vs.東方の巫女Ⅰ
国立聖域学園。 さまざまな学生たちが日々の勉強に勤しんでいる。
新しい年度の4月になり、新入生は真新しい制服を身に纏ってその学園の門を通る。
ピンク色に染まった木々が歓迎する大きな道。
その中に一人、新入生に混じって歩く一人の青年はその青空を見上げた。
視界に映るその広々な青に何を思っているのかなど誰に分かったものではない。
がらがら、と半円形になっている教室の内側から入ってきたのは、その担任である可愛らしいということで有名な白衣を身にした教師と、その後につられて足を踏み入れた白髪の青年だ。
階段状の横幅が長い席で賑やかに話していた生徒たちは初めてみる顔の彼を見ては”あれは転入生?”などと隣の席のクラスメイトとひそひそと声を立てている。
生徒の数も、国立という名前の規模の大きさから多く、6歳から24歳までの少年少女が在籍していることもあり同じ学年でも知らない生徒は当然、いる。、
それにしては、新しい学年になったばかりの4月にもかかわらず、すぐに転校してきたというのはどういうことなのだろうか。 飛び級というのも存在はしているが、あまりにも事例が少ないので生徒たちは転入生だろうと考えているようだ。
なかなか静まらない生徒たちの小さな声に、担任の教師は軽く手を二回叩いては”はいはい、静かに”と告げては、そのまま続けた。
「新しい学年になってからだけど今日からウチのクラスに仲間が増えます。 自己紹介してくれるかな?」
扇状な周囲を見渡しながらそう言ってはその隣に立つ彼に目を移す。 小さな返事とこくり、と頷いた青年は一歩前に出た。
身長、身体つきともに高等部二年男子の標準であり、目立つ点としてはやはり、白銀の髪色だろうか。 といってもこの学園の生徒はみな個性を強調しているかのように人それぞれの髪色をしているため珍しくもないのだが。
「僕の名前は新田輪廻。 宜しくお願いします」
たったそれだけのつまらない挨拶ではあったがぱちぱちと彼の隣で拍手するマスコット的な担任に生徒たちはつられて手を鳴らした。
自己紹介に緊張していた彼はその拍手に慌ててお辞儀をする。 どうやらあまり慣れていないのか何度も何度も頭を下げている。
「端末はもう支給されたんだよね? 覚えてもらえるようにプロフィールを出してもらえるかな?」
端末というのはこの学園で扱われている通話などで互いにやり取りができる通信や図書館などを利用したり授業中の出席などを確認するための個人情報が記録されている機器のことだ、
機器であるため手のひらサイズのしっかりとしたモノもあれば、アクセサリのようにコンパクトなものまで色々とあり、輪廻と名乗った生徒の場合は首に巻かれた白のチョーカーらしきものが彼の端末ではあるのだが、彼はなんのことやらというよな顔で教師へ首を傾げた。
「……えっと、プロフィールってどう出すんですか?」
その場にいるほとんどの人間がもちろん可愛らしい先生も、ぽかーんと口を開けそうになるのもわからなくはない。
なぜなら、端末の役割としては各教育機関がそれぞれの子供たちの管理や情報共有を簡易化、素早く、効率良くするのを目的として開発されたモノであり、端末は中学に上がる前までには必ずというほどに扱うはずなのである。
プロフィールなど物心がついたばかりの子供でも表示することはできるというのに、彼は端末の扱い方を全く知らない様子だ。
端末を扱ったことがないというのは端末の配給が届いていないほどの田舎に住んでいたのか。
それとも……。
「お、おお、お前……もしかして、スパイだったりするんじゃないのか!?」
一人の男子生徒が声を荒げて席を立った。
その言葉に”えーっと?”というような表情がまるで惚けているかのように複数の生徒に映り、再度、小さく噂話が始まった。
あははとなんのことか分からなく苦笑いを浮かべている隣の転入生を見ては、なんであれ自分のクラスの一員となるのだから守ってあげないと、と心の中で思う担任は同じようにして生徒たちの注目を集めた
。
「ちょうど、ウチの学級委員長の横が空いてるから其処を使ってもらっていいかしら。 舞姫さん大丈夫?」
話を切り返した担任の言葉の先にいたのは壇上側から見て右手中央の窓側。 黒に近い茶色と紅い瞳をした少女だった。
髪は黒髪のロングで左には赤い羽根の髪飾りがつけられており、何処か古風を感じさせるようなそんな印象を輪廻は受けた。
彼は目線が彼女と合えば、どうも程度の浅い挨拶をするも、彼への返しを何もすることなく無視をしては教師へと目を向けてはこう告げた。
「大丈夫というのは彼のーー新田輪廻さんが私の隣に座ることですか? それとも、面倒を見るということでしょうか?」
「もちろん、学級委員の仕事だから校舎とか案内したりとかの意味よ。 授業が始まるまでの一週間のオリエンテーション期間中ね」
彼女の顔つきが少しばかしだが強張ったように輪廻は感じて、迷惑をかけないようにすぐさま、一人でも大丈夫だと口に出そうとしたのだが、直後に学級委員長が先に口を開いた。
「わかりました。 オリエンテーション期間だけですからね。 それ以降は自由にさせていただきます」
転校生である彼とは目を合わせようとしないのが怖いところではあるが、とりあえず輪廻は指定された席へと向かい、相手の機嫌が損ねないように弱弱しく"宜しくお願いします"と言ってから彼女の隣に座るも、もちろん彼女からの返答はない。
そんなもやもやとした気分でこの先の生活は大丈夫なのだろうか、と心の中で嘆きつつも、其れとは裏腹な青空を憎らしく眺めた。




