緲渺』‐波を司る能力‐
10 十五夜 鵜鷺 『光風霽月』
11 踏鞴場 統児 『襲鷲する蹴脚』
12 竜章 音々 『轟雷帝』-電気を司る能力-
13 之御 晏子 『異を狩る者』-エナジードレインの能力-
14 火蛾寺野 吾妻 『救済の聖女』-加護を司る能力-
15 マキア・A=クロックメーカ 『頃刻の女王』-時間停止の能力-
16 巫凩 藍 『臥竜鳳雛』
17 眠民 眼 『明眸皓歯』
18 務従 聖 『乱れ翼月下』
19 模糊木 朧 『月卿雲客』
20 雷同 浮雲 『行雲流水』
21 リヴハート・フルスコア 『終焉の代替主神』-物質変換の能力-
22 竜骨車 籾蒔 『万華咲』
23 柳電治戦 列強 『電脳の戦場を統べる鴛鴦』-数値改竄の能力-
24 陸流 くるる 『勝利へと循環する無限連立方程式』-倍々算の能力-
25 六花仙 立華 『成るようになる世界』-発言が現実になる能力-
退屈な非日常は否定され、退屈な日常が続いていく。 ―完―
初めて小説を書いたので拙筆極まりないと思います。ここまで読んでいただけた方に心からの感謝を申し上げます。
さて、内容について書きたいのですが、先にあとがきから読むという方もいらっしゃるのでしょうか。本ではないので少ないと思いますが、以下ネタバレを書く予定ですので、そういった方は先に本文の方を読んでいただければ幸いです。
基本的には立華を書きたいがために作り出した世界です。あまり深いところまでは設定していないので矛盾等あると思います。知りません。異能や魔術の方はかなり詳しく設定してたりするのですが、本文では記述するタイミングがありませんでした。魔術の方の補足として、魔術は西洋魔術・東洋魔術に分かれそれぞれでさらに武装派・魔法派に分かれています。西洋魔術は四元素の思想に、東洋魔術は五行説の思想に基づいています。
二つ名についてですが、これは魔術師に与えられるもので、魔法魔術師は既存の四字熟語の字面から定めています。武装魔術師の方は完全な造語で読み方すら設定していません。死んだ言語を見る感覚を味わってください。
長々と蛇足をお見せしました。最後にもう一度ここまで読んでいただけた方に最大級の謝辞を送らせていただきます。ありがとうございました。