終わるとき、さみしくて。
「あ、もう切らなきゃ…。」
少し、焦ったような彼の声。
どうやら、この電話を終わらせなければならない時間がきてしまったようだった…。
もっと、続いて欲しかった…。
思わず口走りそうになった言葉を飲み込み、彼女は言った。
「そっ……か。」
それしか、言えなかった。
わがままを言ってはいけない。
こうして、声を聞けただけでも十分なのだから。
そんな彼女の葛藤を知ってか知らずか。
「ごめんな。」
そう告げてきた、彼。
彼女は、見えないとわかっていながらも首を横に振った。
「ううん。ありがとう。電話…してくれて。」
これから先。二人は当分会えない。
……といっても、二週間程度。
だが、二人にとっては、長い長い二週間だった。
「……なぁ、ゆう?」
葉が由羽の名前を呼ぶ。
名前を呼ばれただけで、その後にどんな言葉が続くのか。
何となくだが、二人とも分かっていた。
「……なあに、ようくん?」
由羽も葉の名前を呼ぶ。
その声は、僅かにふるえていた。
携帯電話をぐいっと耳に押し当て、彼の言葉を待つ。
「この前の…デートでも……言えなかったからさ…?」
「うん…。」
彼の声が、耳から心に届く。
全身に伝わっていく。
「ゆう……大好きだよ。」
ふっ、という吐息、息遣いさえも彼女を甘く痺れさせた。
「あっ……。」
「どうした?」
「な、何でもないのっ!気にしないで、ね?」
心配している様子の彼の声に、かぶせるように彼女はまくし立てた。
「なら…いいけど…。」
訝しげな彼の声に、失敗した、と痛感する彼女。
申し分程度に息を吸い、呼吸を整えた。
「よ、うくんっ。」
また、少し失敗してしまった…。
でも、彼にはバレていないのか。
「ん、何?」
という、優しい声が聞こえてきた。
「好き。」
言えた…。
そのことに安堵し、ため息をつく。
「ありがとう。」
声が聞こえてくると、それと共に彼の笑顔も浮かんできた。
「私…からも、ありがとう。」
「うん…じゃあ、ね。おやすみ、ゆう。」
「うん…。おやすみ…なさい、ようくん…。」
自分からは切らずに、彼が電話を切るのを待つ彼女。
しばしの葛藤の末、仕方なく電話を切る彼。
会いたいのに…会えない。
もどかしい気持ちが、二人を苦しめていた。
ツー、ツー。
いつまでもその音に耳をすませ続ける彼女。
段々と悲しくなっていく。
「好き…ようくん。大好き…。」
ぽつり、呟く。
独りきりの自室に、消えていった。
彼も、こんな気持ちなのかな…?
自分を、思ってくれているのかな…?
そんなことを考えつつ、ベッドに入り、電気を消す。
「せめて…夢の中で会えたら…。」
ただ、ただ願い、彼女は目を閉じた…。