お願い
虫だのゴミだの罵られてもめげずに声をかけ続ける僕だが、彼女は本の方を向いたまま、「ナンパなら他所でやってくれる? 私は容姿だけで邪な好意を向けてくる輩が嫌いなの」と、すげなく返されるだけだった。
「違う違う。オレはそういうつもりで声をかけたんじゃあない。オレは……」
「ああ、待って。先に言っておくけれど、場所を移して一緒にお茶でも行かないか、というのもなしね。よく知りもしない男と出歩けるほどに、私は貞操観念が緩くないから」
「だから、違うって言ってるだろう。ナンパを警戒し過ぎじゃないか。ここで良い。ここで良いから、見て欲しいものがあるんだ」
「一体何を露出するつもりなのかしら。大胆なものね。他にも人がいるというのに」
「露出って言うな。変態行為みたいだろうが。高嶺、君、オレをからかってないか?」
「面白いわ。落ち着いて読んでいられるもの、……この小説は」
……ここまで性格が捻くれた奴だとは聞いていなかったぞ。こちらから声をかけておいて何だけど、これ以上話をしているのも不快だ。ただ、何も得られずにすごすごと引き上げるのも虚しい。言うだけ言ってみよう。
「オレの用は……君にオレの書いた小説を読んで欲しいってことだ」
僕がそう言うと、本のページを捲りかけていた彼女の手が止まった。顔がぎこちなく上がって、訝しげな表情で僕を見る。
「はい?」




