「ゴミ」
「もう一度、自分の小説の何で面白いと思ってもらえるかを考え直さないといけないな」
「意外と受け身なのね。『自分の小説の売りを考え直す』くらい言い切ってしまえば良いのに」
「はは、そうかもな。ありがとう。高嶺に読んでもらって良かったよ」
「そう。ところで、どうして私に小説の感想を聞こうと思ったの? あなたなら他にも聞く相手はいたでしょうに」
「ああ、それはだな、」と、去年のことを思い出しながら、僕は続ける。「去年、オレも図書委員をやってたんだ。その時に本の紹介を書かされたんだけど、高嶺も確か図書委員だっただろ。高嶺の本の紹介を読んだ時に感心したんだ。これを書いた人は本に誠実に向き合う人なんだな、って。……お前はオレのことを知らなかっただろうが、オレはお前のことを知っていたんだぜ」
「…………」
「自分で書いた小説って不特定多数の人には読んでもらいたいけど、見知った特定の誰かに読んでもらうのは恥ずかしいだろ。けど、それでも感想や意見を聞きたくて、思い浮かんだのが高嶺だったんだ。高嶺にだったら良い感想をもらえるだろうと思って」
「褒めてはないわよ。むしろ、攻撃していたと思うんだけれど」
「攻撃ではないだろ。……確かに、聞いていてダメージは受けたけど、的を射ていたし、おかげで今後の目標も立てられた」
「そ。お役に立てたようで何より。コーヒー代を奢らせてあげても良いわよ」
「ああ、もちろんそのつもりだ。オレの勝手で付き合ってもらったからな」
僕がそう言うと、高嶺は長い睫毛に縁取られた目をパチクリとさせた。意地悪が通用しなかったのが、意外だったのだろうか。
それよりも逸る気持ちが抑えられない。家に帰って、Wordと向き合いたい。僕は冷めてきたコーヒーを一気にあおって、伝票を持って立ち上がる。
「オレはそろそろ行くよ。払っておくから、高嶺はゆっくりしていてくれ。読んでくれてサンキューな」
僕がそう言うと、高嶺はまたコーヒーをそっと口に含みながら、
「どういたしまして。後藤くんって、私の噂に釣られたただのウェイ系リア充という訳ではなかったのね。……あなたは本当の私を知らなかったと思うけれど、私はあなたを知っていたつもりだったのよ、一応ね」
「ははは」
そんなことを言われても、苦笑するしかない。
「それから、私はただあなたを形容する言葉として『ゴミ』と言ったんじゃないわ。……ふふっ。苗字と名前、それぞれの最初の文字を取ってごらんなさい」
「……オレは帰るよ。じゃあな」
気まずいし、彼女が凄惨な笑みを浮かべ始めたので、僕はそそくさと彼女に背を向けてこの場を去ることにした。もちろん会計を済ませてから。
喫茶店の前に駐めた通学用の自転車に跨って、普段とは異なるルートの帰路につく。
ところで、高嶺は最後に何と言ったか。
「苗字と名前、それぞれの最初の文字を取ってごらんなさい」
僕の苗字と名前。後藤と湊人。後藤の「ゴ」と湊人の「ミ」。
………………。
「ゴミじゃねえか!」




