歌姫追放 共通①~voice
“歌姫を追放する”
親のいない少女は歌だけで生きていた。少女は名もなき美しい歌姫で歌の国、シャープナーバで唯一の歌姫として活躍していた。
国でたった一人しかなれない歌姫になったというほどの、それだけの歌唱力のある少女はなぜ国から追放されたのか、少女は罪を犯したわけでもないというのに―――――
少女は泣きながらシャープナーバを去る。
追放されて、途方に暮れながらもなんとか生きていこうと決めて。
歌以外何も出来ない少女は歌い続けて命を繋ぐ。
少女は自分が追放された理由を知ろうとはしない。
「聞いたかい?シャープナーバの新しい支配者の話は」
「ああ、クーデターだったらしいな」
町の人々が話題にしている元故郷で内乱がおこったようだ。
しかし少女は自分を廃した国がどうなろうと気にとめない。
家族のいない彼女には今いる場所が故郷であったからだ。
「自分より支持の高い奴を全員始末したとか聞いたぜ」
「中には国唯一の歌姫がいたとか…」
国唯一の歌姫と聞き、それは自分のことではないか、少女は耳をそばだてる。
「そこに誰かがいるぞ」
誰かに見つかりそうになったその時、私の意識は途絶えた。
「桜多木~」
誰だろう私を呼ぶのは。
私は一体誰なのか、ここがどこなのかまったくわからない。
唯一覚えているのは私がウタヒメと誰かに呼ばれていたことだけだった。
「…だ」
いま、誰かがいた気配がした。
だけど私は目を閉じたまま。
「なあ、お前、歌は得意か?」
声をかけられて、ゆっくり目を開けると、周りに知らない人達がいた。
「ウタ?」
ウタヒメと響きが似ている。
なにか関係があるのだろうか。
「今バンドのボーカルを探してんだが、学園の奴全員に引き抜きテストしてんだよ」
私はなぜか怖くなった。
木に寝ていた私は、飛び上がり疾走した。
どこもかしこも四角くてわけのわからない建物ばかりだ。
「あ、そこの娘さん、待つでござる」
金の髪に長い耳、頭に奇妙なリボンのようなものを巻いている。
「…むすめ?」
私は彼の子ではない。
確信はないのにそう感じる。
「あ、ごめんいつものクセで…秋葉用語は通じないか?」
「貴方は誰…私は誰…」
だめだ混乱してきた。
「前世…というか肉体が生まれ変わったわけではないか、君はある国で歌姫をやっていたよな」
「わかりません」
ウタヒメと呼ばれていた感覚はある。
だが、その国や風景はまったく覚えていない。
「うーん。時空移動のせいで記憶が曖昧になったんだな…」
「貴方は一体?」
「俺?俺はオンガァル、音楽を司る楽譜の精霊さ」
オンガァルはパチリと片目を閉じて、指をL字にした。
「はあ…」
「普通は精霊って言われたら驚かない?」
「精霊が何なのか、私にはわからないので」
精霊はなにが人と違うのだろうか、ただ耳の形が違うだけでは?
「覚えてないだろうから言うだけ言うよ。君、あのままあそこに留まっていたら殺されてたよ」
「そうなんですか」
「だからさ、あの時代で君が出来なかった、君を追放した奴を今の時代でし返しさせて上げたいな~と思って、力を貸したんだ。迷惑だった?」
命を助けられたことを迷惑かと問われ、迷惑であるなど言えるはずがない。
「いいえ」
何も覚えていなくても、今はただ生きることを選ぼう。
「どうお礼をしたらいいのですか?」
「お礼なんてモノいらないけど、歌姫なんだから歌でも唄ってよ」
「はい…断片的ですが…“私の夢からつらさだけを”“消し去ったならなにものこりはしない”」
「うん、さすが。変わらないね」
「あ、いたよ!」
「よし、お前がボーカルな!!」
なぜそんなことに!?
「俺の耳はごまかせない」
「ベイ・クーリーはどんな小さな音でも聴こえるんだ!」
「なんでギラスタンが威張るの」
「僕は…」
3人は何故か私をボーカルにしたいようだが、一人意見がある様子の人がいる。
彼等は仲がいいように見える。
実質的な部外者の私が、いきなり彼等の仲間になどなれない。
マタツイホウサレテシマウ
「私はあなた方の仲間にはなれません」
私はふたたび逃げた