0-1 終
その日俺は夜の街へ繰り出していた。
親は放任主義で、勉強やら運動やらをきちんとこなしていれば特に何も言われない家庭だった。父親はカメラマン、母親は雑誌の編集者で家にいないことが多い。
小さい頃に遊んでもらった思い出はあるが小学校3年になる頃から一緒に遊んだり、一緒に出かけたりってことが少なくなっていった。
自分で家事したりバイトしたりしながら過ごしてきた俺。高校生活最後の夏休みに入りハッチャけていたのだ。
友達に誘われるまま初めて深夜まで遊んだ。帰り道、ふと時計を見ると日付が変わるちょっと前くらいで、流石にまずいかと思い、帰宅を急いだ。
そのせいだろう。あまり周りを見ていなかったのだ。家に近い交差点をまっすぐ行こうと思い、信号を渡ろうとすると突然軽い衝撃と鋭い痛みが襲った。
左の脇腹からだ。そこを見るとサバイバルナイフらしきものが腹に深々と刺さっていた。
「え?」
ナイフを刺してきた相手の顔をゆっくり見ると、その顔はおおよそ普通と言える顔ではなく、血走った目と荒い息、やせ細った顔からは狂気を感じられた。
「やめろよっ!なんで俺が……!」
そう言うとそいつはニタァッと口角を上げ笑った。
「ひっ!」
あまりの恐怖に変な声を出し、その場で固まってしまう。
「ぁぐっ…」
また腹部に痛み。どうやらナイフが腹から抜かれたらしい。?どうしてこんなに冷静なんだ、ふと自分に対して違和感を感じる。
今俺死にそうなんだよな?そんなことあとで考えればいいや、とにかく今はこいつをどうにかしないと!
そう思った俺は血の出る腹を抑えて、相手を睨んだ。
どうするどうするどうする相手は薬かなんかで狂ってる、腹を刺されて死にそうな俺に何が出来る。考えろ考えろ!死にたくないんだろ!
一つの案を考えついた。
きっとこれをやれば生きれる可能性は下がるんだろうな。それに運の要素が強すぎる。
まあ、いいか。自分のことだからかどうにもそろそろ死ぬんだ、ということを自覚してしまう。こんなふうに冷静にいられる俺もあいつみたいに何処かオカシイのかもしれない。
立ち上がってあいつの動きを見る。
フラフラとした動き、ヨダレのたれた口、血走った目、痩せた顔、筋肉などないように見える体。
そいつはナイフを構えてこちらへ襲いかかっていた。
きたっ!
あいつが刺してくるであろうところに左腕を置く。
「ぐぁっ!」
腕に刺さるナイフ。でも!
「捕まえたッ……!」
そう言う俺の顔は笑っていたのだろうか。
あいつがビクッとしたのが見える。現状最高の力であいつの手を噛む。あいつの手なんか噛みたくなかった。でもしょうがないんだろう。
あいつの手から離れるナイフ。
腕に刺さってそれを抜き、右手で構える。
「うわああああああああああああああああああああああああああああっっ」
それは痛みから来る叫びか自分を鼓舞するための叫びかあいつへの怒りか。
もうわからなかった。ただ、俺はナイフを持ちそれをあいつの胸に突き刺した。
そこであいつに覆いかぶさるように俺は倒れ込んだ。
あぁ、死ぬんだな。体が冷たくなっていく。もっと遊びたかった。もっと学びたかった。もっと一緒にいたかった。もっと生きたかったっ!
「くそっ」
最後にそう言って俺は一生を終えた。
享年 17歳 高校3年 蓮沼 君音
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝、一人の男子高校生と一人の無職男性が死体で見つかった。遺体は血塗れで男性の胸にはナイフが突き刺さっており、男子高校生は男性に覆い被さるようになくなっていたという。
男性からは薬物反応が出ており、男性に襲われた男子高校生が必死に抵抗し、男性にナイフを突き刺してそのまま亡くなったようだ。