永久の呪縛 共通①
大都市に聳える深淵下層歌劇場には数多の人間が、孤独を埋めるために集まる。
素顔をベールで隠し、彼女が何者か、誰も知らない。
スポットライトが、歌台を照らす。歌を紡ぐたび歓声が上がり。
「君の記憶<データ>を喰べた<インストール>
愛も必要ないただの脱け殻同然なんだ
わたしの心、ノゾキこんだらすぐ壊れるよ
君に願われたら、叶えてあげる
たとえそれが、誰かを殺めることだとしても―――」
次々虚ろな目を浮かべ、ただ魅入られる者達。
「“君の為なら、惜しくはないんだ”
“この命も、魂も、全て捧げよう”」もうだれも、まともな意識をしていない。
「“だから最後に、君の心を奪うから――――”」
ただの傀儡と化す。けれど何故、あの男は真っ直ぐ綺麗な目で私を見ている。
呪詛の力を孕んだ歌が効いていない。
男はただこちらを見ている。
―――しかし犠歌の儀式は一通り済み、後は成果を聞くだけだ。
●
ライブを終えて、すぐに組織へ帰還。そのままソファへ倒れこんだ。
私の仕事は人間の魂を集めるボスの為に歌で人間を操り、自ら死なせてから回収してもらう事。
彼はなんのために人間の魂を集めるのか、それはわからないし私達が直接手を下して殺してはダメだという。
私はなぜかわからないけれど、かまわないしボスの命令は絶対だ。
直接手を下さなくても罪悪感はあっても命令は絶対でそれ以外は考えてはいけない。
逆らえば死よりも恐ろしい地獄が待つのだ。
「リル・レーガ」
同僚にあたるアダージェに呼び止められた。
「……なに?」
「お前今日はかなり無理をしたんじゃないか」
彼は心配そうに、額に触れ熱をはかろうとしている。
「……さわらないで」
私の身体には歌うことで進行する呪詛がかかっており、彼に悪影響が及ぶ可能性もある。
それに止めても休んでも消えたりしない。病ではないので身体には変化がないが歌い続ければ死ぬ。
「大丈夫よシャープナーバ星の人間は、死んだら楽譜になる。だから怖くはないの」
彼がいいかけた言葉はきっと、黒き歌姫を辞めろという事だろう。
「死にたいってんなら好きにしてやれよ」
同僚のレデルニーはケラケラと笑いながらこちらへ近づく。
「貴様!」
「シャープナーバ星人は死んでも楽譜になる特性があるから心配ないって、事実っしょ?」
「彼女は好きで死にたいわけじゃないだろう!!」
アダージェは彼と仲が悪く些細な挑発でも頭にくるようだ。
「わたしのためにあらそうのはやめてー」
一瞬だけ争いが止まったが、引き続き始まる。
「はいはいやめなさい二人とも」
手を叩いてふたりの喧嘩を諌めたのは上司オルバリンだ。
「今回の任務についてボスが呼んでるから、皆で魔王グラーベの城へいきましょう」
彼に連れられ私達はボスの部屋へ通された。
「よく来たな」
黒い髪、低めの声、葉巻を吹かせた男。
名をシイアン=チャンファン。
組織のボスで、すなわち私達の絶対主だ。