結局、喫茶店へ
一話当たりの分量がまちまちになってしまいがちですが、大目に見てください(汗)
ところ変わって、僕たちは今学校から少し離れた場所にある喫茶店に居た。高嶺の案内で初めて訪れたけれど、落ち着いた良い雰囲気の店だ。図書室の閉まる時間が迫っていたため、僕の小説を読むならばと、ここが選ばれたのである。そう強調された。恐らく、先ほどの「よく知りもしない男と出歩く」云々のことだろう。僕の方にそのつもりはないから関係はないけれど、それ以前に、彼女が本当に僕の小説を読んでくれるとは思わなかった。それも、場所を変えてまで。こんなにありがたいことはない。
「あまりこちらをジロジロと見ないでくれる? 視線が不快で読めるものも読めなくなってしまうわ」
「ああ、悪かった」
僕は慌てて目をそらす。が、それでもつい、横目でチラチラと高嶺の様子を窺ってしまう。湯気の上るブレンドコーヒーを傍に置いて、彼女はA4用紙の束を手に取って、そこに書かれた文章――つまり、僕の書いた小説を読んでくれている。確かに人からジロジロと見られながら読むのは嫌だろうけれど、書いた本人としてはやっぱり読む人の反応が気になってしょうがない。シャレを入れた部分でクスリとでも笑ってもらえるだろうか、意外な展開運びでは驚いたリアクションを取ってもらえるのか、そういった反応をついつい気にしてしまうのは仕方のないことだ。
しかして、高嶺は無反応だった。眉ひとつ動かさない無表情で淡々と紙を捲っていく。そのまま彼女は十分ほど最後まで読み切って、束を傍に置いたかと思うと、コーヒーを一口飲んで少し頬を緩めた。
「で、感想は?」
「コーヒーが美味しいわ」
「そうじゃなくて!」
「……まあ、悪くはなかったわ」
高嶺はそう言った。「悪くはない」と言われて手放しに喜べるほどに、僕は呑気ではない。「良い」とも言われていないからだ。案の定、高嶺は続けた。
「文章は読みやすいし、引っかかるところもなかった。けれど、面白いところもなかった」
「…………」
面白いところもないと、来たか。
「小説は整った文章であることはもちろん大事だけれど、それだけだと読んでいてつまらないの。読者を惹きつけるような魅力がないと、小説の評価以前に読むのをやめたくなってしまうわね」
「えーと、つまり、僕の小説には魅力がないってことなのか」
「ええ。そう言ったつもりなんだけど」
人当たりも悪ければ、小説への当たり方も悪かった。いや、小説が悪いのは僕のせいであるのだが。褒めて欲しかった訳ではないとは言え、あまりに辛口な評価だ。
「じゃあ、魅力ってどうやって出せば良いんだ?」
「さあ? 知らないわ。私は書かないから」
仰る通りで。ただ、彼女は「そうね……」と考え込みながら、
「私が思う小説の魅力は『ストーリー・キャラクター・描写』の三つに分けられるわ。三つ全てが完璧に揃っていれば、それはとても素晴らしい小説だけれど、中には三つのどれかに特化している作家さんもいる。そういう人たちは、どれか一つできれば良いという訳でもないから、三つ全てである程度の質を確立した上で、読者を惹きつけてやまない何かを拵えているんだと思う」
「なるほど。確かに、今まで読んできた小説の中でも何作かそういうイメージができる」
「けれど、ゴミ……後藤くんの小説はどれも平均値なのよ。全てが優れても劣ってもいない。だから、読んでいてつまらないし、退屈なのよ」
「耳が痛いけど、言いたいことはわかる。というか、今お前、オレのことをゴミって言ったか?」
「話の腰を折らないでちょうだい。例えば、キャラクター。ストーリーの添え物のようで、説得力がないのよ。セリフが本当にセリフのようで、キャラクターの息遣いを感じない。優れたストーリーと描写の邪魔になってしまうのならやむを得ないけれど、そんなこともないでしょう、あなたの小説は」
「…………」
悔しいが、ぐうの音も出ない。彼女が傍に置いた束を引き取って、再度自分の小説をザッと見直してみたけれど、読みやすくても味気ない。プロの、今までに読んで面白いと思った小説ではおよそ抱くことのなかった感覚だ。彼女に小説を見せる前に心の底にあった満足感のようなものは、「小説を書き終えた」という達成感が創り出したまやかしだったのかもしれない。僕を騙せても、高嶺未雪は騙せない。




