リア充
高嶺は僕のことを「ウェイ系リア充」と言った。自分で言うのも何だが、少なくとも僕はいわゆるリア充グループに属してはいると思う。人望があり、発言権が大きく、何よりクラスの中心的な存在。自分がそういう立ち位置にいることはわかっているのだが。
翌朝、僕が教室に入ると、早速いつもの仲間たちに捕まった。
「あっ、ミナトじゃん。おはよー!」
「ふあぁあ、おはよう。今日は早いな。どうしたんだ?」
「おっす、ミナト。俺もこいつも小テストの勉強やってんのよ~。ゆうべ寝落ちしちゃって勉強してねーんだよ」
「おいおい、大丈夫かよ。一限だぞ、テスト」
「気合で何とかなる!」
「一夜漬けだ!」
「いや、夜じゃねーだろ。朝だろ」
「ミナトくんは勉強して来たの? 眠そうだし」
「勉強で寝るのが遅くなった訳じゃないんだけど、まあ、一応やってきた」
「んだよー。真面目かよー」
「ああ、真面目だよ。お前らと違って、朝からバタバタしたくないからな」
「うっわ、つめてーな」
「ねえねえ、ミナトー。ヤマ張ってない? ヤマ」
「ヤマ? ……そうだな、用語集の三十六ページから三十九ページまでかな」
「なるほどなるほど。……って、それ、ただ出題範囲を言ってるだけやないかーい!」
「要は、こんなに喋ってる暇があったら、勉強しとけってことだよ」
「言ったなー。今からガチで勉強するから、話しかけんなよ!」
「…………ヴィットーリオ・エマヌエーレ二世、ヴィットーリオ・エマヌエーレ二世、ヴィットーリオ・エマヌエーレ二世……」
俺も今の友人たちもやっぱり話している内容はしょうもないことばかりだ。高尚さなんて縁遠く、思春期真っ盛りの男女の集まりであるから惚れた腫れたみたいな話もしたり、とにかく重みのない軽いことを言ったりやったりしている。関係性も強固なものとは言えず、ほんの些細なきっかけで瓦解してしまう可能性だってあり得る。かつての僕は今の僕みたいな連中を軽蔑していた。
教室の片隅で本を読んで一人の世界に籠っている、あるクラスメイトに視線を移しながら、僕は思う。あれはかつての僕だった、と。
僕はいわゆる高校デビューというものをするまでは、友だちの少ないオタクだった。コミュ力が低くて周りに人がいないものだから、アニメや漫画、ラノベにハマっていた。二次元のキャラクターたちの魅力と物語を楽しく眺め、あるいは自己投影しながら孤独を紛らわせていた。
とても楽しかった。そして、その後に来る虚しさがどうしようもなく辛かった。必ず終わりの来る楽しみは刹那的で、いくら紛らわせようと孤独が完全に消え去ることはなかったからだ。
そうして中学生活は寂しいまま終わりを告げられ、僕は同じ中学の連中がほとんどいない、少し遠い高校へと進学した。
変わろうと思った。身だしなみにより気を使い、積極的に人に話しかけ、二次元に逃げることをやめた。リア充になろうとまでは思わなかったけれど、それでも人と一緒にいられるような自分でありたかった。
僕の中では大冒険だった自分改革は幸い成功を収め、僕は今の騒がしい連中と友だちになった。かつての自分が蔑みながらも憧れていたリア充に、僕はなった。「オレ」なんて言ったり見栄を張っている部分もあるが、僕は今かつての自分が味わうことのなかった幸せを味わっている。
僕がどうしてリア充を蔑んでいたのかを思い出すとそのほとんどが妬みだったけれど、特に僕が低く見ていたのが個性のなさだ。誰かが何かを発信して、それが都合や聞こえが良ければひたすら同調して、あるいはその逆もまた。自分の意志を貫き通せない個性の弱さを批判的な目で見ていたし、見ようとすら思えない気分の時もあった。今思えば、それはただの人見知りに過ぎないのだけれど。
現実は違う――少なくとも、今の僕の周りにいる友だちはそういう奴らじゃない。むしろ、個性豊かな面々が集まっていると思っている。
その上で。
挨拶はできる。冗談を言いつつも、相手が傷つくか傷つかないかのラインを弁えている。言葉を選ぶ慎重さもある。つまり、当たり前でなければならない当たり前のことができているということ。僕は彼ら彼女らから、それらを学ぶことができた。否定すべきところは否定するし、立てるべきところは立てる。世間一般全てでそれができているとは言えないが、それでも僕は良い友人たちと出会うことができた。
この個性的な面々と。
……ふむ。
ひょっとしたら、こういうことも僕の創作に活きるのかもしれない。高嶺の言っていた『キャラクター』に命を吹き込むことができるようになるかもしれない。
道が拓けた。そんな気がした。




