約束
オレンジ色の光が街を照らす中、2人の男女が名残惜しい様子で居た。
男性の方はユウキ、女性の方はサクラ。
「サクラ、明日映画でも観に行かないか?」
「いいよ。じゃあ、また明日ね、ユウキ」
お互いに手を振り合い、彼氏は家、彼女は駅へ向かう。
翌日の朝、ユウキの元に一本の電話がかかってきた。彼は朝っぱらから何だろうと思いながらスマホを手に取る。
電話の発信者はサクラ。
「もしもし」
『もしもし、ユウキ......ごめんなさい。私、あなたと会えない状態になっちゃったの』
「どういうことだよ、それ」
彼女は低く、真面目な声で話した。
『ユウキのためにも、私たち別れよう。こんな状態では外にも出られないし、ユウキに迷惑かけるだけだから』
「そんなこと言うなよ! たとえサクラがどんな姿になっていたとしても、俺はサクラのことが好きだ。だから......」
『ありがとう。そこまで言うのなら、わかった。別れるのはやめよう。変な話してごめん』
その後、サクラは入院している病院と、その部屋番号を教えてくれた。それを聞いたユウキは急いで病院へ向かう。
部屋はすぐに見つけることが出来、ドアを開くと、横になっているサクラが居た。
彼女は眠っているかのように動かない。しかし、薄く目を開けている。いくら声をかけても反応しない。そこに医者が来た。
「すみません、その......彼女は今、どういう状態なのでしょうか?」
「彼女は昨日の夜中運ばれて来たのですが、車に轢かれたようで、来た時にはもう植物状態でしたよ」
サクラの時間は止まったまま、ユウキは日を越していたのだ。
ユウキはサクラの手を握ってみた。そこには小さく、冷えた手があるだけ。
消えてしまった意識は深い海の底にある。もう取り戻せないだろうと思うほど。
しかし、ユウキは彼女が目覚めるまで側にいると決心した。約束、したから。
ユウキが朝の電話に違和感を覚えたのはもっと後のことだった。